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多元世界治安維持組織【アルゴナウタエ】  作者: 浮雲士
一章 雷刃、煌めく
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十一話






 肌を冷やす冷たい雨が降り注いでいる。

 しかし雄斗の体も心も少しも冷まさない。目の前の【異形王フェノメノ】に向けた【万雷ばんらい閃刀せんとう】の切っ先も微塵もぶれない。


「どうしてここにいるは知らないが、ここで止めさせてもらうぞ」


 雄斗の放つ殺気と言葉にレストディアは全く表情を動かさない。余裕しゃくしゃくと言った態度だ。

 だが雄斗はそれを気にしない。対峙しただけでわかった。眼前の存在は間違いなく圧倒的な格上。

 【異形王】。【異形種キメラ】の王にして神すら殺める究極の怪物──。


「大きな力を感じたが【神財しんざい】保有者か。……ふむ、建物の中にも似た気配があるな。

 まぁいい。邪魔をするなら共に食らうだけだ」

「共に、食らうだと?」

「そうだ。鍛え上げられた戦士の肉を食らうのも悪くはないが、私の好みは子供──それも見事な資質を持つ子供が特に好物なのだよ」


 雄斗の殺意が一段階上昇する。今にも切りかかりたくなる気持ちを抑える中、酔ったような口調でレストディアは続ける。


「【アルゴー】にはそのような子供たちが多い、実に良き狩場だ。もっとも手に入れる難易度も他世界とは比較にならんがな。

 今回も神と交戦し、倒されたふりをしてわが分身と下僕たちを都市の内部に送り込んだ。もっとも今現在、【アルゴナウタエ】にいる魔術師らに駆逐されているようだが」


 そう言って都市部の方を振り向くレストディア。


「子供たちは戦士のように一気に捕食せず、わが身に取り込み、ゆっくりじっくり食らうのだよ。

 その味たるや実に甘美である。柔らかく未成熟な肉と魂、そしてその内に秘めていた強力な魔力と異能の力。──比べるもの無き、至高の食事だ」

「そうか。だがここで止めさせてもらうぜ」


 大きく深呼吸をし、息と共に胸中を埋め尽くさんばかりに膨らんでいた殺意を吐き出す。

 激怒したい雄斗個人の感情を、怒りに任せて攻撃したら瞬く間にやられるという確信を抱いた戦士の直感が押しとどめる。

 冷静さを取り戻した雄斗は、心中で呟く。


(【雷帝招来らいていしょうらい】)


 本日二度目の使用。とはいえ【万雷の閃刀】のバックアップを受けているおかげで二度目も問題なく使用できる。

 雄斗の体に力が漲り、雷光が迸る。それを前にしてもレストディアは笑みを崩さず、攻撃態勢すら取らない。

 だがその余裕ぶった態度は雄斗にとって好都合だ。こちらを侮り、本気を出してくれないのであればより時間を稼げる。

 雄斗は最初から眼前の怪物を倒す気はない。マリアや【七英雄】ら【アルゴナウタエ】の実力者が駆けつけるまで時間を稼げばいいだけ──


「っ!」


 と思ったのと同時、【異形王】の片翼が巨大な刃となって雄斗に向かってきた。雷光に等しいその速さを雄斗は【万雷の閃刀】で何とか受け流す。


「ほう。【翼矛ウイングウエポン】に反応するか」


 感心した声で言うレストディア。

 立て続けて両翼が武器に変化して振るわれる。だが雄斗はそれらを冷静に見極め、ことごとくをかわし受け流す。  


(速い……! だが、対処できないほどじゃない)


