森の中でみた洋館の記憶
「今日は探検してから帰ろうぜ」ある夏の日にガキ大将が言った。
当時小学1年生だった私に拒否権はなく、その場にいた男女5人で下校ルートを少し外れたところにある森の中へ入っていった。
ガキ大将の後ろをついていくと、1軒の洋館が現れた。
無造作に生えた草や外壁の具合から今は誰も住んでいないことを子どもながらに察した。
玄関の扉を開けると外観とは一転して中には下駄が散乱している。
と、私の鮮明な記憶はここで止まっていた。
お化けが出たとか変な音が聞こえたというオチもない、ただの子どもの頃の思い出だと思っていた。
今日は久しぶりの帰省だ。
車で実家に向かう途中にこの子どもの頃の記憶を思い出した私は、今あの洋館がどうなっているのか確かめたくなった。
実家に車を置き、記憶を辿りながらあの森へ向かった。
着いた。と思う。そこには何もなかった。
いや、ただ森が広がっていた、というべきだろうか。
そこに昔何かが建っていたであろう痕跡すら見当たらなかったのだ。
10年程度で十数メートルの木が生えそろうことは流石にないだろう。場所を間違えているのだろうかと改めて記憶を掘り起こす。
当時男女数人で洋館へ行ったことは覚えている。誰が行こうと言い出したんだっけ?近所の上級生なはずなのに顔が思い出せない。
いや待て、言い出しっぺは本当に近所の上級生か?状況から勝手にそう思い込んでいただけなのでは?
そういえば他に一緒にいた子たちは誰だ?誰一人として思い出せない。
自分の記憶の曖昧さとうまく説明できない違和感に鳥肌が立った。
本能的にここにいては行けない気がし、私は大急ぎで森を抜け家へ帰った。
家族は汗だくで帰ってきた私を見て、豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。
「ただいま…」そう言いながら息を整える。
家族は未だ唖然としている。
私は今そんなに酷い顔をしているのだろうか。
「ちょっとシャワー浴びてくるね。」
汗を流し「スッキリしたー」と上機嫌の私とは対照的にリビングにいる家族がよそよそしい。
久しぶりだから緊張しているのか?なんて呑気なことを考えていたが、妹のスマホ画面が目に入った瞬間頭が真っ白になった。
妹のスマホに映し出されていた検索履歴にはこう書かれていた。
「幽霊 家族」