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黒天狗の夜話

堅物ウブな令息サンは男装公爵令嬢サマとの出会いを思い出す

作者: 黒天狗

『男装公爵令嬢サマは堅物ウブな令息サンに悶える』にてリクエストがあったので続編。


堅物子息サンの思い出編的な何か。勘違いされる可能性が高いんで補足…一応クラインは女性ですよー。

BL要素はありませんが腐女子が一部登場。


あ、先に前作を読むのをおすすめします。

 春。それはレオンバルト=サンロイズにとって、出会いと別れと…なによりも憎い季節である。


 日課である朝の訓練を終えて玉のように流れる汗を拭いつつ、庭に咲き乱れる桜を見つけて睨み付けながら、レオンバルトはギリリと唇を噛んだ。

 一年前、王立ストリウム学園に入学が決まったと浮かれまくっていた己が恨めしい。


 今の彼ならきっとこう言うだろう。




 ───────「今からでも遅くない、別の学校に、できれば男子校に変えろ!!」と。













 ………………………


 あの日のレオンバルトはあり得ないほどに興奮し、はしゃいでいた。

 なにしろ国内一難関と言われる学園に補欠でもなく現役合格、そのうえ成績優秀者として受け入れられたのだ、浮かれないわけがない。

 尊敬する、王宮騎士団長を務める父が卒業したらしいストリウム学園の話は、耳にたこができそうなぐらい何度も聞かされていた。そのぶん、当然、期待も大きくなる。

 レオンバルトはいち早く学園に迎いたくて、朝から落ち着きなくウズウズしていた。

 出発するには少し早い時間。

 …このときすでに悲劇は起ころうと動き始めていたのかもしれない。

 屋敷に住まう家族や使用人達に総出で送り出され、学園へ伸びる並木道を歩くレオンバルトの足取りは軽かった。

 心中で「父上のご友人のように、信頼できる学友がつくれるだろうか」などと考えてにやにや口元を緩ませては、誰かに見られただろうかと心配になって辺りを見回すこと数回。

 桜が咲き乱れる並木道も半分を過ぎた頃に、特に何もないような場所でレオンバルトはコケた。それはもう盛大にコケた。


「グッ!?」


 つんのめって傾く体。

 ボケッと呆けていたのもあり、咄嗟に手を前にしたが耐えきれず、レオンバルトは地面と熱いキスを交わすはめになった。口内に広がる土と鉄の味。

 ────あ、唇キレたな。

 どうでもいいことを考えて放心していたのも束の間。即座に立ち上がって、目撃者がいないことを確認し、まるで何事もなかったかのように歩き出そうとしたレオンバルトに、突如、笑い声が降ってきたのだ。


「ふっ、あはははははっ」

「!?」

「ちょ、それはない! クッ、ははは」

「だ、誰だっ」


 騎士の訓練を受けてきたレオンバルトは、音源の位置を推測して声を上げた。動揺に震えた声に相手はますます爆笑する。

 そして、息を整えるような間があった後、近くの桜から生徒が舞い降りた。


「やあ、おはよう」


 その人物こそクライン=マクシミリ──────レオンバルトの永遠のライバルにして変わり者、男装の麗人な公爵令嬢サマである。















 ……………………



「嫌な思い出だ…」


 あの日と同じように桜並木を歩くレオンバルトは苦々しく呟いた。

 あの出会いがあって恥ずかしい思いをしたが、男子生徒と認識していたクラインが実は女性と知り、さらに得意な剣技で負かされて、今でも苦汁を舐めさせられている。ちっとも笑えない。


