おいしいビールの飲み方
ビールを片手にどうぞ
正平は雑誌ライターをしている。
ある日編集長から
「正平、取材してこい。大先生との対談だ、失礼の無い様にな」
雑誌でおいしいビールの飲み方という特集記事を扱うことになった、その一コーナーにある俳優との対談記事を載せることになったのだ。俳優はかなりの酒豪で特にビールには少々うるさいらしい。
正平はもちろん了解したが、先方から取材の条件がいくつか提示された。
・記者は一人でよこすこと
・その日の記者はほかに取材は受けないこと
・当日記者は出社せず直接取材に来ること
・公共の交通機関を使うこと
・記者は取材を終えたらそのまま家に帰ること
・取材場所はこちらで決める
正平は特に疑問には思わなかった、一人でいくわけだから撮影用の三脚がいるなと思った。
当日
取材場所は俳優の自宅だった。
挨拶を済ませ家に上がる、俳優に家族は居ない、手伝いもおらず直々に部屋に案内された。
丸テーブルを挟み椅子が二つ、卓上には何種類かビールが用意してある。
ああ取材の条件そういうことか。
「どうも、では早速ですが取材を始めさせて頂きます」
「うん」
「僕は風呂上りには必ず、ビールを飲むよ」
「はい」
「巷ではビールは常温じゃなきゃ、とか何度までとか言われてるけどね駄目だねそんなの缶ビールはキンキンに冷やしたほうがいいに決まってるんだ」
「ええ、分かります」正平も同じ意見だ。
「あとこの時期はシャーベットにして食うのもいいね」
「シャーベットですか?」
「うん、最初はうまくいかないけどね段々おいしく作るコツを覚えるよ、工夫して作っていくのがまたおいしい」
「試してみます」早速今夜やるつもりだ。
聞いてるだけじゃ対談にならない。
正平は若者らしくコンビニに置いてある優れたつまみの持論を語ったが俳優の顔が険しい。
「君、僕を馬鹿にしてる?」声が若干低い。
「いッ、いえそんなつもりは…」あっ、やっちまったか?
「僕はコンビニでビールとつまみを選ぶのがライフワークみたいなものだよ、君が未成年のころからね…、今君が語ったことなんて百も承知さ」にっこりと素の笑顔だ。
よかったさっきのは演技だったのか、正平の緊張をといてくれたのだ。
それからは、正平も大いに語り俳優も頷きながらビールを煽った。
正平は最初俳優という職業に偏見を持っていて、気難しいだけの人種と思っていたがそんなことは全く無かった。
取材が佳境に近づくにつれて、無名の若記者にも紳士に対応してくれるこの俳優のファンになっていた。
久しぶりに良い酒が飲めた。
「では何か最後にありますか?」
「そうそう、大事なことを言い忘れていたよ…」
横たわった正平の瞳孔は完全に開ききっていた。口からはビールと共に赤い液体が垂れ流れている。
「あぁ、やっぱり殺しの後のビールが一番うまい!」
酒は飲める年齢ですけど、ビールの何がうまいかさっぱり分からん!
今日も飲んでみたけど薬箱の味がした。
あとなんで俺が書くものは必ず人が死んでしまうのだろう…