木造家屋/錬金
女の体にも慣れないまま、一通り錬金の本を読み終わるとまずは錬金してみよう、ということになった。
が、最初から何も無しで錬金するのは難易度が高すぎると思ったので材料を用意。
レシピは『薬草+霊水』。霊水の精霊に薬草を食わせる。出来るものは下級回復薬。
材料は木造家屋の中に分類が分けられてあった。けど量が少なかったため自分で採りにいかないといけなくなると思う。
まずは精霊と会話。
……どうしたら会話できるんだろう?
とりあえずフラスコっぽい容器に霊水を注ぐ。
そして話しかけてみる。
「あ、あの~」
当然、返答なし。
「聞こえてますか~」
さらに返答なし。
「や、薬草準備してるんですが……」
結局返答なし。
自信が無くなってくる。
こういう時どうすれば!?
『……全く。錬金がいくら人間の中でなめられてるとはいえ、こんなふざけたマネしやがって』
唐突に、声が聞こえた。
ばっ、と勢いよく振り返るが誰もいないし何も聞こえない。
だが、それが幻聴とは思えない。
「精霊さん?」
と、声をかけてみるがやはり返答はない。
「…………」
容器をツンツンと小突いてみるが予想通り返答はない。
「何も言わないと擂った薬草をその華奢な体にぶち込みますよ?」
しかし へんとう は なかった!
「『………』」
用意した薬草を元々霊水を入れていた壺で擂り、フラスコのような容器に入れかき混ぜ──
『わ、悪かった! 精霊の声なんて聞こえる錬金術師と思わなかったんだ! やめてくれ!』
──なかった。目の前の容器から声が聞こえ、水の中に透けた全裸の男が浮かんでいたからだ。
「……やっと、ですか」
『いや、まさか前の術者が他の術者が来たら試してやれ、って言ってたもんだからどんなやつなのかと思ったら女だったもんでな』
困ったようにそう言う全裸の男は若干緑っぽく色が染まってきている。
「あー、それだけどさ」
『なんだ? ってか、口調が変わった?』
「──元々、転生する前は男だったんだ」
『なるほど、あの馬鹿神のせいか。ならあんな呼びかけなのも仕方ねぇか。転生したばっかだろ?』
驚かれると思っていたがすんなり納得されてこちらが目を点にする。
『しかも性転換も一緒にと。多分一番不憫な転生者だろうな』
……言えない。願ったらなったって言えない。
「ま、まぁそんな感じだよ。それよりどんどん緑色になってるけど」
『私』のその言葉通り全裸の男はどんどん緑色になっていき、透明度も低くなっていっている。
『大丈夫だ。これが錬金なんだ。錬金術は術者が素材をどれだけ精霊が吸収しやすい形にするかだったり、どれだけ吸収の手助けをするかって話だからな』
なるほど。つまり
「それさえ終わればあとは精霊が自動的に素材を吸収して新しい物質に成る、てことだね?」
『ああそうだ。精霊によっては全く錬金方法が変わるらしいが、大抵はこの方法になる』
親切だなぁ。生きたまま転生が起きるのは不幸だけど、『私』は幸運だね。
『──と、錬金終了。回復薬完成だ。所謂ポーション』
「お、おおぉ……」
これは、達成感がすごい……!
『どうだ? 中々地味だろ? 精霊の声が聴けるぐらいだ。他の仕事の方が儲かるぞ?』
「こんなかっこいいもん他にあるわけない!」
『お、おう……』
いまではすっかり緑色に変わった全裸の男がなぜか引き気味なのが気に食わないが、達成感に免じて許す。
……気が付けばもう昼ぐらいになる。
「ご飯つくろ」
『精霊は人間の飯は食わないからな?』
「む、知ってるよ、それぐらい」
『じゃあ何が食べ物と思うか?』
「ん~? マナ?」
『正解。俺みたいな低級精霊なら空気中のマナで足りるが、上級にもなると術者から与えられるマナもないと足りないぞ』
「オーケーオーケー。覚えとく」
昼食を食べた後、覚えてない部分がかなり多かったのでもう一度本を読み返した。