十四話
【陽光満ちる光剣】を握るグレンに、銀色に輝く人形が斬りかかる。
繰り出される太刀は速く、鋭い。自分や雄斗よりは未熟だが、閃光や稲妻を切り裂ける剣筋だ。
それをかわしグレンは剣を振るう。より洗練された神域の剣は人形の胴を断ち、二つに分かれた体が炎に包まれる。
しかし安堵はできない。攻撃の直後を狙ったのか、先程とは微妙に作りが違う槍を持った鉄の人形が刺突を放ってきたからだ。
倒した人形と同じ、神をも射抜く技の冴え。流石のグレンも攻撃直後とあっては回避はほぼ不可能だ。──神威絶技を使わなければの、話だが。
「|晴光に我が身は包まれる(ラップ・サンシャイン)」
穂先がグレンの頭部を貫通する。しかし出血はない。貫かれた場所も揺らぐがすぐに元通りとなる。
神威絶技【晴光に我が身は包まれる】。短い時間、自身を光と化し、物理攻撃を無効化する技だ。
一瞬動きを止める槍を持った人形。そのわずかな隙をグレンは見逃さない。【陽光満ちる光剣】を二度振るい、四つに両断する。
しかしグレンの攻撃はそれで終わらない。二体の鉄人形の後ろにいる三体目の鉄人形と、その主である金髪碧眼の童顔男性──【真なる世界】の最高幹部、【十導士】が一人、テオドリック・ノルドーイ・ヒルデブラントに向けて、神威絶技を放つ。
「焔撃」
グレンの全身より放出される炎の濁流。それがテオドリックと彼を守るようにいる鉄人形を飲み込む。
神威絶技【焔撃】。全身より強力な炎を発する技だ。単純だが威力はグレンの神威絶技の中でも上位に位置し、瞬間的に使えるという利点もある。
「やれやれ。僕の分身ともいえる戦士たちをこうもあっさりと倒すなんて。
さすがは将来、【七英雄】を継ぐと目されているだけのことはありますね」
その言葉と共にグレンの目の前で吠え盛る業火が中から発した雷撃で吹き飛ばされる。
姿を見せたテオドリックは軽い火傷を数か所負っている以外の傷はない。また彼の左手には紅の盾があり、そして彼の周囲には先程倒した鉄人形たちの姿もある。
あの赤い楯こそヒルデブラントが持つ神具【戦血刻む紅盾】。【ユグドラシル】より得た情報通り、鋼の兵隊たちを生み出す能力を持つ伝承神具だ。
「そちらこそ【焔撃】を受けてもその程度。しかも先程倒した人形を即座に再生させるとは。
【十導士】に名を連ねているのは伊達ではないといったところか」
「やめてくださいよ。今の僕は【十導士】最弱です。大したことはありませんよ」
微苦笑するヒルデブラント。嘘が全く感じられないそれを聞き、グレンは数秒、心胆が寒くなる。
グレンは一度だけだが【十導士】と戦ったことがある。あの戦いでは終始圧倒されほとんどダメージを与えることもできず、左足を断たれた。
その相手と比べれば彼は弱い。だが彼の言う通り今の話だ。グレンの戦士の直感が彼がまだ力を隠していること、ヒルデブラントの言葉が真実であることを悟っている。
(今の、か。全くあとどれぐらいの強者がいるんだか)
【真なる世界】についての正確な情報は少ない。彼らは少数であることや【欲望の輩】と違い下位の構成員がほとんどいないことや、ラーマを始め活動する者たちは一筋縄ではいかない実力者ばかりであること。そして正体不明の魔術により記憶を操作されているからだ。
過去に下位の構成員を捕らえたこともあるが様々な手段で尋問しても本拠地や構成員など全く分からなかった。
最高幹部の【十導士】も全員の素性は明らかになっていない。確認されているのはラーマ、イシュタル、蚩尤、テスカトリポカ、アポピス、そして今戦っているヒルデブラントの六名。組織の長である盟主という存在も全く不明だ。
ただ、明らかになっている数少ない情報の一つに、【十導士】の強さがある。彼らは複数の神々を相手取れる、圧倒するほどの強者だということ。
「さて、申し訳ありませんけど。もう少し付き合ってもらいますよ」
ヒルデブラントはそう言って右手を軽く振るう。その合図で三体の鉄人形が一斉にグレンに向かってきた。
グレンも短く一呼吸し迎え撃つ。神威絶技を用いて幾度か鉄人形たちを倒すも、彼らはすぐさま修復されて向かってくる。
【焔撃】を放ってみたが状況に変化はない。鉄人形たちや天津製鉄のゴーレムたちは破壊されてもそれ以上のスピードでヒルデラントによって生み出され、壁となって阻む。
(明らかな時間稼ぎ。俺をここに釘付けにするつもりか……!)