 激しさを増す【異形王】の攻撃。それでも雄斗は全てをかわし捌ききる。

 しばらくしてようやく攻撃を止めた【異形王】。立ちはだかる雄斗を見て、


「ふむ。どうやら貴様、【心眼】と【閃電の太刀】を持つか。

 人の身で神々や我等の武の領域に足を踏み入れるとは。大したものだな」


 感心したように言うレストディア。そして彼は両手に水を発生させ、それが大剣へと変化する。

 巨人族の胴体すら一太刀で両断しそうな分厚い刃を構え、間合いを詰めてくる【異形王】。振るわれる剣戟は神々と同じ領域にある人外のものだ。

 それらの攻撃を雄斗はことごとく防ぎ、逸らす。油断すれば倒されるレベルにあるレストディアの剣舞だが、逆にそうせず防戦に徹すれば致命傷を負わないという確信があった。


「貴様、時間稼ぎか!」


 攻撃が二十を超えたところでレストディアは苛立ちの声を上げ、両手の大剣と背部の翼をより苛烈に、激しく動かして雄斗を責め立てる。

 ますます防御と回避に徹する雄斗。だが感情が乗ったレストディアの攻撃は攻撃が読みやすくなり防ぎやすくなっていた。


(これなら攻撃に転じれるか……!)


 レストディアの攻撃が雑になっているのを見て雄斗がそう思った時だ、背後から小さい悲鳴が聞こえた。

 とっさに振り向くと建物のすぐそばに倒れているリリの姿があった。


(なぜここに!? いや、そんなことはどうでもいい!)


 疑問を彼方へ放り出し、雄斗は【異形王】の攻撃を後方に回避すると同時、地面に向けて渾身の雷を放った。

 地面、そして周囲にあった水たまりが爆散し煙を上げる。目くらましを生み出したその隙に、雄斗はリリの側へやってくる。

 雷光をまとう雄斗を見てやや怯えた様子となるリリへ、雄斗は意識して優しく話しかける。


「どうしてここにいるんだ。叢雲と一緒にいないと駄目だろう」

「ご、ごめんなさい。……でも、ママのゼリーのレシピ、どっかいっちゃって……」

「レシピなら俺がまたあとで渡してやる。だから早く避難を──」


 その先を続ける前に【異形王】の攻撃が来た。今度は剣や両翼ではなく、水滴を散弾のように放ってきた。しかもその球はサッカーボールのように大きく、数もパッと見て数十はある。

 一発でも受ければ大ダメージは必至。一目見て雄斗はそれを察すると、リリを脇に抱え回避に徹する。地面を抉り、孤児院の建物が破砕される音にリリが悲鳴を上げる。


「おおおおっ!」


 渾身の力を込めて雄斗は雷の壁を発生させ、破壊されている孤児院に隠れ潜む。

 【異形王】の次の攻撃であっさりと崩壊する雷の壁を見ながら、雄斗は左腰のポーチに手を伸ばす。


(くそっ、一枚だけじゃなくてあと二枚ぐらい持ってきておくんだった……!)


 懐から取り出そうとしているのは転移符だ。【アルゴナウタエ】に来る直前、大金をはたいて五枚購入していたが、普段は一枚しか持っていない。


「リリ、すまないが少し離れてくれ」


 ポーチに手が届かないため、腰にしがみついているリリへ呼びかける。だが彼女は首を振りますます強くしがみつく。

 

「リリ!」


 先ほどよりも大きく、多い爆発、破壊音。それを聞き、さすがに雄斗は苛立って声を荒げる。だがリリはやはり離れない。

 破砕音が間近で響く。視線を向けると左五十センチのところが吹き飛んでいた。また周囲ももはや建物と言う体を成していないほどの壊されようだ。もはや一刻の猶予もない。


「リリ、頼むから──」

「だって!」


 顔を上げるリリ。涙を流しぐしゃぐしゃになった顔で少女は言う。


「だってはなれたらパパみたいにどっかいっちゃうんでしょ! ママだって私たちは大丈夫だからって言ったのに、帰ってこなかったもん!」


 そう言うリリを見て、雄斗は言葉に詰まる。リリの顔には恐怖とトラウマがあった。レストディアの襲撃で両親の死を思い出したのだろう。

 今更だが彼女が両親を失ったのは雄斗が初めて参加した【アルゴナウタエ】の任務だ。フェリドゥーン一族を始めとする戦士たちの奮起があったとはいえ、アサラムの民に被害がなかったわけではない。事件発生初期に都市外延部にいた者たちは少なからず【異形種】の牙にかかっていた。

 そして、その少数の中にリリの両親がいた。なんでも別の都市への買い付けの帰りだったという。そして彼女の両親は娘であるリリを守ろうとし、襲ってくる【異形種】への囮になり帰ってこなかった──


