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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
一章 雷刃、煌めく
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十二話






「鳴神君……!」

「おう、遅いぞマリア」


 軽い口調で言う雄斗を見てマリアは表情を歪める。小さく笑っているものの雄斗はボロボロだ。

 左腕は先日のグレンのように欠損しており体は泥だらけに傷だらけ。傷口からは血が止まっておらず、出血のためか顔は青白い。【万雷ばんらい閃刀せんとう】を支えに立ち上がるも、今にも倒れそうな様子だ。

 半死半生といった状態の雄斗を見て、すぐに全快したくなるがマリアはそれを抑え、治癒の水を雄斗に飛ばす。水は雄斗の傷を覆い、ひとまずこれ以上の出血を止める。


「あとは任せて」

「ああ。任した」


 血の気が戻らない顔で頷く雄斗から視線を正面に向ける。

 すると【異形王】に向かわせていた龍が、【異形王】の攻撃を受けて吹き飛ぶ光景を目にする。


「よくもやってくれたわね……!」


 家族である孤児院を遅い、その上仲間を傷つけられマリアは固有神具【大河の聖盾剣フィウーメ・アルマ】を手に、【異形王】へ突撃する。

 接近するマリアに気が付いた【異形王】は四枚の翼を大きく広げ、そこから数十もの波濤をマリアに放ってくる。

 だがマリアはそれに真っ向から突き進み、左手に装着してある盾を構える。青と黄金の意匠が刻まれた純白の盾は主の意志に応じ、【異形王】が放った波濤全てを覆うような強大な水鏡を発生させる。


「【荒海を写す水鏡テンペスタ・スペッキオ】」


 マリアの眼前に発生する鏡のように反射する巨大な水の盾。【異形王】の放った濁流はそれに吸い込まれるのを見ながらマリアは念じる。


(半分は飲み込み、残りは反射して)


 願った通り右側の波濤は水鏡に吸い込まれ、左側の水竜巻は攻撃を放った【異形王】に跳ね返る。しかも【異形王】の汚染水をしっかりと浄化して。

 【荒海を写す水鏡】。相手の攻撃を吸収し、任意で跳ね返す神威絶技だ。今のように攻撃を分割して放つことも可能だ。

 跳ね返ってきた攻撃に気づいた【異形王】は空に浮かび上がりカウンターを回避。しかしマリアはまた【】より吸い込んだ残りの波濤と、剣先より同等の莫大な水量を【異形王】に向けて放つ。

 今度は逃げない【異形王】。四枚の翼だけではなく両手をこちらに向けて汚水の濁流を放ってきた。マリアの放った攻撃にも劣らない膨大な水量だ。

 上空で大量の水がぶつかり合い、爆発したかのような轟音が周囲に響く。黒ずんた雫と澄んだ水滴が宙に舞う。


「【|万物を切り裂くは世界を流れる水なり(ディストルツィオーネ・アクア)】!」


 天より降り注ぐ雨を感じながら、マリアは右手の剣を【異形王】に向かって振るう。

 すると剣より一瞬で膨大な水が溢れては長大な水の刃となり、斬撃は百メートルほど離れていた【異形王】へ届く。

 胴を薙ぐマリアの一撃を水の大剣で受け止める【異形王】。拮抗する両者の剣だが、長くは続かなかった。マリアが周囲に降り注ぐ水を瞬く間に全て飲み込み、それらを刃に乗せたからだ。

 数秒の拮抗後、マリアの刃が【異形王】の剣と胴を薙ぐ。二つに両断された【異形王】へさらにマリアは追撃する。


「|邪悪を引き潰す神馬のカヴァーロ!」


 剣の切っ先より生まれた四体の巨馬が【異形王】に向かう。巨馬たちの体当たりは【異形王】の修復を妨害し、吹き飛ばす。


「【無垢なる龍王キアーロ・ドラゴーネ】!」


 巨馬たちが一匹の両大な龍と化し、ボロボロになり落下している【異形王】を飲み込んで地上に激突した。龍の体内にいる【異形王】の肉体が急激な勢いで溶けていく。


「【海原を支配する──……」


 とどめの一撃を加えようとマリアが剣を振り上げたその時だ、龍王の体がはじけ飛ぶ。

 そして腕を振り上げた格好の上半身だけの【異形王】は龍王となっていた綺麗な水を全て吸い込み、欠けていた下半身や傷を瞬く間に完治させてしまった。

 舌打ちするマリア。もっともこの結果に驚きはしない。【異形王】──それも自分と同じ水使いならば当然というべきだ。自分が【異形王】の立場でもこのままやられるわけはないからだ。

