第4話 Sea side Sally
深夜から強い雨が降り続いている。どこからか現れた数千の鼓笛隊が一斉に太鼓を叩き続けている。
森に降る雨は隙間ない緑葉を経由して地面へと注ぐ。
海を打つ雨はそのまま海の一部となり、増す水嵩に加えられる。
母なる大地は産まれることを続け、含まれる死にさえ祝福を与える。
サリーの右腕が消えていた。目を覚ました時には肘から先には何もなかった。肘にはつい先程引き千切られたかの様に生々しい切断跡が見える。血が流れ、熱が心臓音と同期する。
やはり不便だな、とサリーは目を閉じる。現れた暗闇には何本かの光の条が走る。正面に捉えたいと思うのだが、それは勿論追うと消える。左右上下に眼球を動かす。何度も繰り返す。光を追うと消える。
光を追うと消える。
アプの実をかじりながら、サリーは踝辺りまで浸水した雨水をぼんやりと眺める。
しばらくすると自然に扉が開き、自然に彼女が隣に立つ。サリーの右手の切断面を両手で包み、優しく口づける。少しの空気の揺らめきの後、サリーに右腕が戻る。
二人は手を繋ぎ、雨の中を森へと歩く。やがて円形に拓けた場所へ辿り着き、サリーは横倒しの木に座り、彼女は水色の歌声を馴染ませる。
海辺には小屋があって そこにはいつもあなたがいる
痛みこそが美しく 漂うように泣いている
悲しみは降らず 喜びこそ充ち満ちて
あなたが夢に見てるのは きっとそういうことでしょう
さよならサリー 海辺のサリー ねぇ本当はいつまでも
歌い終えた彼女は目に涙を溜め、サリーに口づけ、吹き、消える。
二度と会えないことがサリーには分かる。
「愛してるよ」
サリーは濡れて冷えきった体で小屋へと歩きながら、初めて雨に感謝した。