ヒルデブラントたち【十導士】が一斉に襲い掛かってきているのはすぐにわかった。何せ先程までエンリルと戦っていた島からは神クラスの強大な魔力が複数、感じられるからだ。
マリア、ルクス、晴之。そして彼らと戦っているであろう【十導士】。おそらくその三者と渡り合っているのはあのラーマだろう。
多元世界【ヴェーダ】出身。そして全世界の当代の神々の中で最強の一柱と目されている天才であり怪物──。
(互角、いや押されているのはここにいてもわかる。
だが助けには行けない……!)
眼前の相手は現状そこまでの脅威を感じないが、それでも【十導士】だ。状況を一変させる術を持っていてもおかしくはない。
【神解】状態になれば撤退には追い込めるかもしれないが、間違いなくグレンも消耗し負傷する。そしてそこに新たな【十導士】がやってきたら最悪、自分の命と神器、両方を奪われる可能性もある。
それに要塞内外にはまだ襲撃に対応できてないものや傷ついたものもいる。彼らのために難敵をここで引き付けておく必要もある。
(要塞内には雄斗君に雪菜、尊正さんもいる。
三人が協力すれば並大抵の相手はどうにかなるはず……)
とそう思ったその時だ、要塞内から巨大な魔力が発生したのを感じる。
一つは覚えがある。雄斗が【万雷剣群】を発動した時のものだ。
そしてもう一つ。こちらは覚えがない。だが感知した瞬間、それが最低でも神クラスであることをグレンは悟る。
雪菜ではない。彼女は【掌握】に至っていない。尊正とも違う。
つまり要塞内にいるもう一つのそれは、要塞内にいる敵。そしてその敵と雄斗が接触した。
おそらく目の前のヒルデブラントと同じ、【十導士】──
「やれやれ。武蔵の奴、念願を果たしたことでテンションが上がっているのかな」
呆れ顔で言うヒルデブラント。彼の言葉を聞き自分の勘が当たったことにグレンは歯噛みする。
が、それも数秒。要塞内にも【十導士】がいるのなら出し惜しみしている場合ではない。
すでに神器は強奪されているのかもしれない。だがそれだけではなく雄斗たちの命まで奪われるわけにはいかない。
「我は陽光に愛されし鷹。太陽の申し子であり大空の王。
世界を包む輝く翼はあらゆるものを守り、眩い日輪の輝きで作られている爪牙は無双の剣となって敵を撃つだろう」
言霊と共にグレンの体が輝きだす。空から降り注ぐ陽光が強くなる。
「我が光の下に悲劇や悲しみはない。我が煌めきの前にあらゆる害意や敵はない。
なぜならば我が放つ輝きこそ全てのあまねく人々を守り、平和と安らぎをもたらすのだから」
体が熱くなる。日差しのように暖かく、しかし火のような熱さが全身隅々までに伝わっていく。
「我は天道を往く猛禽。輝ける空の覇者なり。
【神解】。──【陽光鷹王の守護騎士】」
言霊を紡ぎ終えると同時、莫大な魔力が体に満ちる。
そしてグレンの総身を黄金の全身鎧が包む。背部には輝く光翼、頭部には鷹を模した兜が出現する。
これが紅蓮の【神解】。【陽光鷹王の守護騎士】だ。
「これがあなたの【神解】……! なら僕も出し惜しみしている余裕はなさそうですね。
──振るえ槌を。舞え焔よ。靭な鋼を生むために。戦場を制するために」
グレンが放つ圧倒的な魔力と輝きを前にして、ヒルデブラントも穏やかな童顔を死線を潜った戦士のものへと変えて詠唱を始める。
「飲み込むすべては溶け、我が手によって武器として生まれ変わる。
天を割く剣、地を砕く槍。我が御手に生み出せぬものは無し」
