プロローグ
俺は社会人、男、26歳。
現在うつ病を患っている。
うつ病?聞いたことない。
って人は、この時代そんなにはいないと思う。
みんなどこかしらで一度は耳にしたことがあると思うし、もしかしたら今この瞬間にもうつ病と
戦っている人がいるかもしれない。もしそうだとしたら、俺はどう声を掛けたらいいのか、正直
分からない。俺は医者でもなければカウンセラーでもない。うつ病を患った一人の男に過ぎない。
だから自分がその時どう感じたかはいくらでも書ける。しかしじゃぁ、どうしたら自分の状況を
好転できるのか?と問いかけると答えが出てこないのだ。
いや、正確には分かる。
俺は冒頭でも述べた通り、会社員だ。
彼女も、いた。
人生大成功、という訳ではなかったけれど、そこそこ順調な人生を送れていたように思う。
最初の部署でそこそこの成果を残した俺は、いわゆる花形部署に異動した。
「俺は優秀だ。だからこそこの部署に来た。さぁどんな仕事でもこなしてやる。かかってこい」
ここだけ聞くと粋がっているように感じるだろう。実際そうだったのかもしれない。(これは、今
振り返って思うことだが)
結果から言おう。
俺は潰れた。
以前に比べて仕事の量は多く、求められる質は高かった。
だがそれは誰もが一度は通る道、だと思いなんとか疲弊しながらも乗り切ってきた。
しかし、ある男が俺の新たな上司になり、世界は変わった。
早口で捲し立てられ、手元で別の作業をしているうちから次の仕事の話をし始める。
あの目で睨まれると俺の頭は真っ白になり、思考が完全に停止した。
職場のトイレからなかなか出られなくなった。
悩みを相談できる人が居たらよかったのかもしれない。
だけど俺にはいなかった。
親にも相談できない。
彼女にはざっくりと説明してはいたが、言っても他人だ。
だけど俺にとっては大切な人だった。それだけは間違いない。
ま、俺の現実世界の話は暗くて全く面白くないだろう。
それにこれから先の話の中で触れていくことにもなるだろうしそろそろ終わらせようと思うが
もう少し付き合ってくれ。
俺は休職した。けれどずっと永遠に休職することはできない。
復職。
これは、何と表現したら良いんだろうな。俺にとっては「地獄」だった。
今までと同じ部署への復帰だった。
ということはあの男とまた同じ時間を過ごさなければならないわけだ。
あの頭が真っ白になる感覚。
思い出すだけで恐ろしい。
薬は飲んでいる。
飲んでいるけれど、それでも不安が次々と沸いてくる。
もう後は寝るだけの状態で最後にトイレを済ませておこう、ということで俺は今
自宅のトイレに居る。
壁に掛けてある安い時計の針が23時59分を指している。
もう、明日が来る。
だけど寝ないといけない。
薬が効いてきたおかげか眠気が俺を襲う。
レバーを回して流し終えてからドアを開ける。
さて、俺がまさかこんな言葉を口にする日が来るとは思わなかったが、言わせてもらう。
「ここ、どこ?」