「だから、いや! はなれない!」


 再び腰にしがみついてくる少女を見て雄斗は苦渋の顔となり、しかしすぐに決断する。

 リリが生きていることが最優先。例えまたトラウマを負うことになったとしても、生きてさえいれば立ち直ることはできる。マリアやリタ、孤児院の仲間たちがそばにいるのだから。

 刹那にそう思った雄斗はリリの首根っこを掴むと強引に引きはがし、さらに自身から突き飛ばす。


「やぁ……」


 トラウマがフラッシュバックしたのか、表情を引きつらせるリリ。

 雄斗は沸き上がる罪悪感を無視してポーチを開け転移符を取り出すが、符の状態を見て雄斗は愕然となった。


「……!」


 取り出した符は水分を吸ってふやけており文字も滲んでいる。ただの水や湿気でこうなるはずが無い横─そう思い、気づく。

 以前のマリアとの模擬戦と同じように体に無数の水滴があり、周囲の湿度が過剰に高まっていることに。

 レストディアが放つ水を用いた攻撃による急激な湿度上昇。これはおそらくマリアが行使したものと同じな上、それに魔術具に不良動作を起こす呪いも篭められていたのだろう。

 ともあれ呪符がこんな有様では、雄斗の部屋への転移ができない。いつもより重くなった体を感じながら雄斗は呻く。

 

「くそがっ……」


 雄斗は傍にいるリリに向けて何十もの結界を施す。

 上位の魔術でも神威絶技でもない雷の結界。だが無いよりはマシだ。雪菜が駆けつけるまでの時間稼ぎになればいい。

 そう雄斗が思ったその時だ、正面に巨大な力の気配を感じる。

 戦士の危機察知能力に動かされそちらへ視線を向け、雄斗は絶句した。


「なっ……!」


 正面の【異形王】の両翼が横に大きく広がっていたのだ。それはさながら獲物を一口で食らおうとする大狼の顎だ。

 展開された水の翼は大きく長い。孤児院はおろかその周辺を一気に飲み込んでしまうのではないかと思うほどだ。

 雄斗を見たレストディアはにやりと嫌らしい笑みを浮かべた。勝ち誇ったそれを見たのと同時、雄斗は前に出る。あの咢のような大翼は防戦、回避だけしていたらリリたちを守り切れないからだ。


「おおおっ!」


 数十メートルあった距離を瞬く間に詰めてはレストディアへ斬りかかる。距離を詰めてきた雄斗に【異形王】も即座に反応、再び両手から剣を発生させて振るってくる。

 神速閃電の戦技、剣戟を放つ両者。しかし至近距離での剣の交わりが十回を超えたとき、レストディアは後ろへ下がる。理由は単純だ、雄斗の繰り出す斬撃がいくつも体を抉ったからだ。

 【異形王】の技量は予想通り神クラス、こちらの動きを捕らえており、太刀さばきにも反応してくる。マリアや雄斗と同じく【心眼】と【閃電の太刀】を持っている。

 だが雄斗ほどではない。マリアより少し上、と言った程度だ。本気を出した雄斗には、及ばない。


「ちいっ……!」

「逃がすか……!」


 下がる【異形王】へ距離を詰める雄斗。苛立っているような顔をしたレストディアは雄斗が剣を振り下ろしたのと同時、雄斗の正面に水の塊を発生させ、放つ。しかし雄斗は即座に放った電撃で水弾の軌道をそらし、【異形王】の体を袈裟切りにする。

 二つになったレストディアの体は次の瞬間、傷口同士がくっつきなかったことになる。常軌を逸した再生能力だが雄斗は微塵も動揺せず前に出る。

 そして直後、全方位からくる水の弾幕。百を超えるそれらを雄斗は雷となり、空高く飛び上がって回避。追尾してきた水弾だが雷速で弾幕の間を通り抜け、距離をすぐさま詰める。

 剣が届くあと数メートルといった距離に来たところで【異形王】の両翼が鞭のようにしなり──上下から同時に──迫るが、雄斗は先に来た上から向かってきた鞭は見切りで回避し、直後下から来た鞭は雷を集中させた左足で踏み台にして前に踏み込み、【異形王】を剣の間合いにとらえる。


(あいにくだが神クラスの水使いとの戦い方は身をもって知っているんだよ……!)


