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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
二章 嵐の後に花は咲く
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十三話






「なんだこれは……!?」


 全モニターのダウンに加え外側から響く振動を耳にしながら雄斗は【万雷の閃刀】を呼び出す。

 明らかに普通ではないこの状況。部屋にいるオペレーターたちはモニター回復や外側の情報収集に励んでいるが有力な情報は得られていない。


「グレンさん、どうしますか」

「僕が外に出て周囲の状況を把握する。雄斗君と雪菜の2人は尊正氏の元へ行ってくれ」

「ヤマトタケル様のところですか」


 先程の事を思い出し、思わず雄斗は眉根を潜める。

 それを見たグレンは微苦笑し、なだめるように言う。


「彼はこの要塞のトップだからね。彼に何かあれば僕たちはともかく、この要塞にいる大多数の人間が大きく動揺する。頼むよ」

「……わかりました。叢雲、行くぞ」

「はい……!」


 【木花霊剣】を手にした雪菜と共に部屋を出る雄斗。

 尊正がいるであろう指令室に向かう二人。しかし曲がり角を曲がろうとしたところで武装した魔導人形ゴーレムが姿を見せる。

 槍を手にした戦国時代の足軽のような恰好の魔導人形。しかし戦闘能力はそこそこある。

 そしてこちらを視認するや、手にしている槍を突き入れてきた。雄斗はそれを悠々とかわして懐に入り、一太刀で切り捨てる。


「ゴーレムが攻撃してきた!?」

「これで決まりだな。誰かははっきりしないが敵の襲撃を受けているのは間違いないわけだ……!」


 指令室に向かう途中、幾度かゴーレムと遭遇する雄斗たち。

 とはいえ二人の敵ではなく一撃で切り捨てられ、要塞内に魔導人形の残骸が転がる。

 待機室を出て数分、半開きとなっている指令室の扉が見える。中から剣戟の音が聞こえた雄斗は走る勢いのまま、室内に突入する。


「無事か!」


 部屋に入り叫ぶ雄斗。

 すると中では尊正と、彼によって切り捨てられた魔導人形の残骸があった。


「大和の叔父様。ご無事で何よりです……!」

「当然だ。ゴーレムごときに後れを取るものか。それよりもこの襲撃はやはり”真なる世界”の仕業か」

「そのようです」


 返事をしたのは部屋に入ってきた麗華だ。

 彼女も戦っていたのか、右手には呪符、左手には小太刀が握られている。

 無事だったことに安堵する雄斗。しかし尊正は厳しい表情となって、叱責の言葉を放つ。


「遅いぞ麗華! 主の危機にどこで何をしていた!」


 尊正のそれに雄斗は思わずむっとなるが、視線を逸らして堪える。

 一方怒鳴られた麗華は表情を変えず尊正に頭を下げて言う。


「申し訳ありません。つい先ほどまで要塞の出入り口付近におりました。

 周囲を見てきたところ、要塞正面に【しんなる世界せかい】の【十導士じゅうどうし】、テオドリック・ノルドーイ・ヒルデブラントを確認しました」


 麗華の冷静な声音から告げられた内容に雄斗たちは表情を強張らせる。

 【十導士】が一人、テオドリック・ノルドーイ・ヒルデブラント。多元世界【ユグドラシル】における英雄神、ヒルデブラントの後継者だ。

 ヒルデブラント。【ムンドゥス】の神話においては英雄神とあるが、【ユグドラシル】においてはそれだけではなく鍛冶神としての一面も持つ。

 とはいえそれ以上の詳細な情報は不明だ。何せ今まで最前線に出てきたことがなかったからだ。

 彼が【十導士】だと判明したのはおよそ一年前、他の【十導士】と共に行動をしていたことや、捕らえた【真なる世界】の下っ端より収集した情報からだ。


「グレン様が対処に当たっていますが要塞内外にいるゴーレムがヒルデブラントに加勢。

 またゴーレムはこちらからの制御を受け入れず無差別に暴れています。おそらくヒルデブラントが何かしらの細工をしたものかと」

「馬鹿な! 要塞内外にあるゴーレムは天津製鉄の最新鋭機だぞ! あり得ん!」

「ですが制御盤からの指示を全く受け付けません。もしくはヒルデブラントの神威絶技でゴーレムを操っているとしか……」

