始まり
酷く、酷く冷たい風が頬を撫でる。肌を刺す日差しは己が存在を主張するかの様だ。それはまるで対照的な自らの心情を照らし出して
いる様にすら錯覚する。
空は雲一つない快晴、ここも本来であれば豊かな自然とそこに住まう多くの生命体が織り成す壮大で美麗な世界が展開された筈だ。
しかしどうだろう、目の前で繰り広げられる景色は魂の抜けた文字通り灰色の世界だ。今自らの視界に映る世界は微かな鼓動一つ感じ取れない無彩にして無音の死の世界だ。
――何故こうなった…
行き場のない問いが自らの首を呪詛の様に締め上げる。吐き捨てられない思いが膿となって肉体に途方もない不快感を植え付ける。
――いいや違う、答えは分かってる現状を招いたのは自分自身だ。
幾つもの思考を乱雑にまとめることで自身の心を強引に慰める。
解決法は実にシンプルだ。悩む必要などない。
落ち着かない胸に手を当て足下に意識を集中させる。足下およそ数十メートル先の地面は鋭角な岩が並んでおり、己が命を絶つには最適と思われる。
戸惑いはない、しかし自らの死を目前にして少しばかり足が竦む。
「情けないな、死のうとする覚悟もないのか…」
呆れると同時に嬉しくもあった。まだこの殺戮者の身にも人としての欠片が僅かながらでも残っているのだと皮肉にも最後の最後で気づけたのだから。だからこそ救えない、いや救われてはならないのだ。
覚悟はできた、未練はない、であれば実行は容易い。
思い立ったと同時に上体を傾け、重力に身を任せ、直下の地面に向けて落下を始める。己が肉体は徐々に加速度を増していき地面との距離を瞬く間に詰めてゆく。不快な浮遊感が身を包み重力に馬鹿正直なまでに従い肉体はやがて意識する間もなく地面と衝突する。
ゴシャっという鈍い音を立てて複雑に入り組んだ岩場に血の華が咲く。頭部は跡形もなく霧散して、目の前のソレは欠片一つ残さずに消滅したであろう………
――そう……彼が只人であったのであれば…
「うぐぅぁ、あグぁ」
醜い呻き声とともに肉体は尋常ではない速度で再生を始める。見るも無残な肉塊はものの数秒で元の状態に戻っていく。頭部の再生と同時に遅れながらも意識が追いついてゆく。やがて肉体が健常者のそれと何ら変わらない状態にまで戻った際には事の全てを理解する。
「う゛ぅぁ」
短い嗚咽が漏れる。この身に起こる超常再生、それは何も無条件に起こりうるものではない。この瞬間にもこの体は生きるために必要な養分をそこかしこから集めている。今この肉体に起こる超常再生の所以。この身と魂とを繋ぐ膨大なエネルギー、その根源。
そして目の前に広がる灰色の世界……それら全てが指し示すものはつまり……
――知りたくない。考えたくない。判りたくない。自分が何をした
何故苦しまなければいけない?何故奪わなければいけない?
何故死ぬことができない?何故、何故、何故、何故、何故
何故、ナゼ、ナゼ、ナゼ ナゼ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ
――俺が……何をしたっ………
吐き捨てるような嘆きはこの世界に権限することなく掻き消えた。
そして少年の物語は他者の命を冒涜する形で始まるのだった。
実際に投稿するのはこれが初めてになります。これからも連載していくつもりではありますが先行きが不安ではあります。色々と試しながらゆっくりと進んでいきたいのでご支援頂ければ光栄に思います。感想等で励まして頂ければ嬉しいです。
一応タイトル等は場合によっては変わる可能性がありますのでご了承ください。(というのも殆どその場の勢いと思いつきなので...笑)