祈り子の聖域/自分への名付け
不明瞭な意識の中、私は屋敷の中をさまよっていた。
どうにも落ち着かない。昨日吐いた後からずっとこうだ。現状に危機感、というより焦燥感が芽生え、何か行動しなければならないような気持ちになる。
もちろん自分が出来ることはない。褐色の肌が健康的で、行動から世話焼きな印象を受ける少女から、
「また体調を崩すかもしれないから休んでいて」
と言われたばかりだから行動するのははばかれる。
しかしやることもなく、手持ち無沙汰で退屈な上に、やたらと豪華な屋敷の中では落ち着かない。そのため、有るはずのない心安らぐ場所を探して屋敷内を探索していた。
屋敷の外へ目を向ければ、立派な鳥居やご神木みたいにしめ縄がくくり付けられた大木がある。しかしその奥は木々に囲まれ、空と太陽、時折それを隠す雲ぐらいしか見つからない。
やりたいことが見つからない。やることもない。屋敷の探索もたいしてすごい物もない。隠し通路やら隠し部屋やら、遊び心でも一つや二つあったら良いのに、なんて思ったりもした。
ただ、すごい物もなければ、当たり前にありそうな物もなかった。
代表的な物でいえば鏡。というより自分の姿を確認する物がなかった。次に寝具。東洋風の内装に合わせた布団も雰囲気ぶち壊しのベッドも、どちらもない。さらにいえばお風呂すらない。いや、これに関しては使えないようにしている、と表す方が正解だろう。なんせ脱衣所自体はあるからだ。何らかの術で入り口を塞いでいると考えた方がいいだろう。
と、いかにも胡散臭い雰囲気を醸し出す必要な物の不足だが、暇過ぎて頭のネジが外れかかっている私にとっては暇つぶしが出来ないと憤るだけで終わった。
と、ここまで屋敷を探索していた訳だが本格的に考えなければいけないことがある。
お察しの通り、自分のことである。
自分の名前が分からない。これは大変な問題であるだろう。自己紹介が出来ないというのは、信用に大きく関わる。
理由は明白、私たちの意識には名前を知らない=信用出来ないという認識がすり込まれている。長く関係を持てばその限りではないのだろうが、初対面で名前を名乗らないというのは印象を悪くし、印象が悪ければ信用出来にくくなる。
その立ち位置に私は立たされているという事だ。
かといって昨日の出来事から考えると、無理やり名前を思い出すことはしない方が良いはず。なら自分で名前を付けてしまおうという魂胆だ。
他にも考えられることはあるのだろうが、手っ取り早く解決出来るものを早めに終わらせることは良いことだろう。
そうしてしばらく自分の名前を考えた
☆
そうして考えた結果、雨之宮錬誇という名前を名乗ることにした。名前の錬誇は言わずもがな、名字の雨之宮は唯一この世界で知る名字だったから。あと、あのおじさんの親族と勘違いさせるためである。あの人立場上そうだし。
しかし、名前も作ってしまってはやることがない。やりたい事はあるが先ほど言ったように、私は大人しくしてなければいけないのだ。
……結局退屈すぎて、雨之宮さんに作った名前を名乗っても良いか許可を取りに行ったり、知り合いの仕事を手伝いに行こうとして止められたりした。