「おのれ……!」


 忌々しそうに表情を歪める尊正。

 十数秒ほど彼は考えこみ、口を開く。


「麗華。私はこれより要塞より退避する。護衛につけ」

「……。わかりました」


 尊正の言葉を聞いて雄斗は目を大きく見開く。そして彼に言う。


「ちょっと待ってください。退避って、逃げるんですか。まだ要塞には大勢の人がいるんですよ」

「私に何かあればそれこそ致命的だ! 私の安全を確保するのが混乱を収める最良手ということもわからんのか!」

「戦いながら指示を出せばいいだけだろう! 英雄神ヤマトタケルともあろうものが真っ先に戦場から遠く離れた場所に逃げて指示を出す?

 寝ぼけたこと言ってるんじゃねぇ!」


 怒号を上げる尊正に雄斗はそれ以上の勢いで怒鳴りつける。

 彼の言うことは正論だが、それが虚言に近いものであることは彼の目を見ればすぐに分かった。

 落ち着かない、怯えるような眼差し。これは自分の身を守ることのみを考えている者のものだ。


「神なら神らしく命を張れ! 混乱しきったこの場を収め仲間たちを可能な限り守るのがあんたの役目だろうが!」

「貴様……っ」

「無駄だぜ雄斗。そいつはそう言う奴だ。神の器量を持たないくせにそれに固執した、哀れな男さ」


 出入口より聞こえてくる声。姿を見せたのは先程あった武蔵だった。


「武蔵、無事だったか」


 麗華と同じく戦っていたのか、刀を肩に担いでいる。

 いや、あれは刀というより──雄斗が目をしばたかせたその時だ、尊正が裏返った声を上げる。


「きっ、貴様……! 生きていたのか!?」

「見ての通りだ。あんたに復讐するため戻ってきたぜ、兄貴・・


 にやりと、暗い笑みを浮かべ刀の切っ先を尊正に向ける武蔵。

 それに雄斗は驚きつつも、武蔵に問う。


「兄貴だって? それじゃああんたは……!」

風祭武蔵かざまるちむさし。それは今の名前さ。

 かつては大和武蔵やまとむさし、英雄神ヤマトタケルを継ぐ者と言われていたっけな」


 そう武蔵が言ったその時だ、唐突に優斗と雪菜の周囲が光り、身動きが取れなくなる。


「な……!?」

「これは結界術……!?」

「捕縛系の結界術だ。二人とも大人しくておいてくれよ。俺の用事はすぐに済む。──麗華、二人を見ておいてくれ」

「はい。武蔵様」


 頷く麗華。その顔は今まで視た無表情とはまるで違う、嬉しさに満ちた女の顔だ。

 そして手元には何やら複雑な文様が書かれた呪符がある。おそらくあれが雄斗たち二人を縛っている結界術の源だろう。


「麗華さん、あんた……!」

「裏切っていたんですか!?」

「勘違いをなさらないでくださいお二人とも。私は一度たりとも尊正の味方になった覚えはございません。

 私は今も昔も、愛する武蔵様の味方です」


 堂々と言い切る麗華。

 それに雄斗たちが呆気にとられた時、けたたましい金属音が響く。

 そちらを見れば斬りあっている武蔵と尊正の姿があった。


「ぬうっ……!」

「へぇ。少しは腕を上げたのか。でも、ほんの少しだけどな」


 武蔵に押され後退する尊正。彼はすぐさま体勢を立て直し剣戟と焔を武蔵に放つ。

 しかしそのどれもが彼に当たるどころかかすりもしない。そして逆に武蔵が放つ剣戟は全て尊正を取られ、あっという間に彼の体が傷だらけになっていく。

 ともに神域の技量を見せるも差は明らかだ。


「ぐうっ……!」

「雄斗様、ご無理をなさらないほうがよろしいかと。

 この結界術は【十導士】が一人、アフラ・マズダ様が生み出したもの。神々でも解くのは容易ではありません」

「行方知れずだったアフラ・マズダ様が、【十導士】!?」


 麗華に言葉に雪菜が驚愕の声を上げる。雄斗も驚いてはいるが、それよりも魔力を蓄積することに専念する。

 アフラ・マズダが構築したという結界術。一目見てどのようなものか全く分からないが、非常に強力なことだけはわかった。

 結界術の解呪といった魔術技能を持たない雄斗ができる唯一の解決手段は体内に大量の魔力を蓄積、それを爆発させて強引に結界術を破壊するしかない。つまり【掌握】だ。


(とはいえこの結界術の作用の一つなのか、魔力が溜まりにくい……!)


