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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

甘い世界

公爵令嬢は甘い世界など好まない。

作者: 島田莉音


生姜焼きから生まれた、息抜き作品Part2です。設定甘々なので、深く考えずにお読みくださいませ!

詳しい世界観・解説は後書きにて!



息抜き作品Part1(?)の「鮮血卿の花嫁〜いつの間にか結婚してました。でも、結構悪くない〜」が日間異世界(恋愛)のランキング入り(26位)しました〜! ありがとうございます!


回避する‼︎(ヤンデレ)シリーズ共々、今後とも〜よろしくお願いどうぞっ(*´∀`*)


 







 原因不明の高熱にうなされていたエトワール・マレード公爵令嬢は、不思議な夢を見ていた。






 見たことがない乗り物。縦に長い建物の群れ。行き急ぐ人々。自分のチョコレート色の髪とベージュ色の瞳と違い、殆どの人が黒髪黒目だ。加えて、貴族令嬢であれば考えられない、足を晒す服装を纏っている。

 ふわふわと幽霊のように彷徨さまよいながら。エトワールは、その不思議な光景を見つめ続けていた。

 だが、ある日……。



 小さな部屋の中でーー光る箱を前にぶつぶつと呟く女性と出会った。



『やっばいわー、めっちゃやばいわー。安売りしてたから買ってみたけど、めっちゃご都合主義ー。つーか、甘い食べ物が普通の世界ってなんなの? マジでタイトル通りじゃん。この乙女ゲーム作った人は、甘い物がめっちゃ好きだったの? この世界の住人達、四六時中甘い物食べてたら糖尿病になりませんか? 太りませんか? そもそもさ? ファンタジー世界なのに、なんで現代調味料各種揃ってんの? なのにっ、砂糖しか使ってねぇよ! ってか、お料理パートで砂糖以外使ったら失敗ってなんでやねんっ!!』