 【アルゴナウタエ】に来て何度も行ったマリアとの模擬戦は、雄斗に水使いとの戦闘経験を確実に積ませていた。

 神クラスの相手による理不尽、変則と言った攻撃への対処レベルは着実に上がっているのだ。

 繰り出した斬撃が【異形王】の首を断ち切る。すぐ直るのを目の当たりにしながらも雄斗は構わず次撃を繰り出そうとしたその時だ、レストディアがかっと両目を見開く。


「アアアアアアアアーーーーーーーーー!!!」


 【異形王】の口内より放たれる叫び。衝撃波を伴うそれが、剣を振るおうとしていた雄斗を吹き飛ばす。


「ちっ……!?」


 雄斗は地表に落下しかけるも、途中ですぐさま体勢を立て直す。

 しかし視界に映ったレストディアの姿を見て、大きく目を見開いた。【異形王】の容姿が変貌していたからだ。

 先程まで両翼を生やした細身の悪魔族だったレストディアだが、背部の翼は四枚になっている。さらに体躯は分厚い筋肉が盛られ、四肢も鍛え上げられたか格闘家のそれだ。頭部の角も六つに増えており、王冠を思わせる並びとなっている。

 両脇には水でできた牡牛と猛禽の姿がある。【異形王】が生み出したる眷属より放たれている威圧感から、二体とも軽く見積もってもAクラスの【異形種】と同等だろう。

 そしてこちらを睨んでいる【異形王】の顔は険しい顔だ。放たれている圧も先程の比ではない。小物である雄斗にてこずらされていることに苛立ったからだろうか。

 

「貴様の相手はもう飽きた。邪魔が入らないうちにさっさと用事を済まさせてもらおう」


 傲然と言い放ち、【異形王】は視線を雄斗ではなくその背後にある孤児院へ向ける。 


(とうとう本気になったってところか)


 周囲──眼下には誰もいない田んぼがある──にちらりと視線を向け、雄斗は大きく深呼吸をする。


──君単独では厳しい戦いを強いられるだろう


 脳裏に響くのはグレンからマリアへの忠告だ。全力のマリア()でさえ単独で倒すことが厳しい相手が本気になった──


「っ!」


 頬に冷や汗を流しながら雄斗が思ったのと同時、【異形王】の眷属が動いた。

 牡牛は真っ向から突っ込んできて、猛禽は姿が掻き消える。雄斗は五メートルもの見事な体躯の牡牛の突撃と、直後に頭上から迫ってきていた猛禽を回避する。

 しかし反撃とはできなかった。直後、レストディアの右手より極大の水の砲撃が放たれたからだ。樹齢数百年の巨樹のような大きさで螺旋を巻いたそれを雄斗はギリギリ回避するが、【異形王】は立て続けにそれを放ってくる。


(くっ……!)


 一撃でもまともに食らえば大ダメージどころか戦闘不能、最悪即死さえしかねない濁流の砲撃と、その間を縫って牡牛や猛禽が死角から襲来してくるのを雄斗は声を上げることさえできず、ただただかわし、逃げ続ける。

 攻撃、反撃する間もない。と言うよりしても意味がないのでしない。どちらも雄斗の放つ雷撃や剣戟で粉砕することはできない。

 砲撃も眷属たちも、込められている魔力の量が違いすぎるのだ。溜めのない攻撃を放ってもせいぜい弾くか逸らすぐらいしかできない。


(わかってはいたが想像以上に強い……!)


