シンユウノコンヤクシャ
ワラスーボ辺境伯は困っていた。
カステイラ男爵を帰らせたため,とりあえずの両家取り潰しは免れた。
しかし,陛下の出した条件はそれだけではない。
「ウズラを捕まえなければ両家は取り潰し...」
ワラスーボ辺境伯はそう呟くことしかできなかった。
ウズラはもういない...
カステイラ男爵はその意味に気付いていなさそうだった。
「あんな奴でも幼馴染...」
ワラスーボ辺境伯とカステイラ男爵は隣同士の領地を持つ同年齢の時期領主だった。
もちろん幼き頃から顔を合わせ,帝都の同じ学校に通ったりと,長い間を共に過ごした親友であった。
それこそ昔はいい意味でのライバルであった。
その関係が崩れたのは...
「やはり,あのことを恨んでいるのだろう...」
かつてワラスーボの家は辺境伯でなかった。
カステイラと同じ男爵であったのだ。
他国と接地した領地でもなかった。
ワラスーボ領の隣には,クロサツ騎士爵領が存在したのだった。
現在,クロサツ騎士爵領は存在しない。
帝国が王国と戦争をしているとき,王国に接していたクロサツ騎士爵は王国に寝返り,その後,ワラスーボ男爵家に滅ぼされたのだ。
その結果,ワラスーボ男爵家は騎士爵領を与えられ辺境伯に格上げとなったのだ。
身分...
確かにそれは貴族にとって大きなものだ...
しかし,それだけで仲の良かった幼馴染の関係が崩れるわけがない。
「サクラ...」
ワラスーボはかつてのクロサツ家にいた一人の少女を思い出した。
「わたしを殺してアリア=ワラスーボ!!」
クロサツの一族は全員処刑せよと皇帝より命じられていた。
だが若き日のワラスーボ辺境伯は一人の少女を匿っていた。
「なぜそんなことを言うのだ!!サクラ!!」
「わたしは国を裏切った一族の娘よ...」
「それはそうだが...しかし俺に親友の...ポルトの婚約者を殺せるはずがないだろう」
サクラ=クロサツはポルト=カステイラ男爵の婚約者だった。
ワラスーボにとっては親友の婚約者。
しかも政略ではなく,好き合ってのだ...
一族皆殺しをしようとしていた父の目を盗み,匿っていた少女にそんなことを言われて困惑していた。
「わたしが生き残ることでカステイラ家に迷惑が掛かるのは間違いないわ。もしかしたら私を庇おうとしてポルトがカステイラ家から廃嫡される可能性だったある」
「それなら俺が...」
「あなたに何ができるのよ!!」
普段優しいサクラが大声を出したため,ワラスーボは驚いた。
「ごめんなさい...あなたは優しすぎるわ...そんなあなたもいつかは後悔する。そもそも私を匿うこと自体,あなたに危険が及んでいるのよ」
「それでも俺は!!」「ヤメて!!!」
「サクラ...」
「アリア=ワラスーボ!!もう一度言うわ!!私を殺して!!」
「.........」
ワラスーボは何も言えなかった。
「貴族とはときに非情にならなければならないの!!その優しさは迷惑よ,アリア...ポルトのことよろしくね...」
それからのことをワラスーボは覚えていなかった。
ただただワラスーボは涙を流していた。
なぜ親友の婚約者を手に掛けなければならなかったのか,なぜ俺には救える力が無かったのかのかと。
辺境伯という立場上,あくどいことをしてきた自覚がある。
しかしそれは貴族としての役割を果たしただけで,ワラスーボ辺境伯は根の優しい男であった。
「ウズラという共通の敵がいるのに仲良くできないもんだなぁ...ポルト」
今は敵である幼馴染を思いやるほどに優しい。
もしかしたら,あのときの罪悪感があるのかもしれない。
「なぁ,ポルト...ワレはやるぞ...誰にもワレたちを潰させはしない...」
ワラスーボ辺境伯はそう決意した。
【オネガイ】
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【カンシャ】
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