十二話
かすかな、何者かの気配を感じ、マリアは視線を空に向ける。
そして見た。空を覆う曇天から稲妻をまとう数百もの数の矢が周囲に降り注ごうとしているのを。
「──っ!」
一つ一つの矢に込められた膨大な魔力。それを感じ取ったマリアは即座に撃墜は不可能と判断。全力で自分と味方の周りに水のバリアを発生させた。
【害意を打ち払う聖波】。波のような障壁を発生させ攻撃を防ぎ、または受け流す神威絶技だ。
遅れて晴之たちもそれに続く。多重に張られた障壁は矢の群を防ぎきるが振動は地震のように凄まじく、着弾音も爆撃のようだ。
「何だったんだ。今の爆撃のような矢の雨は……!?」
顔をしかめながらラインハルトは周囲を見渡す。
マリアたちもそれに倣い今の攻撃を放った敵を探す。しかし確認できる範囲にそれらしい人の姿はない──
「ああっ!?」
「どうしたんだ、凛」
「じ、神器が、無いわっ!」
彼女の声を聞いてマリアたちはエンリルが消滅した場所を見る。
しかしそこには凛の言う通り何もない。ほんのついさっきまで神器があったというのに。
「……! そこかっ!」
何かを感じ取ったのか、ラインハルトが矢を飛ばす。
風雷をまとう矢は何もない空に向かう。しかしその矢がいきなり空中から出現した雷撃で撃ち落とされる。
それを見てマリアとルクスも同じ場所へ巨大な水鉄砲と焔の塊を放つ。しかしそれらもラインハルトと同じく雷撃によって打ち払われてしまう。
だが攻撃したかいはあったようだ。隠蔽の魔術を使っていた何者かだが、マリアたちの攻撃を迎撃したせいか姿を見せた。
「あなたは……!」
「おいおい、まさか本当に会えるとはな。
数年ぶりだなぁ。ラーマァァァァッ!」
猛々しいルクスの声に姿を見せた褐色の青年は微笑する。
輝くような黄金の髪を靡かせている、チャリオットに乗っている青年。体は細身だが鍛え上げられた戦士のそれであり、その上には黄金の意匠がちりばめられた青色の軽鎧を身につけていた。
左腰部には剣が、そして両手には弓を握っている。それらから感じられる莫大な魔力がどちらも神具であることを教えてくれる。
「久しぶりだねルクス。相変わらず君は血気盛んだ」
微笑む青年。嬉しそうな、少し困ったように見える柔らかい笑みだ。
一見、温厚で争いとは無縁の美青年。そうとしか見えない彼だが戦いに用いられるためだけと思うような鋼を思わせる肉体と武装、そして放つ空気がそれを否定する。
(距離が離れているのに怖気が収まらない……!)
ラーマからは殺意も戦意も感じられない。しかしマリアの頭の中では警戒警報がマックスで鳴り響いている。
今まで数々の強者と相対したが、このようなことは滅多になかった。
「初めまして【高天原】の方々と【アルゴナウタエ】の皆さん。僕はアルシュ・シャンティー・ラーマ。当代のラーマ神です」
チャリオットからラーマは皆に向かって軽く一礼する。
「【狂神】との戦い、お見事でした。
ですが申し訳ありません。エンリルの神器は戴いていきますね」
「!? いつの間に……!」
ラーマの横に浮いているエンリルの神器を見てマリアは目を見開く。
涼やかな表情で略奪を告げたラーマは右腰につけている麻袋に神器を回収してしまう。
神器を収められるところを見ると特殊な細工がされた物なのだろう。転送の魔術で送らないのは神器が魔術に反応して、予想外の事態が起こることを避けるためだろう。
「そんなことを許すと思っているのか……!」
ラーマの言を当然晴之たちは受け入れない。マリアやラインハルトたちも即座に戦闘体勢に移行する。
しかしラーマはやはり戦意を見せず、言う。
「やめた方がいいと思いますよ。万全ならいざ知らず、消耗しきったあなたたち相手なら神具を使うまでもありません。
僕も無駄に人を傷つけたくはない。大人しく僕を見逃して──」
「んな戯言に耳を貸すわきゃねぇだろぉぉぉっっ!! ラーマァァァァッッ!!」
ルクスは【光輝を背負う黄金龍鎧】を再び顕現し、ルクスがラーマめがけて極大の火球を放つ。
だがラーマは少しも動かず、表情も変えず、全身より雷撃を放出しルクスの炎を撃墜する。
(疲弊しているとはいえ、【掌握】状態の一撃をああもあっさりと……!)
