4、餞別と王家の現状
こってり魔石の使用感を、如何するべきか考えつつ、今日もチョコレートと紅茶が美味いです。
魔王討伐メンバー顔合わせも兼ねた、学園寮食堂でのささやかな晩餐会が終わり、私は挨拶をして、部屋に戻っていた。
大事な前の晩こそ、さっさと寝て明日に備えなければ。
そんな自分の体力への省エネ活動という基本的な考えの元、さっさと風呂入って寝るぞモードで、私は廊下をスタスタと、例の如く、最速で最短ルートで寮の自室に向かい歩いていた。
「あの、ハルさん。」
後方から、男の子の、、、可憐な口調で呼ぶ声がした。
私は最速でピタリと止まり、必要最小限度の振り向きで、後方へと目を向けた。
「はい。なんでしょうレン様」
美脚で長身の褐色美人、レン様ははにかんで言った。
「レンで良いわよ?なんだか、、、遠い感じがして寂しいわ。」
そう言う顔が、少し寂しそうで、ああこの人は、こんな表情も、なんて絵になる。クッソ!またしても私はカメラを持っていなかった。勿体無い。超絶シャッターチャンスだというのに!
「いえ、あのですね。流石に呼び捨ては恐れ多いというか、、、。私的にはレン様とお呼びする方が、断然しっくりくるし、寧ろ光栄で、そうする事で、私が心から気持ち良いのです。」
私の言葉に、レン様は一瞬キョトンとして、そしてすぐに破顔して微笑んだ。
ああううっ!なんて破壊力だ!
魔王討伐の前に、私が先に天へ召されそうだ。
そして再び、私は手にカメラを持っていなかった事を激しく後悔した。
「ハルさんは本当に、面白い人ね。」
「そうですか?ありがとうございます。」
「ふふっ、うふふ。明日から一緒の旅、楽しみだわ。」
楽しい妄想が、どんどんどんどん暴走しそうになったので、私はアタフタと再びご挨拶をして、その場を後にした。
「ハルエネ子君。」
今度はヘーベル総括部長の呼び止める声。
「はい、何でしょうか。」
「明日の餞別があるので、ちょっとだけ今から良いかな。」
歩行ルートの変更だ。寮の自室からヘーベル総括部長の第二デスク(寮の建物に緊急用に作られている)へ。
この部屋にはローテーブルと、それを挟むように長椅子が置いてある。
そこへヘーベル総括部長は先に座り、向かい合わせに私にも座るよう促した。
「明日の出発もあるから手短に話すよ。」
「はい。」
「先に餞別の品だ。旅で役立てたまえ。」
差し出された布袋の物を受け取ると、中身はカメラ用の魔石だった。
しかも通常の倍以上の濃度だ。触れてみて、濃厚背脂ラーメンスープ並の、魔力含有量を感じた。
「こんな高価な物、頂いて良いんでしょうか?」
と恐る恐る私が聞くと
「実は王家からの賜り物だ。」
ああならば分かる。という納得の内容だった。
「晩餐会では言いませんでしたが、今回余りにもその、、、王家が控え目で、というか、、、」
「聖女をはじめとした討伐メンバーに、疑問を呈し異論を唱える声が貴族院はじめ幹部たちから次々と立ち上がってね、今回王家は表立っての行動を控えたんだ。」
なるほど、よくある保守的な考え方をする人達だな。
保守的な考え方を持つのは、各自の自由だけど、、、その考えで自分以外の人をギチギチと縛ったり、ねじ伏せて黙らせたり、強制したりする事は、それは、あっちゃならないよなぁ。
私はこってり魔石を撫ぜながら思った。
そしてヘーベル総括部長に問うた。
「何故、私が今回同行することになったのですか?」
ヘーベル総括部長は、フッと笑うと、真っ直ぐに私の目を見て言った。
「君もある意味、討伐メンバーだからだよ。」
ああそうか、私も試されているんだ。
特殊技能としての、この転生者の知識と能力を。
「カメラマンとしては君は、型破りなんだ。他の誰にも出来ない撮影の技能がある。歴史を記録するという意味において、こんなにも相応しい者は居ない。」
言われて私は、めっちゃむず痒かった。
でも、嬉しかった。
貧乏暮らしから、全国民の憧れの学園に、特殊技能者枠で入れたのも、このヘーベル総括部長のおかげさまだ。
私は今こそ、このご恩に報いる時なんだと、ヘーベル総括部長に
「ありがとうございます。精一杯やらせていただきます。布団が私を待っていますので、私はこれにて失礼します。」
と言うと、最速で席を立ち必要最小限度のお辞儀をすると、こってり魔石を胸に、第二デスクを後にした。
読んで頂き、ありがとうございます。