unknown_point/夢現の出来事
鬱憤を晴らすためだけに創ったはなし。
ストーリーはほどほどに、名前のない少女が錬金の極地に至る為の修行をほのぼのと描きたい。
神様転生。
一次創作二次創作問わず、いまやかなり溢れるラノベの種類。
作者側からしたらかなり作りやすいのは否めない。
まあ、さすがに商品として売り出すものは膨大な設定を作り、あまたもの人物を想像し、そしてそれをあくまで裏側の引き立て役として使いつぶす覚悟がなければいけないのだろうが。
それでも、趣味としてはかなり楽な部類だろう。
……だが、それに対する反感だって多いのは認識している。
無双、ハーレム、高慢。嫌われる理由も多々あるだろう。
他者から与えられたモノをさも自身の力のように振るい、弱者を見下している事に気づかず、できもしない偽善を掲げる。
そのような者がモテているのは、まぁ恋人がいない者には納得もいかないだろう。恋人がいるやつは知らない。
個人的には純愛が好みなのでそんなものはないのかと探してはいるがここでは余談だろう。
さて、なぜこんな話をしているかというと、十中八九お察しの通りだろうが神様転生をしてもらうからだ。
理由は気分転換。バックアップを取ってなかったせいで、メインが一話分完成して投稿する、というタイミングで消し飛び意気消沈中なのだ。
転生固体、といってもかなり希少だ。確かに私はこの二次元の一つ上の次元から干渉して神より上位なのだが、下手をすればメインの設定と矛盾する。
最悪、生きている状態から無理やりこちらに引きずり込もう。
さて、物語を創り観測するか。
☆
……唐突だが、俺は転生することになったらしい。
「混乱してるとこ悪いが、お前は転生してもらう」
とか目の前の──なんだこれ? 小さくも大きくも見えるし男の声にも女の声にも聞こえる。そんな不思議な何かにそう言われたからそうなのだろう。
だが、転生なんていったいいきなり言われてもどうしろというのだ。
「おい? 生きてるか? おかしいな、生きてたはずなのに」
「ちょっと待て。生きてたってどういうどういう事だ!」
「そのままの意味だ」
もやもやと不明瞭な何かのカミングアウトに俺は憤慨した。
俺には親がいる。友人がいる。恩人がいる。想い人だっている。
なのに、問答無用で転生しろなんて言われて「はいそうですか」で納得できる訳がない。俺は、あの生活を幸福だと思っていたのだから。
「取り敢えずお前の物語を観測させてくれ。ある程度の願いなら聞いてやる」
「なら俺のいた世界に転生を──」
「してもいいが、そうなればお前の世界に残ってるお前の体は消えるぞ?」
「──分かった。分かったよ!」
声を荒げながらも話を聞くことにした。
「……さて、多少の無理は通しても構わないと思ってたが、別にそのままの世界では面白くもない。ひたすら他者と同調する様子なんて見てられない。だから一つ現代社会そのままの世界は却下させてもらう」
……だったら望みなんてない。
「ま、さすがに立場はこちらが上とはいえ、幸福な者の幸せを壊してそのままというわけにもいかない。断れないとはいえ頼む側だからな」
「つまり、何が言いたい?」
「──君の物語、それを収集できれば君の体、それも君の世界でのものに返そう」
それは、とても甘美な誘いだった。
だが、それはむしろ絶対条件だ。目の前にいる超常現象の塊が見たい何かなんて、一般人であるはずの俺が見せられるわけもない。
だからもう一声。
「……せめて死なない程度の力をくれ」
「その程度の願いならいくらでも。むしろ他にも言ってくれて良いが?」
案外太っ腹だなこいつ。
といってもこういう時何願えば良いかなんて知らないし……。
「記憶能力の向上」
「ん? それだけか?」
「まだまだ。これってどれくらい叶えてくれるんだ?」
「特に決めてなかったな。ま、決定的なモノが出てくるまででいいだろう」
「決定的なモノ……?」
「例えば『全ての才能をもつ』とかだな」
なるほど。つまりそれ一つで世界を動かしてしまう願いは無理だと。
……ちょっと煩悩が出てきたが、どうせなら叶えてもらってもいいだろう。
「あの、お、女になったりは……?」
「ん、分かった。女体化も入れておこう」
やばい。もう引き返せないぞ……!
「そうだ。錬金術は!?」
1の物を10へ、10の物を100にする錬金術は好きだったりする。
「……決定的なモノ?」
う~ん。結構ロマンあるけど、これ以降の願いをなくしてという程でも──
「──決定的ってどれくらい?」
「材料がなくても賢者の石や生物を造れるし──」
「決定的なモノの方でお願いします」
いや、無からの錬成ってこれ程までにロマンが詰まったものないだろ?
だから衝動的に言ったのは仕方ないんだそうなんだ。
「……オーケー。多くの外れがある中で見事素晴らしいモノを選んだ」
つまり、どういう事?
「あの世界は慣れやすい世界だから、結構平穏な日常を送れるさ。肩慣らしとでも考えてくれ」
「その言い方、まるで複数の世界に行くような言い方だが……」
「候補が複数あって、繋がってるだけ。さ、心の準備は良いかい?」
「最後に一つだけ。もしかして赤ん坊から?」
ここまでぱぱっと進めてきたけど、さすがにこれは聞いておきたかった。さすがに、精神年齢が十数歳なのに親の乳を吸うのは恥ずかしさで死にそうになる。
「別に君は生きてるし、そういう『輪廻転生』みたいにやろうとしたら一度、君の世界に残ってる体を殺さないといけないから十二、三歳ぐらいの体で送り出すよ」
そうか……色々法則みたいな何かもあるんだな。
眠気が襲ってくる。おそらくこれに負けて眠り、そして起きたら転生は完了するだろう。
瞼は閉じていき、ただでさえ浮遊感を感じていた体は意識が薄れると共に浮遊感を増していく。
そして俺は、意識を闇へと落とした。
☆
眠るように転生を完了した『誰か』を見送りながら、一人考え事をする。
『名前のない者たち』
それこそが彼、または彼女の真実である。
言葉使いから男だろうが、声で判断するなら高さからして女だったか男だったかも分からない不思議な声だった。
そもそも、私はその彼か彼女の姿と声を借りただけなのだ。
あそこまで誰かに変わる才能の持ち主はいないだろう。実際、転生者にしても世界が異常を察知できないのだ。否、もしかしたら転生しても何者でもあるが同時に何者でもない存在では、概念の『世界』を揺るがせないと分かっているからだろうか?
自らの住民でもあちらの住民でもなれ、その逆にでもなれるなら、違う世界が混ざって壊れる事はないと。
何はともあれ。
「生きるも死ぬも、ただ私は観測しようじゃないか」