今のルクスの一撃をマリアも撃墜することはできる。だがそれは【神解】状態での話だ。
対するラーマは【神解】どころか神具を使っていない上、戦意の欠片も見せていない。神という同格でありながら、自分との圧倒的差にマリアは苦虫を噛み潰したような顔になる。
周囲を見ると他の皆も似たような反応だ。和尊と凛は信じがたいものを見るような顔で固まっており、晴之とラインハルトはラーマの規格外さに下唇を噛んでいる。
戦えば間違いなくこの場にいる全員が死ぬ。どうにかして神器を奪還しこの場から離脱しなければ。そうするべくマリアが必死に脳を働かせようとした時だ、ルクスの哄笑が空に響く。
「さすがだなラーマ! やっぱりお前相手じゃ神器一つの【掌握】じゃあ足りねぇか!」
「え?」
「……何?」
ルクスの言葉を聞いてマリアは目を丸くし、ラーマは浮かべていた笑みを消す。
二柱の神から注視されているルクスは右手に握っている【炎嵐の鉄塊剣】を天にかざす。
「焔よ、風よ、雷よ。全てを焼き、あらゆるものを吹き飛ばし、万物を貫け。
汝らは千差万別を壊す鋼なり。主である我が意に応じその力を示せ!」
ルクスの口より告げられる呪文。そして空に切っ先を向けている【炎嵐の鉄塊剣】が眩い輝きを発し、変化する。
目をくらむような閃光の後、彼の周囲に三つの大剣が現れる。一つは風を渦巻かせている藍色の剣。一つは稲妻を鍛えたような黄金の刃。そして最後の一つは炎そのものを剣にしたような真紅の鋼。
「ルクス、君は……!」
「これが【炎嵐の鉄塊剣】の【掌握】、【|風雷焔の三鋼滅刃(クレタゴン・デストルクティーオ】だ……!」
顕現した三本の鋼は意志を持っているかのように自然と動く。風の剣はルクスの背部に。右には炎の剛剣、左に稲妻の刃が静かに移動する。
「さぁ、行くぜ!」
ルクスは右手に炎の刃、左手に稲妻をまとう剣を握ると、ラーマに突っ込んでいく。
繰り出す大上段からの一撃。ラーマは今までのように雷撃で撃墜せずかわす。
かわされた焔の斬撃は地表に着弾。周囲百メートルを瞬時に溶解してしまう。
「なんて威力っ……!」
届く熱風や炎の暑さに、たまらずマリアは味方の周囲に水のバリアを展開。
念話で皆の無事を確認し、巻き込まれないよう支援部隊の面々へ撤退するよう厳命した後、上空に視線を向ける。
空には眩い輝きの爆発が見え、そのたびに地面を揺るがす爆音が轟いている。ルクスはが繰り出す強大な攻撃をラーマはひたすら避けては、カウンターの雷撃を放っている。
だがルクスの猛攻は止まらない。絶えず攻撃を繰り出しているルクスだが、空いている三つ目の剣がラーマからのカウンターをとことごとく防いでいるからだ。
(凄い……)
今のルクスは本気を出したマリアよりも強い。【神解】状態のマリアでもラーマをああも一方的に攻めることはできないからだ。
破壊力だけならグレンにロン、ネシャートさえも超えている。もしかしたら当代の【七英雄】に匹敵すらしているのかもしれない。
そう思いながらもマリアは念話でラインハルトに尋ねる。
(ニコスさん、ラインハルト君、知ってた?)