ヒルデブラントが持つ盾より噴き出す炎。それは彼が生み出した鉄人形とゴーレムの残骸全てを飲み込み、赤と鉛色の巨大な球体となる。
「我は戦場をかける打ち手。屍山血河の征野こそ我が鍛冶場なり」
そしてその球体がヒルデブラントの元に向かい、彼を飲み込む。
直後、詠唱が締めくくられた。
「【神解】──【鉄炎打つ鋼巨人】」
グレンの眼前に出現する全長3メートルほどの鋼の巨人。両手には剣と盾を持っており、体の各所から炎を噴出している。
『さぁ、行きますよ!』
巨人の中からヒルデブラントの声が響く。直後、巨人はその巨体から想像もできない速さで踏み込む剣を振るってきた。
繰り出される神すら切り裂く閃電の太刀。それをグレンは紙一重でかわし懐に入ると巨人の体を切りつけ、巨人の股間を通って背中を取る。
瞬きする間に三連撃。手ごたえはあった。だがこちらを振り向いた巨人は堪えた様子はなく、斬撃を入れた部位も炎が噴き出すと瞬く間に消えてなくなってしまう。
再び切り結ぶ両者。だが経緯と結果は同じだ。巨人の剣戟をグレンは全てかわし、グレンの剣戟は鋼の巨人を切り裂くもすぐさま再生してしまう。
「【剛炎爪】!」
「【嵐鉄】!」
グレンが放つ、猛禽の爪が如き莫大な炎の斬撃に対し、ヒルデブラントは一瞬で生み出した数十もの鋼の武器をぶつけて相殺する。
接近して仕留めようとするグレンに対し、ヒルデブラントは徹底的に距離を取っては防戦に回り、遠距離から攻撃を放ってくる。
また生み出される巨大な盾や無数の鉄人形がグレンが放つ攻撃を阻み、狙撃銃や弓矢を持った鉄人形と先程の【嵐鉄】などがグレンに向けて飛んでくる。
【神解】してもなお、ヒルデブラントはグレンを引き付ける気満々の動きを見せている。だからこそグレンはただひたすら剣を振るって前に突き進む。
「【五光鷹刃】!」
立ちはだかっていた巨大な盾を両断した直後、グレンが放つ五つの閃撃。
それはヒルデブラントの体を包む鋼の巨人に激突。防御態勢でそれを受けた巨人だが、それでも後方に吹き飛ぶ。
閃撃の当たった部位は砕けているものの傷は深くはない。そしてその部位が急速な速さで治っていく。
追撃しようとするグレンだが、巨人はお返しとばかりに巨大な鋼の鉄柱を驟雨の如く放ってくる。それを焔で溶解し突き進みながらグレンは思う。
(【神解】状態の僕の神威絶技でも攻めきれないとは……! ユグドラシルの英雄神ヒルデブラント。戦士でありながら高名な鍛冶師と聞いてはいたが噂以上だ……!)
九つの大地を持つ多元世界【ユグドラシル」の英雄神ヒルデブラント。
戦士であり鍛冶師でもあるかの一族が生み出す武器はどれも名作ぞろいであり、今までも多くの戦士や兵士、神々にも気に入られていたという。
もっとも一族が住んでいた町は数年前、最凶の【異形王】に滅ぼされており、かの一族も滅ぼされてしまったそうだが──。
(おそらく彼はその生き残り、先代の息子なのだろう)
【ユグドラシル】から得た情報では一人息子がいたと記録されている。名前も同じテオドリック。
最初名を名乗られた時は疑念を抱いていたが、今となってはそうであると確信している。若輩とはいえグレンもガウェイン神の直系であり【ティル・ナ・ノーグ】における神々の中では上位に入る実力者だ。
その本気をこれだけ凌ぎ反撃してくるのだから、さすがは【十導士】。だが──
(僕の【神域】はまだ不完全。だが発動すればおそらく倒せる。
けれど代わりに僕も力を使い果たし皆の助けには行けない。とはいえこれ以上時間をかけていられない……!)
