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陶器の鎧のパラディン  作者: 片遊佐 牽太
嫉妬と約束

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「鎧に――魔法が付与できる――?」


 呆然とそう言ったセシリアの目の前に、カイは魔法を付与した白板を手に取って差し出した。

 受け取って見ると、外観だけでは、それが特別なものであることを見抜くのは難しそうだ。


「魔法を付与したことで、この鎧の弱点はなくなったと言っても過言じゃない。

 だが実際、戦闘でこの鎧を目にすれば、誰もがこいつが特殊な加工をされていることに気づく可能性が高い。

 そうなれば、こいつの価値がわかる人間は、誰が作った、どうやって作ったと、しつこく尋ねてくることだろう。

 だから、君に黙っていて欲しい。

 俺がこうして作ったということを」


「分かったわ。

 ――でも、それなら、わたしにも教えなければ良かったんじゃないの?」


「俺もそれは考えた。

 だから、実際ここまでの魔法の付与は、君に何も言わず黙って進めていたんだ。

 だが、先ほど君が見た通り、この鎧が特殊であることは、恐らくすぐに分かってしまう。

 ならば君にもちゃんと説明した上で、それを黙っていて欲しいと頼んだ方が良いと考えたんだ。

 もちろん、君を信用していなければ、こんな手段を採らない訳だが」


「――ありがとう、意図は理解したわ。

 安心して。必ず秘密は守るから」


 基本的に騎士は鎧師の話題に関して、口を(つぐ)む傾向がある。

 それを考えれば鎧について秘密主義を貫いたとしても、何ら問題はないと思われた。


 ただひとつ、課題があるとすれば、主君のオヴェリアから質問された時である。

 そればかりは上手くセシリアが、話をはぐらかすしかないだろう――。


 信頼に対する礼を述べたセシリアに対して、カイは再び真剣な表情で言葉を重ねた。


「それに、もっと言ってしまえば、この鎧に魔法など付与しなければバレる心配などない訳だ。

 つまり、君の身の危険に対して無責任であるならば、そういう手段だって取り得るという話だ。

 だが、俺は敢えて、鎧に魔法を付与するという選択をした。

 ――この意味がわかるか?

 俺が秘密にしたいことよりも、君の身の安全を優先したということだ」


「カイ――」


 そう告げてカイは、セシリアの目をじっと見詰めた。


 セシリアはカイが強調した言葉を、ただただ嬉しく思う。

 思わず心の底が熱くなって、自分の体温が上昇したのを感じた。

 何しろ、ここで彼からそんな言葉を聞けるとは思いもしていなかったのだ。


 カイはセシリアが喜びを隠さず、幸せそうな笑みを浮かべているのを、そのまま見つめていた。

 そして応えるように満面の笑みを浮かべると、不意に彼女に向けて手を差し伸べる。


「――――。

 ――???」


 手を繋ぐものだと思って、セシリアがカイの手を取ろうとすると、彼はセシリアの手を避けながらもう一度手を差し出した。

 セシリアがその仕草を理解できずにいると、カイは日焼けした顔からニヤリと白い歯を見せる。


「ただし!

 こいつには一つだけ問題がある。

 いいや、正確に言うと問題が()()()!!」


「問題?」


「それは、かなり()()()()()()ということだ。

 いいや、もう掛けてしまった!

 無論、正式な騎士になったわけだから、その辺はまったく心配していないが」


「――ぐっ――」


 カイが言い出した言葉を聞いて、セシリアは項垂(うなだ)れるように渋々頷くしかなかった。


「カイ、それで鎧はこのまま、持ち帰ってしまってもいいのかしら?」


 セシリアは少し気を取り直して、目の前の鎧を指さしながら尋ねる。


「いや、実はほとんど作業は終わっているんだが、いくつか肝心の魔法の付与が済んでいなくてな。

 遠征の直前に申し訳ないが、あと数日は預からせて欲しいんだ。

 それと、最後の魔法を付与する上で、君に強化のための()()について協力してもらいたい」


「触媒? その白い板が触媒になるのではなくって?

