木造家屋/現状把握(一部簡略化)
拝啓、両親へ。
唐突ですが、女の子になりました。
今親に手紙か何かを書かなければならなくなったとしたら、始めの文にこう書かなくてはいけないだろう。
だって、本当に女の子の体になっているんだから。
まだふわふわとした浮遊感とまぶたが閉じそうになる眠気がある『私』の体は、股間の一物が消え、代わりなのか膨らみかけの胸が現れていた。
どうやら居る場所は木造の家、なにやら本だったり机だったりがところ狭しと設置されている部屋だ。
取り敢えず、今の状態を確認しないと……。
一番近くにあった本をめくり中を見てみる。
『錬金術とは既存の物質に宿る精霊と交渉、物質の本質である精霊の質を向上させ上位の物体へと変化させる代わりに、それを術者が行使する権限を精霊が譲渡する契約を結ぶ事である』
どうやら錬金術の基礎が書かれている本のようだ。
というより、ずいぶんと錬金術に夢がないな。こう、なぜこうなるかは解明されてないとか研究中とかだと思っていたんだけど。
とはいえ、基礎しか知らない『私』にとっては宝物でしかないだろう。
複数の机とおそらく本が敷き詰められていたはずの本棚、そして足の踏み場もないほど散乱している本ばかり目に映る部屋の中、『私』は「入門錬金魔導書」という題名の本を読み耽った。
☆
ダイジェストでそれからの行動。
本を読む
トイレを探す
用を足す。
本を読む。
台所を探す
飲み物を飲む。
本を読む。
台所へ向かう。
料理をする。
腹を満たす。
トイレへ向かう。
用を足す。
本を読む。
寝落ちする。
以上。
『錬金術とは既存の物質に宿る精霊と交渉、物質の本質である精霊の質を向上させ上位の物体へと変化させる代わりに、それを術者が行使する権限を精霊が譲渡する契約を結ぶ事である。精霊の質を向上させるには数多の方法があり、同格の精霊を贄として捧げる、物質そのものを上位の物体へと変化させる。特定の現象に反応させる、この世に溢れるマナを精霊が取り込めるようにして提供するなどがある。ただし、錬金術での一般的な精霊の質の向上方法は、関連性のある精霊を単数または複数贄として捧げる事である。なぜなら関連性のない精霊を贄として捧げた場合奇妙な物質ができ、特定の現象に反応させた場合精霊が死に絶えろくに使えない事が多発し、マナを精霊に提供するのは変換に命が関わるから控えられている。しかし、このいずれもその錬金方法のみでしか錬金できないものがあるが、素人が挑戦しても成功しないのでここでは省く。
この本を書くにあたって私は軽視されがちな錬金術師の重要度、錬金の難易度を知った。君たちが今当たり前に使用し見ている紙でさえ、錬金術師居なくてはすぐに枯渇する状況にたたされている。錬金をするにあたりまず精霊に好かれなければならない。好かれなければ満足に錬金ができず贄として捧げた精霊だけ捕食され、物質に拒絶されるからだ。たとえ精霊に好かれても錬金術師以外の者には物質を行使する権限を譲渡しない場合も多くある。数ある魔法職で最も日陰者として邪険に扱われる彼らだが、難易度的にも功績的にも彼らは魔法職の中で最も功労者であるだろう。一つ大きなきっかけがあれば待遇が改善されると共に繁栄の道を歩むだろう』
『入門錬金魔導書』 一部抜粋