8.ラスボス設定
ミリアを救う手段は、正攻法を除き、僕にはもう1つしか手が残されていない。但し、ダンジョンを消すという裏技は秘めたままでだ。
その奥の手が、『ラスボス設定』だ。
簡単に言えば、ダンジョンのラスボスを誰にするかを変更できる能力だ。
それで僕を指定すれば、ダンジョン外と、ダンジョンレベル1000の最奥・100層とを、自由に行ったり来たり出来る。
それだけじゃない。
ダンジョン管理者とラスボスの権利を両方とも持っていると、ダンジョン内で出来ることがかなり増える。
POPモンスターとか、ドロップアイテムや宝箱等の設定。まぁ、宝箱の中身まで設定できてしまうので、ラスボスの権利を得た今なら分かるが、スロットが付いたアイテムなど、無限に入手できてしまう。
まぁ……ダンジョン管理者権限だけでも、出来ることがあまりにも多くて、ラスボスの設定も、つい先ほど気付いたのだが。
まだまだ、僕の気付いていないことは多いのかも知れない。否、確実に多い。ラスボスの設定で出来ることが増えたのだから、確実だ。つうか、未だに普通の管理者権限だけでも、どれだけのことが出来るのか、全ては調べきれていないし、僕は今、能力を持て余し気味だ。
ダンジョンの最奥・100層は、だだっ広い空間に、城が1つ佇んでいるだけであった。
3階建ての城だが、1階から3階まで城の全部を含めて、100層のようだった。
ダンジョンの途中への出入りは出来ないが、外と最奥だけなら、シルヴィーンを連れて行くのも問題が無かった。
「たーのーも~。たのもー!!」
城の門を開けて、一階のエントランスで叫んだ。
「……道場破りじゃないからね?」
「……?
分かっておりますが」
「……ツマラン。卑弥呼なら、話が通じたかも知れんが」
まぁ、軽いおふざけだ。真面目な話じゃないから、どうでもいい。
「しかし、門番もいなかったな。
……アイツラ、大丈夫だろうな?」
「ミリア殿は、秘かに相当な実力を持っていると見受けておりましたが?」
「ああ。僕が鍛えるのを手伝ったからな」
ステータス上昇条件を幾つも知っている僕の下で鍛えれば、当然、効率も良くなる。ミリアのステータスは、ルシエルにも負けない。今のシルヴィーンには、負けるかも知れない。
「……だれ……だよ?」
階段の陰から、一人の人影が見えた。……ロークだ。
「おお、生きていたか!」
「……テメェ、何しに来やがった!?」
「……僕、食糧も持ってきたんだけど、その態度でいいの?」
「あ、ゴメンナサイ……。あの子に脅されて……」
ロークは簡単に掌を返した。
「ミリアはどこにいる?」
「……恐らく、玉座の間に」
「そうか」
ずかずかと進み、後ろから聞こえる「食糧~」という声は無視する。
玉座の間に入ると、左右から小さな人影が迫ってくる。ナイフで切りつけられるが、交わす。
「リューイ殿……!!」
「剣を収めろ。今ならば許す」
「申し訳ございませぬ!」
2人は、ナイフを鞘にしまって跪いた。
「バグ!!」
玉座の方から、大きな声が放たれる。その直後、僕は咄嗟に回避行動を取ると、先ほどまで僕の頭があった位置を、バグの足が通り過ぎる。速い攻撃で、見た目以上に威力もあるはず。下手に当たると命が危ないはずだ。
「オートデバッグ!!」
デバッグを開始した途端、バグの動きが止まった。ミリアが指示を出すが、動けないようだ。やがて、バグは完全に分解された。
僕とミリアが対峙する。
僕は、頭の中で、必死になって紡ぐべき言葉を考えた。
「リューイの馬鹿!もう、許してあげないから!!」
「……別に、許しては要らないけど」
言葉の選択を間違えただろうか、ミリアは、その場で泣き崩れた。
「……ご飯にしようか」
「……ひっく……ひっく……。……うん」
とりあえず、僕はシルヴィーンに指示を出し、あの三人娘を探して、ロークと共に食堂へと連れてきてもらった。
食糧は、たんまりある。
僕は、これでもか!というぐらいに、美味しい料理を、ミリア達に振舞った。
僕は、料理を次々に作りながら、今回の件の落とし所を、頭の中で考えていた。