(どちらも知らなかった。【炎嵐の鉄塊剣】を【掌握】していたことも、【多重掌握】ができるようになっていたことも)
(あいつめ。いざと言うときのために隠していたな。何か変化があったときは、きちんと報告しろと普段から言っているというのに)
【多重掌握】とは、複数の神具を同時に【掌握】して使いこなすことだ。
とはいえ口に出して言うほど簡単ではない。というか成立させること自体、至難中の至難といってもいい。
使用者のキャパシティや神具同士の相性という問題もあるが、最大にして一番の問題点は【多重掌握】を維持し続ける膨大な魔力が必要なことと、そのため持続時間が非常に短いことだ。
最もその分、発動させた使用者の力を爆発的に高めるのだが。
ルクスがラーマを一方的に攻め立てる戦況。しかし数分が経過したところでマリアは眉間にしわを寄せる。
(保ってあと五分だな)
(何とかして援護に入れればいいんだが)
爆発と爆音が暗雲を吹き飛ばしている空を見てニコス、ラインハルト両名は焦りを帯びた声で言う。
そう、戦況は見た目通り優勢ではない。一見ルクスがラーマを圧倒、追い詰めているように見えるが、実のところルクスはラーマに攻めさせられているのだ。
最初こそ【多重掌握】に驚き押されていたラーマだが次第に慣れてきたのだろう、攻撃をかわす挙動がより早く、無駄が無くなっている。またカウンターで放っている雷撃も数発のうち一発は迎撃している剣をかわしてルクスの鎧に命中している。
ルクスの魔力切れを狙い回避に徹しているラーマ。しかしそれがわかりつつもマリアたちは簡単に手が出せない。
(それは難しいな。ルクスくんは目の前の敵しか目に入っていない。念話で呼びかけもしたが応答もない)
(ええ。そうですね)
晴之の言葉にマリアも同意する。
こちらからラーマにめがけて攻撃することはできる。だが両者の戦いがマリアたち神々クラスでも容易に手が出せない上、ルクスはマリアたちの行動を一切考慮していない動きだ。援護した場合、こちらが放った攻撃がルクスに当たる可能性もある。
そして目まぐるしく空を駆けるためかニコスも【雲道】などの神威絶技によるサポートができない。【心眼】が不完全な彼は彼らの挙動を完全に把握できないからだ。
先程の戦いで使用した【|天雲は万象を包み、飲み込む(アンプレクス・ヌベス)】や【神捕の雷楔】はすでに解除されており、使用したとしても敵しか目に入っていないルクスはそれに気付くことはないだろう。
(それに下手に手を出すとこちらに攻撃が飛んでくる可能性もある。
いや、間違いなく飛んでくるな。タイマンを邪魔されるのをあいつは何よりも嫌っているし。詳しい経緯は知らないが、あいつはラーマを強くライバル視している。
そんな相手との戦いを邪魔されたら何をするのかわからん)
確信したような口調でニコスが言う。
ラーマと何があったのかマリアも詳しいことは知らない。ただ以前一度だけ聞いた話ではルクスが師事していた師匠の一人と兄弟弟子であったこと。
そしてその師匠の間で世話になっているとき、彼との勝負で一度も勝てたことがなかったことぐらいだ。
(ただのライバル視ってだけであの反応はないと思うけど……)
そう思いながらマリアは今、深く考えることでもないと思い思考を打ち切る。
そして晴之に言う。
(晴之さん。私が合図をしたら【神解】になって神威絶技をラーマに放ってください)
(それは構わないけど、ルクスくんはどうするんだい?)