 彼女はカチャカチャと手元の何かを使いながら、言葉を紡ぎ続ける。

 その間に、光る箱に映る映像は変わっていって。

 言葉を交わすことはできないため、エトワールは摩訶不思議な光景をじっと見つめていた。


『…………はぁ。お腹減った』


 唐突に、彼女はポイっと手に持っていた物を投げると、立ち上がって歩き出す。

 その先にあるのはこれまた小さな台所キッチン

 彼女は長方形の箱を開けると、中から色々と取り出して……台の上に並べ始めた。


『今日は〜生姜焼き〜』


 リズミカルかつ慣れた手つきで作られる料理。

 いつも食べるだけの食事が、こうして作られているのだと知ったエトワールは興味津々な様子でその流れを観察する。


『隠し味は〜ケチャップ!』


 そうして出来上がった料理は、ホカホカと湯気を出していて。

 美味しそうな匂いにエトワールのお腹が〝ぐぅうっ……〟と小さく鳴った。

 貴族令嬢としての教育を受けてきた彼女は、自分がここまで食い意地を張っていたのかと少し驚く。

 けれど、それほどまでにその料理からは良い匂いがしていた。


『うまうまー』


 白いお米を食べながら、お肉を食べる女性はとても幸せそうだ。

 それを見ていることしかできないエトワールは、羨ましくて堪らない。




 それからも……女性は箱に映る映像を進めては、美味しそうな料理を作って。それを美味しそうに食べて、また箱の前に戻るという生活を繰り返していた。

 エトワールは食欲をそそる匂いだけしか嗅げない状況に涙が出そうになる。


『お腹が空きましたわ……』


 あまりの空腹感に、意識が朦朧もうろうとする。


『うまうま〜』





 女性の暢気な声を聞きながら……空腹に耐えかねたエトワールはゆっくりと意識を手放していった。






 *****






 その日はいつも通りの昼食ランチタイムのはずだった。




 学園のカフェテリア。

 その一角でエトワールは、婚約者であり王太子であるジン・アプル殿下と食後のお茶をしていた。

 しかし、いつも通りが打ち破られたのは今年、学園に入学したジンの弟……第二王子アプト・アプルが二人の元に訪れたからで。

 彼は見たことがないーーけれど、庇護欲を煽るような愛らしい顔立ちの令嬢を連れ添っていた。


「兄上」

「ん……? 学園で声をかけてくるとは珍しいな、アプト。どうした?」


 ジンは手にしていたティーカップをソーサーに置いて、弟の方を向く。

 すると、丁度、アプトが連れて来た令嬢と視線が合って。令嬢は榛色ヘーゼルの瞳を見開き、その顔を驚きに染める。

 そしてーー……。




 ーーーーとんでもない、爆弾発言を落とした。




「なんで……なんで、第一王子が生きてるの……?」



 サァァァア……。

 その一言で、カフェテリアの温度が一気に氷点下にまで下回った。

 エトワールはティーカップを持つ手がガタガタと震えないように気合いで我慢する。頬が引きりそうになるが、今までの王妃教育を駆使して柔らかな微笑みも絶やさない。

 だが、それでも震えずにはいられなかった。



 何故ならばーー向かいの席に座った婚約者の、ジンの放つ威圧感が……殺気と言っても過言ではないほどだったのだから。



「ほぅ……?」


 ジンは肘をつきながら、首を傾げる。

 さらりと揺れる落ち着いた色合いの金髪。琥珀色の瞳は剣呑な光が宿っている。整った顔立ちには獰猛な笑みが浮かんでいる。

 その姿はまさに獲物を見つけた肉食獣。

 獲物となった令嬢と、そんな彼女を連れて来た第二王子アプト・アプルは顔面蒼白になっているが……はっきり言って、自業自得でしかない。けれど、あまりの脅えように……ほんの少しだけ。米粒一つ分程度は、同情してしまった。


「アプト」

「は、はいっ……兄上!」


 ジンに声をかけられたアプトはビクリッ!! と身体を震わせる。ジンの二つ歳下の彼は、兄とよく似ているが……その威厳は比べ物にならない。

 アプトは冷たい視線を向けるジンを見て……冷や汗を掻きながら、大慌てでその場に跪いた。


「それは?」

「ミルフィーユ・パルフェ子爵令嬢ですっ……! 彼女を兄上に紹介したいと思いっ……」


 ーービクリッ!!

 アプトによって紹介されたミルフィーユは、思わずその場に後ずさる。

 ふわりとパステルピンクの髪の毛が揺れる。彼女の視線が、助けを求めるように彷徨う。

 そんな彼女を見て、エトワールは思った。



 〝あぁ。そんな反応をしたら、余計に不興を買うだけなのに〟ーーと。



「それで? その子爵令嬢は俺が生きているのが不思議なようだが……お前は俺に暗殺者でも仕向けたのか? そんな女を連れて来たということは、アプト。貴様も俺に害意があると考えていいのか?」

「ち、ちがっ……」

「そのようなことは一切考えておりません!! わたしの忠誠は、未来の王たるジン・アプル王太子殿下と未来の王妃たるエトワール・マレード公爵令嬢に捧げられております!!」

「では、どういうつもりだ。子爵令嬢」


 ーービクビクリッ!!