再び修繕されて起き上がる巨人。両手に武具を握り、周囲に無数の武器を出現させるのが目に入るがグレンは動じず、【陽光満ちる光剣】を大上段に構える。
淡い光を放ち輝く刃。そこにさらに光が集まっていく。雲から差し込む光はもちろん周囲の輝きもすべてがだ。ヒルデブラントの炎の煌めきさえも。
『これは……!?』
結果、周囲は暗くなる。そしてその闇の中、グレンの神具が放つ光のみが放つ唯一の光となる。
「【日輪剣】」
暗闇の中グレンは呟き、ヒルデブラントとの間合いを詰める。
振り下ろされる剣戟を防ごうと鋼の巨人は腕を振り上げるが、輝く斬撃は何の抵抗もなく腕を切り落とす。
『……!』
ヒルデブラントが驚くのを感じながらグレンは【陽光満ちる光剣】を立て続けに振るう。
グレンが繰り出す光速の剣戟をかわし、反撃する巨人だが、そのことごとくをグレンの剣は切り裂く。断たれた部位の再生速度は目に見えて遅い。
神威絶技【日輪剣】。一定の周囲にある光全てを強制的に剣に収束し続け、刃に宿った膨大な光量と熱によってあらゆるものを切り裂くことを可能とする絶技だ。
技の特性上、これを使用している間は光や炎による遠距離、大規模攻撃は行えない。攻撃範囲も剣の間合いに限定される。
だが威力は絶大だ。これに断てないものはこの世にほぼ存在しない。ガウェインと同じ太陽神や光の加護を受けた神でもあっても、収束されている光の刃で切り裂かれて無傷ではいられない。
ちなみにこれは【神解】状態でないと使えない神威絶技の一つだ。限られた範囲とはいえ常に周囲から光を集め続け切れ味を維持することはグレンといえども困難を極めるのだ。
ヒルデブラントも先程のように鉄人形を生み出しては壁としたりグレンを挟撃しようとするが、【日輪剣】の斬撃は一太刀で複数の鉄人形を粉砕。瞬く間に邪魔者だった鉄人形を破壊し再びヒルデブラントに接近、鋼の巨人を刻み続ける。
それでもしぶとく再生する巨人だが魔力が尽きてきたのか、その速度も遅くなる。それを見てグレンはさらに速く、前に出ると一瞬のうちに巨人の右腕、右足を両断。
体勢を崩した巨人の中心部──ヒルデブラントがいるであろう場所へ刺突を放つ。
「終わりだ」
神速であり光速。必殺必中の一撃を放ちグレンは勝利を確信する。
しかし次の瞬間、彼が感じたのは己の剣が敵の体を抉る感触ではなく、剣同士がぶつかる鈍い感触だ。
「な……!? それは……!」
防がれたそれを見てグレンは驚愕した。
何故ならば巨人の左腕が持っていたそれはこの世に二つとない彼の神具、【陽光満ちる光剣】だったからだ。
『やれやれ。ギリギリでしたが間に合いましたか』
安堵するヒルデブラントの声が聞こえるがグレンは巨人が握っている己の相棒に目を奪われている。
大きさこそ巨人サイズだが間違いない。敵が持つ【陽光満ちる光剣】は本物だ。グレン一個人として、そしてガウェイン神としての直感が告げている。
しかもグレンのそれと同じように眩い輝きを放っている。あの光は今まさにグレンが出にしている【日輪剣】そのもの──
「馬鹿な……!?」
そうグレンが呟いたその時だ。巨人の振るった剣がグレンの剣を弾き飛ばす。
そして振るわれる敵の剣。それに気づきグレンは後ろに下がるが遅かった。敵の斬撃は黄金の鎧とグレンの肉体を易々と切り裂く。
「ぐはっ……!」
吐血しながらも下がるグレン。そして近くの地面に突き刺さっていた【陽光満ちる光剣】を呼び戻す。