(そちらは心配いりません。──ルクスが力尽きた直後に仕掛けますから。
ラインハルト君は【掌握】の解けたルクスを救助して。和尊さん、凛さんも協力をお願いします)
(了解した)
(は、はい)
(わかりました)
仲間たちの返事が返ってくるのを聞き、さらにマリアは皆に作戦を説明する。
そしてすぐに上空での激闘が徐々に収まり始める。爆音が聞こえなくなった空を見上げると肩で息をしているルクスと、少しの火傷跡があるほぼ無傷のラーマの姿あった。
「【多重掌握】とは流石に驚いたよルクス。危うく神具を使うところだった。
でもまだまだ練度不足。僕には届かない──」
「【【灰燼三刃】っっ!!】」
褒めたたえるように言うラーマへルクスが血を吐くような声で神威絶技の名を叫ぶ。
背部に浮いている、両手に握っていた剣が一瞬のうちに強大な炎、雷、風となり、閃電の速さでラーマに襲いかかる。今までで一番巨大な爆発が空に生まれ、爆音が周囲に響き渡る。
一方のルクスだが、残った力をすべて使用した、正真正銘最後の一撃だったのだろう。絶技の発動直後神具二つは消失する。疲労や消耗で【掌握】が保てなくなったのだ。
──直後、爆炎の中から放たれる黄金の矢。ルクスは【炎嵐の鉄塊剣】を盾に受け止めるが、受け止めた鏃からは稲妻が放出され、ルクスの体を震わせる。
「ルクス!」
ニコスが呼びかけるが応答はない。ルクスはがくりと体勢を崩し、頭から地面に落下していく。
(全く、後先考えず戦うからこうなる!)
念話で愚痴りながらも飛び出すラインハルト。空を蹴って落下しているルクスを抱きとめる。
直後、強風で爆音が晴れる。姿を見せるラーマは服や鎧がいくらか破損、いくつかの擦り傷は負っているがそれだけだ。
「さてと、それじゃあ失礼させて」
その先を聞く前にマリアは動く。瞬時に【神解】に至るや、ラーマの正面に飛び出す。
「【|万物を切り裂くは世界を流れる水なり(ディストルツィオーネ・アクア)】!!」
【大河の聖盾剣】の剣より繰り出す、超圧縮された水の斬撃。
それをラーマはわずかに体を傾けただけでかわしてしまう。
「いい斬撃だけど、君自身の技量がそれに追いついていないね。
これじゃあ僕に当たらないよ」
そう諭すようにラーマが言う。
直後、ラーマの背後にマリアと同じ【神解】に至った晴之が姿を見せる。
「【大蛇薙ぐ八刃風】!!」
不規則な軌道を描き放たれる巨大な風の刃ががラーマに襲いかかる。読み切ることはできないはずのそれも、ラーマは舞のような優美かつ軽い挙動でかわしてしまう。
しかしマリアは落胆しない。この事態も想定していたからだ。──そしてマリアの狙いは彼にダメージを与えることでも倒すことでもない。
「もう終わりかな? それじゃあ今度こそ、失礼するよ」
「ええ、どうぞ。 わたしたちも用事は済みましたから、この場から離脱させてもらいますね」
そう言ってマリアはエンリルの神器を手にしているラインハルトに視線を向ける。
勝ち誇った笑みを浮かべているラインハルト。それを見てラーマは目を丸くし、この場に来て、初めて視線を鋭くする。
「……いつの間に奪ったんだい?」
「取り返したと言ってください。
別に難しいことはしていません。わたしたちにあなたが気を取られている間、奪い返しただけです」
正確に言えば取り返したのはラインハルトだ。マリアと晴之の神威絶技にラーマが気を取られている間、彼の放った風の矢が掠め取ったのだ。
神器が入っていた麻袋だが、予想通り神器が妙な反応を起こさない程度に魔術防護された物で、掠め取るのは容易だった。
マリアたちの周りが光に包まれる。和尊と凛による転移魔術の発動だ。
「それでは失礼しますね」
そう言えってマリアは微笑み、視界が転移の輝きに包まれる。
そして光が晴れると──マリアたちは転移するはずの要塞の地下ではなく、元の場所にいた。
「……!?」
マリアたちが唖然とする中、表情を緩めたラーマが安堵の息をつく。
「やれやれ。武蔵とブラントが上手くやってくれたみたいだ。二人には感謝しないとね」
