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なにがお嬢様をそうさせたか

お嬢さまが処刑されるので悲しみのあまりテンション低めのメイドさんです

「罪人、オリヴィエ=プリジェ・パルファム・ポルジェ・オード・ムスキー。これへ」


 王城の前の広場でムカつく頭をした裁判官がお嬢様の御名を読み上げた。広場の最前、裁判官のその後ろ、一段高く据えられた断頭台へ多くの目が注がれていた。これまで過去の処刑と同じように娯楽と血に飢えた暇な平民どもがその大半で、少数ながら趣味の悪いお貴族様も何人か見受けられる。中には、今回の処刑の、お嬢様のお狂いの原因となった王子殿下とまんまとその妃の座を掠め取った小憎たらしい平民上がりの女の顔も見受けられた。


 殿下も泥棒猫も表では痛ましいといった顔を作っているが、どうせこのあとに続く二人の明るい未来だとか晩のおかずだとかを考えているに違いない。しかし美形はこんな時、状況でも人の目を引くようで溜息をつく洗濯女や前のめりになっている下男どもがうっとしい事この上ない。


 お嬢様もあの男のあんな憂鬱そうな美貌に騙されてしまったものだから遣る瀬無い。あんな王子のどこがいいんだか、だいぶ顔が良くて、地位と権力と財力があるだけに飽き足らず、平民も貴族も分け隔てなく優しく、その上文武両道で体も動かせれば頭も良いだけの、あと何より顔が良いだけのあんな男に……


 おっと、ダメ王子に見とれていたらいつの間にかお嬢様が裁判官の前に跪かされていた。


 垢と脂に汚れ。見る陰もなくなったお嬢様が。


 そのお姿を見たとき、私は掌に食い込む自身の爪の痛みに我に返った。殿下たちを見ていたときから、血がにじむほど握りこんでいたらしい。


 あの女神のごとくと謳われた波打つ金の御髪は、辱めの為短く刈り取られてしまっている。かつて、王子殿下を振り向かせるためお梳きしたあの美しく長い髪が貧民のように、頭の形までわかるほどに。


 お顔立ちも、短くない牢での生活の為すっかりとやつれてしまい、頬は色を失い、もともと薄かった肌のお色は死人のように白くなってしまっている。その上に埃に血に汚れていらっしゃるので痛々しさもひとしおだ。


 私は自身の心臓を握り潰してしまえればどれほどよいだろうとさえ感じた。なぜ、お嬢様があそこにいるのか、なぜお嬢様があのような辱めを受けているのか――


 お嬢様はゆっくりとそのお顔を上げ、裁判官を見上げた。その気品あるお姿に一瞬、広場に集まった誰もが口を閉ざした。辱めにも屈さない、威ある気品には裁判官も押されたようだった。何事かをもごもごと口のなかで飲み込み、ついに罪状の読み上げが始まった。


 お嬢様は、声にだけは威厳ある裁判官の言葉を静かに、目を開いたまま受け入れていた。


その時、広場の脇で低いどよめきと、一瞬の喧騒が起こった。


 「オリヴィエ様を放せ……!」


 騎士どもに取り押さえられながらも叫んだのは我が家に……すなわち、私と同じくポルジェ家にお使えする家令見習いのジャックだった。


 ジャックは尚も喚きながらお嬢様の解放を訴え続けたがついには殴り倒され、拘束されていた。


何やってるんだ、あのバカは。


 再びお嬢様へ向き直ると、お嬢様もまた先ほどのジャックの喧騒へ目を向けられていた。


 とても、悲しそうなお顔をされて。しかし、その表情も次の瞬間にはいつも通りの冷徹なほど美しく優雅な横顔に代わっていた。ついに裁判官を振り返られて、形の良い黄金色の頭が見えるだけになった。


 ああ……、バカは、わたしだ。


 これまで、最も長くお嬢様にお仕えし、最もお嬢様を支えてきたのは私の筈だ。なぜ、お嬢様があそこにいるのか……? いや、なぜ、あそこに、私はいないのか……


 なにがお嬢様をこうさせてしまったのか……


やっぱり時代はメイド逆行モノですよね! 

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