 普段なら念じた瞬間【掌握】に至れるが、結界術は魔力蓄積も阻害しているのか溜まる速度が普段の十分の一程度になっている。

 魔力が溜まるのを待ちながら周囲をうかがう雄斗。そんな中、武蔵の剣戟が尊正を吹き飛ばし、壁に激突する。


「がはっ……!」

「【草薙剣】、あんたごときにはもったいない代物だ。返してもらうぜ」


 振るわれる武蔵の太刀。それが二つの軌跡を描き、尊正の両腕が切り落とされる。


「がああああっっ!! わ、私の腕がぁぁぁっ!??」

「両腕がなければもう剣は振るえねぇ。さて質問だ兄上。

 二年前の【異形種キメラ】討伐、情報になかった【異形王フェノメノ】が複数いたわけだが、それを俺たちに隠匿したのはあんたの仕業か?」


 苦痛に喘ぐ尊正の首元に切っ先を突き付ける武蔵。

 問われた尊正はびくりと体を震わせる。


「……! な、なんのことぐああっっ!」

「まだ生きていたいのであれば正直に答えろよ。で、どうなんだ?」


 耳を切り落とされ再び痛みに喘ぐ尊正。武蔵の刀の切っ先が喉に強く突き入れられ、血が流れる。

 数秒の沈黙ののち、尊正は言う。


「……そ、そうだ。私が情報を隠した!」

「……そうか。理由は、まぁ聞かなくてもわかるからいいか。

 そんなに怖かったのか? 俺がヤマトタケルになるのが。英雄神の座を奪われることが」


 刀を下ろす武蔵。彼は身をかがめると顔を伏せた尊正の顔を無理やり上げて、顔を突き合わせる。


「──そんなくだらないことのために、俺の仲間たちを死なせたわけか。あんたは」


 冷たい、そして憎悪のみで作られた武蔵の言葉。

 それを至近距離でぶつけられた尊正は顔面を蒼白にする。


「結構。それじゃあ用件は済んだ。──入って来いよ」


 掴んでいた尊正の髪を離し立ち上がる武蔵。そして彼の言葉通り、部屋に六名の男女が入ってくる。

 来ている服装は武蔵と同じ志願兵の制服。そして誰もが武蔵と同じかそれ以上の年を重ねた人たちだ。


「この方たちはあんたが死なせた俺の仲間の親族や身内だ。といってもあんたはそんなことは覚えちゃいないだろうが」


 彼らは乾いた瞳で静かに尊正を囲む。

 そしてその手には刀や槍といった武器がある。


「俺はあんたの命などどうでもいいが、彼らは違うようでな。今回手伝ってくれたをしなきゃならん。

 それじゃあな兄上。精々苦しんで死んでくれ」

「まっ、待て武蔵……! 話が違う……!」

「俺たちもあんたからの話を聞いて任務に赴き、内容の違う任務で俺以外は全滅した。因果応報だ」

「やめ、やめろぎゃあっぎゃあああっっ!!」


 武蔵が言うと同時、彼らは手にしている武器を尊正に振り下ろした。

 嬲られる音とともに聞こえる尊正の悲鳴と叫び。それを聞き雄斗は眉をしかめる。隣の雪菜は小さい悲鳴を上げ、顔を背ける。

 しかしそれも数分すると聞こえなくなり、手を止めた彼らの荒い呼吸音が部屋の中に響く。

 深紅に染まり動かなくなる尊正の体が淡く輝き、一本の刀剣が姿を見せる。ヤマトタケルの神器だろう。

 それを武は一瞥、手を伸ばしかけるがやめる。そして周りの者たちに言う。


「さて、麗華とあんたたちは予定通りのルートでここから移動してくれ。俺も用事を済ませたらすぐに追う」


 実の兄が死んだ──殺したのに武蔵の声音は落ち着いている。

 麗華は頷き、彼らに駆け寄ると何やら言葉をかけて彼らと共に姿を消す。

 武蔵はそれを見送った後、物言わぬ躯と化した尊正には目もくれず指令室の奥にある机を散策。


「あったあった。回収っと」


 先日雄斗たちが必死の思いで回収したヨルズの神器を手にすると、懐より取り出した小さな布袋に収納してしまう。