ラーマの言葉にはっとしてマリアは周りを見渡す。すると思った通り、いつの間にか周囲には結界が張られていた。
「転移防止の結界。いつの間に……!」
晴之がそう言うと同時風の刃を放つ。しかし放たれた風の刃は周りを覆っている結界を素通りし、彼方に飛んで行った。
「残念だけどその程度の攻撃じゃ破ることはできないよ。魔術封殺に特化した結界だからね。
普通に飛んだり走ったりして脱出することはできるけど、さすがにそれは僕が許さない」
そう言ってラーマは腰の剣の柄を手をやる。
音もなく引き抜かれる剣。一見どこにでもある直刀に見えるが、刃の煌めきを見た瞬間、マリアの総身に怖気が走った。
(あれがラーマの【邪悪を貫く閃刃】……!」
数ある伝承神具の中でも最強の一つと数えられる剣。
それを目の当たりにしてマリアは自然と防御態勢を取る。
「これ以上時間をかけて二人に迷惑をかけるわけにもいかない。
悪いけど早々に奪い返させてもらう。──死なないよう頑張ってくださいね」
静かな声音でラーマは言い、彼の剣に巨大な魔力が収束される。
「【光波】」
閃光にしか見えない一太刀を放つラーマ。
そして放たれた輝く剣戟は地面に激突すると、波のようになってマリアたちへ迫る。
煌めく波は高く大きく広い。しかも地面を削りそれを飲み込みながら勢いを増して迫ってきている。
「【海原を支配する龍帝】!!」
「【天竜地蛇】!!」
マリア、晴之が同時に神威絶技を発動。巨大な水の龍と風と土の大蛇が光の壁に激突する。
だが勢いを止められたのは一瞬だけだった。土砂を含む光の壁は二柱の神々の絶技を呆気なく消し飛ばす。
(馬鹿な……! 俺たちの絶技をこうもあっさりと押し返すのか……!?)
晴之が念話で驚愕の声を上げる。だがマリアも同じ意見だ。
神々の力は生きた年数、潜り抜けた死闘、激闘の数に比例して強くなる。
確かにマリアたちはまだ若い神だ。だがラーマもそれは同じだろう。彼の年齢は21歳。自分たちと数年しか離れていない。
これが【七英雄】や当代のゼウス、ウルスラグナのような歴戦の神々ならわかろうというものだが──
(わたしたち二人の神威絶技を歯牙にかけないなんて……!
いったいどれほどの死線をくぐってきたというの!?)
駄目だ防げない。間近まで迫る光の壁を見てマリアが絶望した時だ、ラインハルトが叫ぶ。
「【天空は我が領土】……!」
すると次の瞬間、マリアの周囲が一変する。眼前に灰色の雲が現れる。唖然となるマリアだが、ラインハルトによって助けられたことにすぐ気が付く。
【天空は我が領土】。ラインハルトの神威絶技で、自分と周囲にいる者たちを上空に強制転移、一定時間、空中に足場や大人数が立てる空間を作り出すのだ。
下を見るとラーマの神威絶技が先程まで自分たちのいた場所を通過し、周囲をなぎ倒しながら突き進むのが見える。それを見てマリアは思わず大きく安堵の息をつく。
「みんな無事みたいだね。よかった……」
己と同じように空気による不可視のフロアにいる仲間たちを見てマリアは微笑む。
しかしラインハルトは首を振り、苦渋の表情で言う。
「すまないマリア。神器を再び奪われた」
「え……!?」
「先程俺たちがやった攻撃による陽動をやり返された。
ラーマの奴、光の壁とは別に雷撃を放って俺の持っていた神器を奪いやがった……!」
そう言って彼は小さく焦げている左手を見せる。先程まで彼がエンリルの神器を持っていた手だ。
そしてラーマの姿も気配もどこにもない。撤退したのだろう。
「あれがラーマ。真なる世界が誇る【十導士】が一人か。……あんなのが十人もいるのか」
「流石に全員が全員ではないと信じたいけどね。……!?」
ラインハルトに対して慰めるような口調で晴之は言う。しかし微苦笑を浮かべていた彼の眼差しが大きく見開かれる。
何事かと思いマリアはそちらを向く。そして同じように驚愕の表情になる。
雄斗たち仲間が待機している要塞。そこから幾つもの煙が噴き上げていたからだ。
次回更新は6月9日 7時です。