 体を元に戻した【異形王】は両手に剣を作り、さらにその周囲に水で構成された怪物を生み出す。

 その数、十二。──そしてそのうち数体は、マリアには見覚えがあった。何故ならつい先程、マリアが屠ったからだ。


(やっぱりこの【異形王】、レストディアが今回の事件の首謀者……!)


 そもそもマリアが雄斗たちと一緒に孤児院へ行かなかったのは、【アルゴー】の水を管理する水道課より船内に貯めている水に異常が確認され、それを判断するために本部ビル側にある水質管理部に呼ばれたからだ。

 そして見せられたデータでは船内の水に含まれているいくつかの成分が異常値となっていた。とはいえそれを見たマリアは最初、問題ないと判断した。

 何故なら【次元の狭間】から水を補給した直後は数値が乱れることは珍しくないからだ。

 しかし念のため貯水タンクの中にある水を見てみると一目でおかしいことがわかった。貯められた水から【異形種】の匂いを感じたのだ。

 ちなみにマリア以外は誰もそれに気づかなかった。だがそれも当然だ。あまりにも微細な匂いであり、水の女神であるマリアだからこそ、それに気づけたといってもいい。

 ともあれマリアは船内に振らせている雨や全域に流れている水を至急調査するよう指示を出し、自分は眼前の貯水タンクを調べた時だ、水の中から野球ボール程度の水でできた球が出現し、それが弾けて六本の腕を生やした怪魚の【異形種】が姿を現した。

 驚きつつもマリアはその【異形種】を瞬殺し驚いて固まっている職員らを叱咤、改めて水と言う水を調査するよう命令する。だが直後、【アルゴー】の各地で同様の現象が起こったという報告が入った。

 船内に【異形種】が入り込むという非常事態の解決の指揮をマリアが取った。本来【七英雄】やトップであるエドガーがするべきことだが、この日はエドガー達当代の【七英雄】達のほぼ全員が仕事で【アルゴー】にいなかった。

 唯一残っていたレオニダスも皆をまとめ、指揮するといった能力が非常に低い人物のため、マリアが請け負わざるを得なかったのだ。

 【アルゴー】内部にいる神々とその仲間たち、またルクスたち【清浄なる黄金の聖盾アルドウィー・スーラー・スクード】や各多元世界の防衛組織たちの協力で各地に発生した【異形種】や【異形王】の眷属を打倒、対処することはできた。

 だが休む間も無く、事を起こした張本人が寄りにも寄って孤児院のすぐ近くで雄斗と交戦していることを知り、マリアは制止する職員たちの声を振り切り駆け付けたのだ。


「ふぅ……」


 大きく息を吐き、マリアは剣と盾を構えなおす。そして【異形王】は剣をマリアに向け、眷属たちは一斉にマリアへ向かってくる。

 それを見たマリアもすぐさま【純水の軍勢アクア・アルマ】で眷属を生み出す。長大な龍に巨きな馬、武器を手にした騎士や兵士たち──

 荒れ果てた農地でぶつかり合う黒と青の軍勢。そしてその主たちも少し遅れて、正面から激突する。

 両腕に大剣を握りパワーと速度を乗せた剣戟を放ってくる【異形王】に対し、マリアは剣と盾を器用に使いながら敵の攻撃をそらしては弾き、反撃する。

 双方の技量は互角。しかしマリアは厳しい表情となる。


「くっ……!」


 力任せの斬撃を盾ではじくと同時、懐に入ったマリアは剣で【異形王】の体を切り裂く。しかしその傷口は数秒と言う時間でくっついてしまう。

 先程からこの繰り返しだ。幾度かマリアの剣が【異形王】の体に致命的な傷を負わせたが、すぐに今のように凄まじい速さで再生してしまう。グレンが戦えば不利になるといった意味がこれなのだろう。