『【戦変なる焔鋼】。──眼前の敵が持つあらゆる武具を精製する神威絶技です。
見ての通り、神威絶技により強化された状態の武器も再現可能です。ま、色々と制約はあるんですけどね』
グレンが切り落とした部位を修復しながらヒルデブラントは見せつけるように、複製した【陽光満ちる光剣】をグレンに向ける。
彼の言葉を聞いてグレンは納得し、同時に怒りで頭が沸騰しそうになる。【陽光満ちる光剣】はグレンの半身というべき相棒。それを複製するなど断じて許せることではない。
「うおおおおっっ!」
怒りのまま斬りかかるグレン。しかし今度は互いの【陽光満ちる光剣】がぶつかり合うため、先程のように一方的に攻める状況にはならない。
またグレンには先程複製された【陽光満ちる光剣】の斬撃による傷がある。
傷口は重症というほどではないが浅くもないし、出血も止まらない。
「おおおおっ!」
『はあああっ!』
次第に戦いは単純のものへとなっていく。すなわち互いの武器を振るいぶつけ合うだけのものへと。
共に神域の武芸者。純粋な剣技となればグレンに分がある。しかし状況は互角。【日輪剣】を維持し続けることの多大な消耗と先程受けた傷が原因だ。
(この傷と痛みがなければ……!)
本来ならば受けた傷はすぐに治せる。だが【日輪剣】を維持し続ける現在、そんな余裕はない。
傷つく前の先程ならばそれ以外の行動──回復や光速移動による死角への移動──などはできていたが、現在は【日輪剣】とこれ以上傷が悪化しないため傷口への必要最低限の措置に残り少ない魔力を注いでいる。
一度でも回復しようものなら【日輪剣】は解除され、ヒルデブラントが持つ複製品がグレンごと本物の【陽光満ちる光剣】を両断してしまうのだろう。
だが拮抗していた状況は、唐突に終わりを迎えた。鋼の巨人が持っていた複製品が消えたのだ。
魔力枯渇により神威絶技の維持ができなくなった。直感で悟ったグレンはその隙を見逃さず間合いを詰めて渾身の斬撃を放つ。逆袈裟から斬り上げられた剣戟は鋼の巨人の巨大を綺麗に両断し、同時に人の肉体を切った感触も伝わってきた。
「ここまでですか……!」
崩れ落ちる巨人の残骸より飛び出してきたヒルデブラント。
グレンとは逆、右斜めの傷口が彼の体に刻まれておりそこから鮮血が溢れている。
「いい感じでしたが、ここで撤退させてもらいます。魔力切れなので」
「逃げられると思っているのか!?」
「思っていますよ。そちらもそろそろ限界でしょうし、僕だけに構っていることもできなくなるでしょうから」
口元の血糊をぬぐいながらヒルデブラントがそう言ったその時だ、背後から凄まじい破壊音が鳴り響く。
振り向いたグレンの視界に入ったのは要塞から噴き出す巨大な炎の竜巻だ。
「な……!」
「それではグレンさん、失礼します。
次会うときはお互い、武器を持たず会いたいものですね」
聞こえる別れの言葉。グレンはすぐさま正面に視線を向けるが視界に映るのは転移の輝き。
目をくらませた光が収まった時、そこにヒルデブラントの姿はなかった。
「くっ……!」
屈辱にグレンは表情を歪める。
まんまと足止めされ、さらには無二の相棒である【陽光満ちる光剣】の複製を作られた。【アルゴナウタエ】の一員として、【陽光満ちる光剣】の使い手として二重の恥辱だ。
だがそれに浸っている余裕はない。グレンは要塞へと踵を返すのだった。
次回更新は6月15日 7時です。




