第二話
それから、二週間ほどが経ち、クラスの人間関係はほぼ完成してしまった。
俺は、あまりいけてないグループに、入っているのかいないのかもわからない、そんなポジションに落ち着いてしまった。
一応友達といってもよさそうな男子が三人できたが、別に心の底から好きなわけでもなく、学校の外で遊ぶわけでもない。おそらく、彼らも俺のことをそんなに好いてはいないだろう。ただなんとなく、一人ぼっちを回避するための付き合い。そんなところだ。
とはいえ、このクラスには今のところいじめはないし、俺があまり仲良くなっていないだけで、全体的にみんな良い奴そうだから、かなりいいクラスに当たったと考えてよさそうだ。なにより、乙女ちゃんもいることだし。
その乙女ちゃんとは、席こそ離れてはいるが、授業中でも休み時間でも、よく目が合う。
もしかしたら、乙女ちゃんも俺に気があるのかな? 最近の俺は、小説を書くことよりも、乙女ちゃんのことを考えている時の方が楽しくなっていた。
入学式から一か月ほど経った日の昼休みのことだった。俺が購買であんぱんと牛乳を買って、人が滅多にこない空き教室に向かって歩いていると、何かを探している女子を見つけた。
あのさらさらの美しい黒髪は、まず間違いなく乙女ちゃんだろう。一応、もう少し近づいて、横顔を確認してみると、やはり乙女ちゃんだった。
しかし、いつもと違い、眼鏡をしていない。どうやら、なにかの拍子に眼鏡を落としてしまって探しているらしい。
「眼鏡を落としてしまったみたいだね。俺も手伝うよ」
「その声は、説花さんですか? すいません。ありがとうございます」
乙女ちゃんは、かなり目が悪いようで、どうやら俺の顔もはっきりとは見えていない様子だ。それでも、声だけで俺とわかってくれたことが、とても嬉しい。それに加え、乙女ちゃんの役にたてることでも、俺は内心喜んでいた。
それにしても、眼鏡を外した乙女ちゃんは、とてつもなくかわいかったな。まあ、眼鏡をかけている乙女ちゃんも十分かわいいんだけど、やはりいつもと違うかわいさに、ついどきっとしてしまった。そんなことを考えながら、乙女ちゃんの眼鏡を探す。
「おっ? これかな?」
眼鏡は俺があっさりと見つけ、乙女ちゃんに手渡した。その時に触れた乙女ちゃんの手は、小さくて柔らかく、ほのかに温かい。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
眼鏡を掛け、乙女ちゃんは明るい笑顔でお礼を言った後、深々と頭を下げ、図書室の方に向かって歩いて行った。
あんなに明るい乙女ちゃんの表情を見たのは初めてだったが、とてもかわいらしかったな。
俺は、誰もいない空き教室で、いつもと同じあんぱんと牛乳を食べたが、今日のあんぱんはいつもよりもずっとおいしいな。
乙女ちゃんの眼鏡を見つけてあげた日から、二週間ほどたったこの日、俺はまた、図書室と空き教室の近くで探し物をしている乙女ちゃんを見かけた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「あっ、説花さん。あの、実は、転んだ拍子に、あるノートをどこかにとばしてしまったようなんです」
「なんだ、それなら俺も手伝うよ。特に急ぐ用事もないから、気にしなくていいよ」
「すいません。そうしていただけると助かります。よろしくお願いします」
ざっと見渡す限り、廊下にはなさそうだな。転んでとばしてしまった時に、近くの教室に入ってしまったのだろうか? そう考え、扉が開いていた空き教室を覗くと、それらしきノートを見つけた。
俺がそのノートを拾おうとすると、小説ノートという題名が目に入った。