 マリアは基本なんでも十分以上にこなせるオールラウンダーだ。しかし正確に言えば武芸より魔術、近距離より遠距離が得意なオールラウンダータイプである。

 その証拠が彼女が保有する神威絶技だ。【邪悪を引き潰す神馬の蹄】、【無垢なる龍王】、【海原を支配する龍帝】。これらは遠距離、広範囲に寄っている。

 近距離用の神威絶技は当然持ち合わせている。だが【異形王】や神々と言った同格の相手に致命的ダメージを与えるものは多くは無い。


「【穢れを押し返す聖壁ノンスポルコ・サクロムーロ】!」


 再び懐に入ったマリアは左腕の盾を前面にして【異形王】の体に突撃。シールドチャージで【異形王】を数メートル先へ吹き飛ばす。

 そして自身は後方へ下がり神威絶技を発動させようとするが、それより早く【異形王】は両腕を振るう。

 黒く濁った水の剣波が二つ、マリアに向かう。それを弾き飛ばそうとマリアが盾を前面に出したその時だ、二つの剣波は目前で水飛沫となる。

 それを見てマリアが一瞬眉を顰めた次の瞬間、マリアの足元──田んぼから濁った刃が飛び出した。


「!?」


 予想外と言うべき攻撃にマリアは反応するが、若干動きが遅れる。結果喉元を狙ったそれを回避できはしたが、黒の刃はマリアの左頬を掠め、鮮血が宙を舞う。

 当然迎撃しようとするマリアだが攻撃直前で刃は泥水に戻る。そして今度は背後から刃が二つ飛び出してきた。

 二度目の奇襲。しかしそれを【心眼】でとらえていたマリアは見事反応する。飛び出した刃の前に水で作った盾を精製し、受け止めた。

 しかしそのわずかな一瞬で【異形王】は再び剣が届く距離まで近づいてきた。振るわれる右腕の刃にマリアは盾を突き出す。

 だが激突する瞬間、黒剣は元の汚水に戻ってしまった。予想もしないそれを見てマリアがわずか体勢を崩したのと同時、【異形王】は左腕の剣をマリアの胴に向けて突き出してきた。

 

「くうっ!」


 黒の刃の切っ先が体に突きこまれたのと同時、マリアは自身の体は澄んだ水に変化させる。

 そしてその一瞬後には後方に下がって【異形王】と距離を取る。

 致命傷を負うであろう攻撃を何とか回避はできた。だがマリアの表情は厳しく、額にはいくつも脂汗が浮かんでいる。


「はぁっはぁっ……」


 荒い息を吐き、みぞおちを抑えるマリア。そこはかすかに黒く変色しており、しびれるような痛みがある。

 水化して何とか傷を負うことは回避できたが、レストディアの剣に含まれる様々な病原体が入り込んだのだ。

 力を籠め、瞬時に病原体を消す。しかし【異形王】は休む暇を与えないつもりなのか、再び距離を詰めてくる。

 再び剣を交える二人。しかし今度はマリアが一方的に押される。だがそれも当然だ。【神解】を発動し続けている現在、急速な勢いで体力と魔力を消費している。そしてマリアはここに来る前から【神解】を発動させており、すでに二十分近く【神解】を維持しているのだ。

 神々の本領を発揮する【神解】の使用時間は基本短い。なり立てではせいぜい数分、マリアのような数年程度の若手でも三十分が限界だ。


(くっ……!)


 水を利用したとらえどころのないトリッキーな攻撃の数々に、とうとうマリアは盾による防御が主となる。

 【異形王】を倒す術──超強力な神威絶技はある。だが今の状態でどうやってそれを成すか──


(せめて一分……ううん、三十秒でも時間が稼げれば……!)


 そう思うマリアの眼前で【異形王】は止まることなく剣を振るってくる。こちらの焦りを看破しているように愉悦の笑みを浮かべて。






次回更新は5月1日7時です。

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