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第三話

 ……見たい! 題名からして、とても気になる! いや、だめだ! 他人の、しかも女子のノートを勝手に見るなんて、許されるわけがない! ここは、中を見たい気持ちをぐっとこらえて、乙女ちゃんを呼んで来よう。

「文学さん。あっちの空き教室に、それらしいノートがあったよ」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 乙女ちゃんは、急いで空き教室に入っていった。

 俺も、後を追って空き教室に入る。

「あっ! 説花さん。ありがとうございます! これが私が探していたノートです。……あの、見つけていただいて、こんなことを言うのもどうかと思うのですが、……ノートの中、見ていないですよね?」

 乙女ちゃんが、ノートを大事そうに抱きしめ、恥ずかしそうな表情で、上目遣いに俺を見つめている姿がとてもかわいらしくて、俺は質問に答えることも忘れ、ぼーっと乙女ちゃんに見惚れてしまっていた。

「あの? 節佳さん? 大丈夫ですか?」

 乙女ちゃんの言葉で、俺は我に返った。

「あ、ああ。うん。大丈夫だよ。ノートの中は見ていないから、安心してね」

「ありがとうございます。そうですよね。説花さんは、他人のノートを勝手に見るような人じゃないですよね」

 乙女ちゃんが、俺に笑顔を見せてくれたことと、俺を信頼してくれていることが、とても嬉しく感じられた。せっかくだから、この機会にもっと乙女ちゃんと仲良くなりたいな。

「あのっ、そ、そのノートなんだけど、中は見ていないけど、題名は目に入ってしまったんだ。その、もしかして、文学さんは、小説を執筆しているの?」

 俺の質問に、乙女ちゃんは顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。この反応から察するに、やはり乙女ちゃんも小説を執筆していると考えてよさそうだな。

「ごめん、気にしていたかな? でも、からかうつもりじゃないんだ。実は、俺も小説を執筆しているんだ。だから、もしかしたら、文学さんと、小説仲間になれるんじゃないかと思って」

 俺の言葉に、乙女ちゃんは驚いている様子だったが、一分ほど考え込んでから、意を決したように、口を開いた。

「私、実は小説家になることが夢なんです! ……やっぱり、おかしいですか? お前には無理だって、思いますよね?」

「いや、全然。俺は、夢に向かって頑張っている人間や、人の役に立とうと努力している人間は、とっても素敵だと思うよ。今までの文学さんの経験は知らないけど、もし誰かに小説を執筆していることをからかわれたりしたことがあったんだとしても、気にしないでほしい。たいして努力もしないで、人の夢を笑うだけの奴らの言うことなんて、気にしないほうがいいよ。そんなことを気にしてる時間があったら、その時間を、夢に近づくために使った方がいいんじゃないかな」

 乙女ちゃんは、俺の言葉を、真剣に聞いた後、少し考えてから、またも勇気をふりしぼる様子を見せて、声を出した。

「……私、小説家になる夢をかなえるために、今勇気を出して言います! ……説花さん。私と小説仲間になってください!」

 そう言い終わる直前、乙女ちゃんは深々と頭を下げた。

 俺も、お互いに意見しあえる仲間は欲しかったし、小説を書くときに、女性の気持ちがわからずに困ったことも多い。

 なにより、俺は乙女ちゃんのことを、女の子として意識しているし、断る理由はないな。

「分かったよ。むしろ、俺の方からお願いしたいくらいだ。そんなにかしこまらないで、顔を上げてよ。俺たちは小説仲間なんだからさ」

 俺の言葉に反応して、乙女ちゃんは顔を上げ、満面の笑みを見せてくれた。なんだ、やっぱり、笑ってる顔のほうがずっとかわいいじゃないか。

 おそらく、彼女のこの笑顔を見られる人間は、そう多くはないだろう。彼女にとっての特別な人間になれた気がして、俺は、自分でも不思議なくらいに、強い喜びを感じていた。

「じゃあ、これからは、小説仲間だってことで、その、握手なんてどうかな?」

 俺が手をさしだすと、彼女は握手をしてくれた。その瞬間、乙女ちゃんの表情が、今にも泣きだしそうな顔に変わった。

「どうしたの? 大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。私、男の人とまともに話したこともないし、友達も少ないし、小説仲間もいなかったから、今、すごくうれしいんです」

 そう言いながら、彼女は泣き出してしまった。

 今すぐ、彼女を抱き寄せ、俺の胸の中で泣かせてあげたい。そんな想像をしてみても、実際に行動に移すことが出来ずに、俺はただただ、うれし泣きをしている彼女を見つめていることしかできなかった。

 そして、泣き続ける乙女ちゃんを見つめながら、俺は思ったんだ。


 君と一緒の時間を過ごしていくことができたのなら、俺はいつか、世界一の小説家にだってなれるはずだ、と。


 ここまでお読み頂き、ありがとうございます。


 4話の投稿日は未定ですが、2月中には投稿しようと思っています。


 私はこの小説のほかに、 

 異世界に召喚された勇者は召喚王!? 特殊スキル・ガチャる を駆使して異世界を平和にできるのか?

 という小説も投稿しています。


 よろしければ、そちらもご覧いただければ幸いです。

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