 それを見て雄斗は思わず歯ぎしりする。あれほどの激闘でようやく手に入れた神器を前の前で奪われてしまったのだから。


(くそっ……! あと少し時間が稼げればこのウザい結界術を吹き飛ばせるのに……!)


 強い焦燥感に襲われる雄斗。それまで武蔵が待つとは思えないからだ。

 神器を収めた袋を腰のポーチに入れてこちらに振り向く武蔵。彼は小さく笑って、言う。


「雄斗、それと雪菜ちゃん。【真なる世界】に来ないか?」

「……。え?」

「何を、言っている?」


 思わず雄斗は素の言葉で返してしまう。

 こちらの反応が予測できていたのか、武蔵は小さく苦笑。真面目な表情になって、続ける。


「言っておくが俺は真剣だ。俺たち【真なる世界】の最終目的のためには少しでも戦力が欲しい」

「世界転覆のために俺たちが必要ってか? そんなことに手を貸すと思っているのかよ」

「思うな。俺たちが活動しているのは全てある目的のため。

 それを知れば【アルゴナウタエ】や他の世界の上層部はともかく、お前たちは俺たちに積極的な敵対はしなくなるだろうし、味方になる可能性もある。

 現に俺はそうなった」


 そう言って意味深に目を細める武蔵。

 その様子からは敵意はほとんど感じられず、同意すれば握手を差し出しそうな雰囲気にも見える。

 どういう理由かははっきりとわからないが、本気で勧誘しているようだ。


(とはいえこれは【掌握】できるまで時間を引き延ばすチャンスだ……!)


 そう思い、雄斗は尋ねる。


「その目的ってのは何なんだよ。仲間にするんだったら教えてくれてもいいよな?

「悪いがこの場で俺が言ってもお前たちは信用しない。【真なる世界】の本部に来てもらい、盟主さんと対面しないとな」

「【真なる世界】の盟主……。誰なんだよ」

「それも本部に来ないと教えられないな。というか仲間になる返事もしていないのにいろいろと欲張りすぎだろう。

 それでどうする? 来るのか、来ないのか?」


 雄斗は沈黙。考えるふりをする。

 当然行く気はない。だがまだ【掌握】できるだけの魔力量はたまっていない。あと少しなのだが。

 するとこちらの仕草を勘違いしたのか、武蔵は軽い口調で言う。

 

「ああ、言っておくが別に来なくても今、お前たちを始末するってことはないから安心していいぞ。

 立場的にお前たちは俺たちと敵対しているが、盟主からはお前たち相手でも無駄な犠牲を出さないよう言われているからな」

「恐ろしく甘いんだな【真なる世界】の盟主様は。敵対者をなるべく殺さないよう命じてるなんて」

「それにはいくらかは同感だ。だが俺たちの最終目標のことを考えれば納得は行くからな。

 それでどうする? いい加減答えを聞かせてほしいんだが?」

「お断りだ!!」


 彼の問いと同時に十分な魔力が溜まり、雄斗は即答する。

 そして全身から膨大な魔力と稲妻を発し、周囲の輝きを吹き飛ばす。


「ははっ。やっぱりそう来るか。

 それが噂に聞くお前さんの【万雷剣群ばんらいけんぐん】か……!」


 笑いながら表情を輝かせる武蔵。

 そんな彼を見ながら雄斗の周囲に雷でできた無数の【万雷の閃刀】が顕現される。


「お前さんの行動に思うところはあるが見逃すわけにはいかない。

 風祭武蔵、悪いが捕らえさせてもらうぞ……!」

「そうかい。なら改めて自己紹介をしようかね」


 右手に神具と思わしき刀を構えて、武蔵は言う。


「【真なる世界】の【十導士】が一人、風祭武蔵。──参る」


 




次回更新は6月12日 7時です。

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