なにがお嬢様をそうさせたか3
プロローグおわり!
「あなたがわたしの側使え?」
目を開けるとそこには女神がいました。
美しすぎる金の瞳! 同じく髪! 白皙の美貌! 私もお嬢様が処刑されたショックでついに死んでしまったに違いありません!
およよ。思わず顔を覆って両ひざをついてしまいます。
「なんで顔を隠すのよ!」
そこで私は気が付きました。この声、あまりにも聞き覚えがありすぎます。恐る恐る手を解いて小さくあたりを見渡すと。
嫌悪感いっぱいで私を見下ろす奥様。苦笑される旦那様。そして……
「お……お嬢さま!」
私の正面にはまさに懐かしいお嬢さまのお顔がありました。8年以上お仕えしたお嬢様の花の顔を忘れようはずもありません。跪いたことでちょうど私はお嬢様の目を正面からのぞき込むことになりました。
記憶にあるより少し幼いその眦、私の三倍くらいあるそのまつ毛、人でも食ったような赤い唇……まさに、私が初めてお嬢様にお仕えしたその日の事のようです。
私がお嬢様の若干引いた顔に見とれていると、頭上から渋い声が降ってきました。
「あー、神官長様。この少女が信仰心に篤い事は分かったのだが、プリジエはまだ8歳なのですから……」
それは旦那様から発せられた幾分の苦笑いの込められたお言葉でした。その言葉に後ろを振り向くとそこには……
「申し訳ありません侯爵閣下。この者も外に出るのは初めてでして……」
同じく苦い顔で微笑む我らが孤児院の院長様……神官長様がおられたのでした。
「もっ! ……うしわけありあせん」
床につけた両ひざをばねの様に跳ね飛ばして私は臣下の礼を改めてお嬢様に捧げました。相変わらず頬がお引きつり気味です。
「……師父様からのご紹介ですから疑いませんけれど……その」
使えるのか、こいつ。という目をお嬢様がよこしてきます。旦那様、私の直接の雇用主であるポルジェ侯爵閣下も口にはしなくとも同じように視線で訴えかけてきます。奥様などはもう見なくてもわかります。
「ええ、今は尊きお方を前にして緊張があるのでしょうが、この者は公用語は勿論神聖古語の読み書きも、多少複雑な計算や馬も人並みには扱えますよ」
神官長様がそういうと意外の感に打たれたらしいお嬢様は目を見開いた。
こうみえても意外と優秀なんです!
ほんの僅かばかり胸をはる私に神官長様が目線で促します。
姿勢を正し、背筋を伸ばす。
「フローレス=エベーヌ・フュメ・パロセントでございます。本日よりお嬢様のしもべでございます」
なにがあったのか、何が起こったのか、正直私にはさっぱりわかりません。
それでも、たった一つだけはっきりしていることがあります。
お嬢様は私が幸せにして見せます!
お嬢様
オリヴィエ=プリジェ・パルファム・ポルジェ・オード・ムスキー様です!
御年8つにして完成された美しさ! 感服です!
長い金の巻髪は奥様譲り、同じ色の勝気な瞳は旦那さま譲りです!
お美しいだけでなく大変頭も良いのにあんな王子殿下にひっかかって、おいたわしやお嬢様。
わたくしメイド!
フローレス=エベーヌ・フュメ・パロセントです!
こう見えても意外と優秀です!
王子殿下
名前は正直忘れました! もうお嬢様には絶対合わせません!
……とはいかず……?