01 トンネルを抜け、、たのか?
「い″っでぇ、、、ぢぐしょお、、ぢっ、、ぐしょおぉぉぉ、、」
狭く日の当たらない石畳の汚い路地で、一人の少年が、仰向けに倒れていた。
黒髪の少年は縦縞のトランクス一枚しか身につけていない。
身体中アザだらけ、止まらない鼻血、口中を切ったのか口の端から垂れる赤い筋、開けなくなるほど腫れた両目からはとめどなく悔し涙が流れ落ちていた。
そして少年の横には、薄汚れたスコップが一本、転がっていた。
◇◆◇◆◇
俺の名は田中 太郎、、銀行で記入例にでもされそうな名前の持ち主。
田舎の公立高校に通っている、とは言っても、朝は新聞配達、昼は学校、土日とたまの平日にガテン系のバイトで学費を稼ぐ、いわゆる苦学生だ。
原因はうちのグータラ親父、母さんに愛想をつかされて逃げられ、ろくに働きもしないパチン◯ス野郎だ。
「よお! タロー頑張ってるな!! わりーな、学校休んで来てもらって」
「はい! 監督! 大丈夫っす!! 今日は大事なコンクリ打ちの日ッスから!!」
「はは! すまんな、頼むぞ!」
「ウッス!!」
今日は特別に忙しい日、コンクリ打ちの日だ。炎天下の中、俺はこの現場の監督のFさんに頼まれて学校を休んでバイトに来ていた。Fさんにはどれだけ頭を下げても下げたりない。中学生の頃に無理を言って押し掛けてきた俺を雇ってくれて、一生懸命働いたからと時給も上げてくれて、今学校に通えているのはこの人のおかげだ。
そして色んなことを教えてくれる。なぜ鉄筋が必要なのか、コンクリートはなぜ固まるのか、鉄骨の建物、木造の建物、土木建築に関して色んな事を教えてくれた。
「よおーし、コンクリ打ち完了! みんなお疲れ! 道具片付けてくれ」
「「「ウッス!!」」」
すげえなぁ、Fさん、一日中指揮をとって、次から次にコンクリート積んだミキサー車を現場に横付けさせて、生コンが効率よく流されるように作業員に指示をする、きっとこの人の目にはこの広い建築現場の端から型枠の内側まで余すところなく見えてんだろうなぁ、、
コンクリ打ちに使った器具を水で洗う。今のうちに隅々まで流しておかないと、付着したコンクリが固まってしまったらどうしようもなくなるからな。ホースで水をかけながら、厚手のゴム手袋をはめた手でゴシゴシ洗う。
この剣スコ、年季入ってんなあ、、木の感じを見るに、俺より年上なんじゃないか? スコップって頑丈なんだな、どこにもガタがきていない。Fさんの現場では道具を大事にしているからそれもあるんだろうな、、そんなどーでもいい事を考えながらスコップを洗っていたら、Fさんがやってきた。
「よお、タロー、お疲れ!」
「お疲れ様です! Fさん!」
「ああ、洗い終わったら事務所に寄ってくれ」
そう言って現場の中にあるプレハブの事務所を親指で指すFさん。
「はい!」
「お疲れ! 今日の分だ、今日は新人の面倒も見てくれたからな、チーフ代も入ってるぞ」
「アザっす!」
1日汗をかいて働いた報酬が入っている茶封筒を受け取り、すぐ中身を確認する。これもFさんに教えてもらった。トラブル防止のためにもこう言う時はすぐ確認しろ、渡す側も安心なんだ、と。
すげえ、、いつもより随分入っている。
「おう、それからこれ」
そう言ってもう一つ封筒を出してくるFさん。
「??」
「来週から修学旅行だろ、餞別だ。友達と旅行に行くために頑張って働いて貯めてたんだろ?
あ、勘違いすんなよ、会社の金じゃねーぞ、ちゃんと俺のポケットマネーからだ」
「!! っ、アザっす!」
思わず腰を直角に曲げて頭を下げた。
「土産はいらねーぞ、美味いもん食って来い!」
そう言って俺の背中をポンポンと叩くFさん、
やべえ、、今顔を上げたら、絶対涙がこぼれちまう、、、
いつかFさんみたいな男になりてぇ、、
◇◆◇◆◇
翌週、
「雫っち、チョコ食べる??」
「ありがと、由美ちゃん」
「はい、タロちゃんも」
「お、おう、ありがとう、柳田」
修学旅行のバスの中で、俺は通路越しにクラスメートの柳田 由美からお菓子をもらおうとしていた。
大型バスの通路を挟んで、右側は女子、左側は男子が座っている。
「はい、あーん」
「「「!!!」」」
通路の向こうからチョコをつまんだ柳田の左手が伸びてくる。くっ、チョコ越しに見える茶髪ショートの小悪魔的な笑みがやばい!
ゾクっ!! 後ろの男子達からの殺気が、、
「さ、流石にそれは、、」
「そうだよ、由美ちゃん、ちょっと~」
「え? 雫っち、妬いてんの?」
「!!」
あ、柳田の隣に座ってた春野 雫が固まった。
「~~!」
黒髪ポニテの春野がうつむきながらポコポコ柳田をネコパンチで叩いてる。クラスの中でも可愛い2人がじゃれ合う姿、いや~、のどかだなあ、、
「タロー君モテるねぇ」
隣の席に座ってる学級委員の神田 俊介がからかってきた。
「神田君には言われたくないなぁ、」
コイツ、いいやつなんだが、、
スポーツ万能、成績も学年トップ、しかも長身イケメン、家はでかい会社の経営者、当然女子達がほっとくわけがない。しかも男どもとも仲が良く、八方美人も良いところだ。俺みたいな頭の悪い貧乏人にも気さくに接してくれる。
「タロー君は自分の魅力がわかってないんだよ」
「?」
「一度聞いてみたかったんだけど、、タロー君は何でその年で、、なんというか、安心感というか頼り甲斐があるんだい?」
「なんだ、そりゃ?」
「うちの親よりよっぽど頼り甲斐がありそうだよ」
「わけわかんねーよ、カンダ君の親御さんはでかい会社の社長だろ? 沢山の社員さんを養ってる。そんなのと貧乏人の俺じゃ比べるべくもないじゃん」
「うーん、、なんと言うかなぁ、言葉にできないんだよなぁ、、」
「……、」
俺なんかまだまだだよ、もっとでかい背中、見せられてるしな、、
やがてバスはトンネルに入っていく。前方から光が、、出口か?
え? フロントガラスから入ってきた光は一瞬で車内に広がり?
「わっ!」「きゃあっ!」「イテッ!」
バスの座席に座っていたはずの俺たちは、いきなり白い床の上に放り出された。一体なんだってんだ!
白い空間で立ち上がって周りを見渡した瞬間、
『武器を、手に取りなさい、、あなたが最も信じる武器を 』
いきなり女性の声が頭の中に響いてきた。
お読みいただき、ありがとうございます。
よろしくお願いします!