 そこだけ宝石じゃないといけないとか言われても、もうそんな大金は、絞っても出てこないわよ?」


 するとカイはハハハと笑いながら、首を横に振ってセシリアに言った。


「いや、お金はいらないさ。

 ただ、必要なものを用意するために、君にちょっとやって欲しいことがある」


「やって欲しいこと?

 何をすればいいのかしら?」


 すると、カイはそれが何でもないことのように、さらりと告げた。


「君の()()()が欲しいんだ」


「お小水?

 おしょ――。

 ――――。

 は、はあああああああぁぁぁっ!?」


 セシリアは自身の耳を疑った。

 今、カイの口から()()()()()()()()が出てこなかっただろうか!?

 予想もしなかったことを依頼されて、セシリアは目を剥きながら焦る。


「なななな何バカなこと言ってんのよっ!?」


「ダメか」


「そんなものダメに決まってるでしょ!!

 だいたい何に使うつもりなのよ!?」


 すると、カイはまじまじとセシリアの顔を見ながら言った。


「この鎧の最後の仕上げに、どうしても必要なんだ。

 それも君の身を守るために」


「――み、身を守る――」


 セシリアはカイの真剣な眼差しを受けながら、どうしても承服しかねるというような挙動不審な態度を見せる。

 するとカイはやれやれといった仕草で、セシリアに対して妥協案を提示した。


「仕方ないな。

 では、効果は落ちてしまうかもしれないが、嫌だというなら()()()使って――」


 セシリアはカイが口走った言葉を、大慌てで遮る。


「ちょっちょっ、ちょっと待った!!

 今の話は何?

 ()()()()()使()()って、あなたの何を使うつもりなのよ!?

 冗談じゃないわ!!」


「大丈夫だ。

 シミになったりはしないし、臭いも残らない。

 あぁ、ホントに綺麗なもんだ」


 的の外れたカイの補足に、思わずセシリアは大声で叫んだ。


「そそそそういう問題じゃないのよッ!!

 ――はぁ、はぁ」


 勢い込んで拳を振り上げて反論し続けたためか、セシリアは思わず息切れしてしまう。

 彼女が呼吸を調えてカイを恨めしげに睨みつけると、彼は至極真剣な表情でその視線を受け止めた。

 しばらく色々な角度からジッと見つめてみたが、どうみても彼の表情にはふざけた調子は見当たらない。


「――――。

 ――ほ、本当に、それが必要なのよね?」


 セシリアの顔は羞恥心で、すっかり真っ赤になってしまっている。

 仕方なくできるだけ冷静にセシリアがそう尋ねると、カイは即座に断言した。


「必要だ。

 それも()()()()()が」


 その言葉に、セシリアの頭の中は、身体中の血液が逆流したように高ぶった。


「もう、一体何なのよこれ!!

 何の冗談なのよッ!?

 こんなことが騎士団でバレたら大変なことになるじゃない!

 オシッコ(アーマー)とか名付けられたら、わたし絶対、このまま生きていけないわ!!」


 拳を振って荒ぶるセシリアを余所(よそ)に、カイはガサゴソと何かを探し始めている。


「じゃあ、これを」


 セシリアはカイが目の前に差し出した()(びん)を見て、思わず天を仰いでしまった。

 見るとその瓶の形が、何とも淫猥なものに見えてしまう。


 本当に今からそんなことをするのだろうか。

 しかも彼の目の前で?

 いやいや、そもそもなぜカイは、()()なんかを準備よく持っている!?


「ああああぁぁぁっ! ウソでしょッ!!

 神様ぁッ――!!」


 こうして追い込まれたセシリアは、カイが望む()()に応じざるを得なくなってしまった。


 結局のところ、彼が言う()()()()()などということを、約束するまでもなかったのである。

 何しろセシリアは、こんな手法で自分の鎧が強化されていることを、()()()()()()()()と、勝手に心の中で誓ったのだから――。



 そして、そんな出来事のあった日から数日。


 ――セシリアの鎧は、()()した。





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