 本気を出した【異形王】には手も足も出ず、雄斗は自身の力のなさを実感する。

 ここまでかわし、逃げきれているのも【雲耀】と【万雷の閃刀】の協力で雷に変化したり、雷速で動けているからだ。

 もし【万雷の閃刀】がへそを曲げたままなら水の砲撃の初撃で致命傷を追い、即死だっただろう。

 しかし今の状態でさえ回避が精一杯。眼前の怪物の強さは雄斗の想像を大きく超えていた。

 雄斗は【心眼】と回避に全力を注ぎ、砲撃と眷属の襲撃をかわして避けまくる。しばらくするとレストディアの攻撃が止み、眷属二体も再び主のそばに並ぶ。


(打ち止めか? って、そんなわけないか)


 肩で息をしながら雄斗は自身へ突っ込む。【異形王】が放つ威圧感も、感じられる巨大な力も先程と何ら変わっていない。

 両手を突き出すレストディア】。そして彼の周囲に七つの巨大な水の蛇が発生した。


「【生命を呑み潰す七魔蛇クラッシュ・サーペント】」


 同時に遅いくる水の大蛇を稲妻となって回避する。だが水の蛇は軽やかな動きで身を翻し雄斗を追尾してきた。


(先ほどの砲撃よりも馬鹿でかいくせに動きも速く追尾してくるとか。無茶苦茶だ!)


 追い続けてくる水の大蛇──レストディが放つ【殺戮技】を見て、雄斗は心中で叫ぶ。

 神々が【神威絶技】を扱うように、【異形王】たちもそれと同等の超常の技を持つ。

 それが【殺戮技】。数多の人間や神々──敵対するものたちをおう殺する技だ。

 怪物が放つ不条理極まりない攻撃に心中で叫びながら雄斗はひたすら逃げ続ける。しかし濁流は何度かわしてもしつこく追尾してくる。

 さらにそれに再び牡牛たち眷属による攻撃が加わる。しかも眷属たちは先程のような突撃だけではなく主のような遠距離から水による遠距離攻撃も織り交ぜてくる。

 それにより雄斗もさすがに完全に回避することはできなくなる。眷属たちの攻撃が体をかすめ、服を破り、瞬く間に無数の擦過傷が体に刻まれ、血が流れだす。


「!」


 そしてついに、限界が来た。眷属二体の遠距離攻撃をかわしたその時だ、追尾していた水蛇が一つとなり、かつて無い速さで距離をつめた。

 先ほどよりも速い上、回避した直後。当然避けようとした雄斗だが、左腕が蛇の顎に呑まれた。


「──」


 ぶち、と言う音がはっきりと耳に響く。

 体勢を崩した雄斗は地表にある田んぼへ落下し、不時着した飛行機のように地面を滑り続ける。


「がはっ……」


 水と泥にまみれながら雄斗は吐血。視線を左に向ける。

 予想通り、左腕が丸々無くなっていた。痛みを感じないのはダメージが大きすぎて痛覚自体が麻痺してしまっているのだろう。

 左腕の付け根から出血はしているものの、以前欠損したほどではない。【万雷の閃刀】が気を回して止血しているのだろうか。

 ただはっきり言えることは今の雄斗は戦闘不能寸前だということだ。魔力も少なく【雷帝招来】も攻撃を受けたショックで解除されてしまっている。【万雷の閃刀】を握っているのは奇跡だ。


「ぐっ……」


 ともあれ立ち上がらなければと思い雄斗が体を起こそうとした時だ。その動きがやけに鈍い、と言うよりも体が思ったように動かない。

 一体どうしたのかと周りを見て気づく、体を濡らしている水や足や臀部を汚している水をたっぷり含んだ泥が体に纏わりついていたのだ。

 レストディアの仕業だ。だが今の雄斗はそれ気づいても抗う力もない。そしてそんな状態の雄斗の前に【異形王】が降り立つ。


「よく戦った。まずは貴様を前菜としよう」


 ニヤリと愉悦のある笑みを見せた【異形王】は、先程のように腕や翼を大きく広げ、飲み込もうとする。


「……!」


 眼前に迫る死に、束縛をどうにもできない己に雄斗が歯噛みしたその時だ、覚えのある巨大な魔力を感じ、レストディアがその場から離れる。

 直後、眼前に水でできた長大な龍が姿を見せる。【異形王】の操っていた暗く濁った水ではない、澄んだ水で構成されている龍だ。


「ギリギリで登場か。

 さすが女神様。タイミングがわかってるな……」


 雄斗が力ない様子で微苦笑するのと同時、眼前に眩い黄金の輝きと清浄な水をまとうマリアが降り立った。






次回更新は4月28日7時です。

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