「何がいやなんだい、レオンバルト?」


 今日も今日とて甘い言葉を盾に絡んでくるライバルに、不機嫌なレオンバルトは蹴りを放った。

 軽々しく避けられたのでもう一発。鳩尾やら脛やら首やら、とにかく痛そうな急所を本気になって狙う。

 それでも避けられた上、「酷いなぁ」と気の抜けるような感想を吐かれ、レオンバルトのイライラは溜まっていく一方だ。


「朝から機嫌が悪いね。まったく…清々しい春の日だというのに。俺たちが出会ったのもこんな日だったかな?」

「だからっ、余計にっ、イヤなんだっ」


 一般生徒が激闘を繰り広げるレオンバルトとクラインの横を通っていく。

 この光景は日常茶飯事で、もはや学園名物になりつつあるのが悲しい現状である。

 ちなみに流れも大抵決まっている。

 憤慨したレオンバルトの攻撃をクラインがかわしながら宥め、最終的にクラインの腕にレオンバルトが収まるのだ。

 今回も次第に壁際へと追い詰められたレオンバルトは両腕を頭の上でネクタイによって拘束され、押さえつけられてからの壁ドンをされている。

 クラインは、息も絶え絶え、しかしいつもより不機嫌なレオンバルトと視線を合わせた。


「…ねぇ、レオンバルト。俺の何が気にさわるのか教えてよ。何にも言ってくれなきゃ、まったくわからない」

「……」


 不貞腐れたように顔を逸らすレオンバルト。クラインは悲しげに嘆息した。


「こっちむいて、レオンバルト」

「……」

「レオンバルト」

「………」

「…おしおき、するよ?」

「!?」


 耳元で妖しく艶を含んだ色気ある声に囁かれて、思わず身体を震わせる。クラインはふふっと笑った。


「ああもしかして…おしおき、されたいのかな?」

「そんなこと、ない…!」

「怪しいなぁ…身体は正直みたいだし。気づいてる? さっきから顔、真っ赤だよ。熟れたトマトみたいだ…美味しそう」

「お、お前が、近づくから…っ」

「どうして俺が近づくと赤くなるの? 俺を好きなんじゃないかって、期待しちゃうよ…?」


 優しく口づけを落とすクラインに抵抗せず、レオンバルトはそれを受け入れる。

 クラインは終わってもやってこない罵詈雑言に目を見開いた後、嬉しそうに微笑んだ。不覚にもレオンバルトは見惚れる。純粋に浮かべられた笑みは、いつもの作り笑顔と比べて格段に美しい。


「レオンバルト…俺、調子に乗っちゃうかも」

「? どういう…んっ」

「可愛い…もっと」

「クライン!?」


 レオンバルトがうまく抵抗できないまま、腰砕けになるまでキスは繰り返され、レオンバルトはお姫様抱っこによってクラインにお持ち帰りされていくのだった。












 参考までに…

 偶然通りかかったという女子生徒はこのように証言している。


「わたくし、偶然、ええ本当に偶然に通りかかったんですの。草影からストーカーのごとく注視していたなんてことはありませんわ、絶対。クライン様がかまうレオンバルト様が羨ましくて邪魔してやろうだなんて、全く思ってなくてよ? ……人気の少ない場所に誘導されているように見えましたので、クライン様の貞操を心配いたしましたの。ですが…役得でしたわ。じわじわと壁際に追い詰めるクライン様、追い詰められて焦りながらも嫌がらないレオンバルト様…そう、それはまさにBとLの世界! 手首をネクタイで縛るのは定番、耳元で囁かれた甘い睦言に身が震える屈辱と、視線を自分が独り占めできる歓喜、その狭間で戸惑い揺れる心! 『どうして私はアイツを見ると鼓動が速まるんだ? アイツは私のライバル、好敵手なはずなのに』。腕の中で無防備に俯く可愛いあの子に襲いかかりたくなる衝動、悟られないように我慢するクライン様! 『好きな子を傷つけたくない。レオンバルトの方からきてほしい』。…ベーコンレタスですわよベーコンレタスっ!! え? クライン様は女性じゃないかって? いいえっ、わたくしは女体化説を猛プッシュしますわ! ふっ、ボーイズがラブラブしている姿をごらんになって萌えないなんて、可笑しいのは貴女でしてよ! 彼らの魅力は────(以下、自己規制と放送禁止用語乱発のため省略。続きは豊かな想像力で補っていただきたい)」
























「ところで何に怒っていたんだい?」

「お前が……いや、もういい」

「まあ、俺と初対面したときのことを思い出して苛立ってたってところかな。あの日のレオンバルトは恥ずかしそうに瞳を潤ませてて」

「言うな! 立派な黒歴史なんだ!」

「えー、可愛かったのに。君を意識し始めたのもあれがあったからなんだけど。…あ、もちろん今も最高に可愛いよ」

「だから言うなと…んんっ」

「レオンバルト、俺は君に嘘なんてつかないよ。おいで…優しくして(可愛がって)あげる」

「ちょ、待っ─────」


 ……こちらもご想像にお任せしよう。






プロフィール的な何か。


▼レオンバルト=サンロイズ

王宮騎士団長の父を持つプライド高き美男子。銀髪紫眼で、男子にしては小柄。剣士科においてトップの実力を誇るが、クラインに一度も勝てた試しがない。故にライバルと称して戦いを挑むのが日課である。「可愛い」と言ってくるクラインには辟易しているも、実はちょっと嬉しがっていたりする。なかなか素直になれない堅物子息。


▼クライン=マクシミリ

歴史あるマクシミリ公爵家の最強なる変人。青みがかった黒髪と灰色の瞳、長身で柔らかい物腰から『王子』と慕われている。レオンバルトにベタぼれして始終「可愛い」と口にしているが、最近はレオンバルトの方からデレてくるため理性を保つのに必死。誰もが認める男装の公爵令嬢。

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