 ミルフィーユは泣きそうになりながら、オロオロとする。自分の失言に気づいているのだろう。

 だが、王子に問われたことを答えないのもまた不敬。

 彼女はぷるぷると震えながら……ポツポツと、語り出した。


「で、殿下はっ……偏食家だとお聞きしておりましたっ……そのため、食事を満足に摂れないとっ……なのでっーー」

「………ふむ。それは王宮でも一部の者しか知らぬはずなのだがな。一体全体、どうして子爵令嬢でしかないお前が知っているんだか」

「えっ!?」


 ミルフィーユは〝やってしまった〟と言わんばかりの顔をする。

 ジンは冷たい目で弟を見つめた。


「アプト?」

「神に誓って、話しておりません!!」

「ならば余計にキナ臭いなーー情報を吐かせろ。連れて行け」

「ハッ」


 ーースッ。

 音もなく現れた護衛騎士が一瞬の内にミルフィーユを拘束して、王宮へと連行していく。

 十分にも満たないやり取り。

 けれど、たったそれだけでランチタイムは穏やかな時間ではなくなってしまっていた。

 しかし、ミルフィーユはそれだけのことをしてしまったのだ。



 第一王子……王太子に向かって〝なんで生きてるの?〟なんて言えば、こうなるに決まっている。



 だからこそーーミルフィーユが王宮に連行された程度で済んだことは不幸中の幸いだったのだ。

 下手をすれば王太子殺害の意思ありとして、今この場で斬り殺されてもおかしくなかったのだから。


「申し訳ございませんでしたっ……! 彼女は素晴らしい料理の腕前でっ……兄上のお気に召す料理が作れるかと思いましてっ……」


 ガクガクと震えるアプトの姿は、審判を待つ罪人のようだった。

 しかし、その声には決して敵意はなくーー兄を想う弟の気持ちが滲んでいて。ジンは弟が善意から、ミルフィーユを紹介しようとしたのだと理解した。


「……今回の件は不問とする。しかし、次はない」

「ハッ……!」

「俺の食事を作るのはエトワールだけで良い。そうだろう?」


 ゆっくりと向けられた顔には、既に殺気はない。

 穏やかな笑み。優しく持ち上がった口元。そして……愛情と敬意と執着をい交ぜにした瞳。

 エトワールはにっこりと微笑み返す。

 高熱で魘され、生死の境を彷徨ったことで……この世界の甘い食事が受けつけなくなった公爵令嬢(自分)と、幼い頃の毒殺未遂によって味覚が変わり……甘味に不快感を覚えるようになってしまった王太子。

 この世界で唯一、自分と同じ食事を食べられる人に向かってーー彼女は告げる。



「はい、勿論ですわ。わたくしが作る料理は……貴方様のためにあるのですから」






 公爵令嬢は、甘い(物ばかりの)世界など好まない。








【世界観】

乙女ゲーム《幸福の乙女は、甘い世界に溺れる。》というタイトルの、甘い味付けが常識の世界。だけど、何故か現代調味料が揃っていると言う謎。そこはほら……ご都合主義なので。


【登場人物】

⚫︎エトワール・マレード

(モチーフ・エクレアとマーマレード)

公爵令嬢な主人公。幼い頃に高熱を出し、その際に幽霊状態で異世界を彷徨った。その際に出会った女性(見てるだけだったけど)のおかげで、運命が変わった。正確に言うと、腹ペコキャラになった。ついでに性格もマイペースになった。ジンにかな〜り執着されてんなぁ〜とは思うけど、実害はないからスルーしてる。


乙女ゲーム的には悪役令嬢。第二王子の婚約者として、ヒロインを虐めるていた(他のルートでも悪役令嬢として出てくる)。最後はテンプレらしく断罪される。


⚫︎ジン・アプル

(モチーフ・生姜焼きと林檎)

第一王子でヒーロー。幼い頃に毒殺されかけ、なんとか一命を取り留めたが甘味に不快感(だいぶオブラートに包んだ表現)を覚える体質になってしまった。そのため、拒食症みたいになっていたが……エトワールが異世界の料理を作れた(最初はかなり下手だったけど)おかげで、食べれるようになった(料理人は?って思うかもしれませんが、何故か甘い味付けになるという不思議が発生する)。王として相応しく、敵対者に対しては苛烈。だけど、身内には甘いところもある。

ちなみに、エトワールに執着してる。自分を救ってくれたから。


乙女ゲームでは、栄養失調で死んでしまっている。


⚫︎ミルフィーユ・パルフェ

(モチーフ・ミルフィーユとパフェ)

子爵令嬢。異世界転生者。自分が作った乙女ゲームに転生した人。なので、若干恥ずかしいと思いなざらも自分が作ったキャラが生きてる世界にきゃーっ!! ってなってる。そのため、本来死ぬはずだったジンが生きていたことに驚いて失言した。

その後、事情聴取後に解放されて……まぁ、異世界転生の知識(お料理とか医学とかね。戦争の知識とかは争いの種にしかならんから聞かなかった)を提供することになる。


乙女ゲームではヒロイン。お菓子づくりで攻略対象達を攻略していった。


⚫︎アプト・アプル

(モチーフ・杏と林檎)

第二王子。兄上大好きな弟。本人も優秀だが、自分は敵にも身内にも甘過ぎると自覚しているので、王として相応しいジンを尊敬している。

将来は優秀な臣下となる。ミルフィーユとの関係は……本人達のみぞ知る。


乙女ゲームでは攻略対象。亡くなった兄の代わりに国を背負う重責に潰れかけていたが……ヒロインに救われる。





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― 新着の感想 ―
[一言] 出来れば、エトワールの作った生姜焼き(これ大事!)を食べて驚く第一王子のお話も読みたいです。そして囲い込むという… とりあえず、自分もお腹空いたので生姜焼き作ってきます(笑)
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