3.ファーストアタック
ぽっかりと口を開けるダンジョンの入り口。
少し、不気味さを感じさせる闇が広がる。
「入り口から入ったら、レベルを尋ねられるから、全員、100レベルに挑戦して合流しよう」
僕がそう言い、先頭に立ってダンジョンの入り口の闇の中に身を投じる。
全身が闇に包まれると、質問の声が聞こえてきた。
『何レベルに挑戦致しますか?』
「100レベル」
『承知致しました』
……闇が晴れない。
魔法で灯りを生み出そうとする。
……反応が無い。
「はぁ!?」
慌てて入り口から外に出る。次に入ろうとしていたシルヴィーンとぶつかった。
「っ!
どうしました?」
「全員、居るな?
慌てるな。確認したいことがある」
ダンジョンの外で、灯りを――まだ明るいが――魔法で灯してみる。……問題なく発動した。
「……どういうことだ?」
「……どうかしたの?」
「……中で、魔法が使えない可能性がある」
「「……」」
「「はぁー!?」」
これが確かなら、一大事である。
……僕が、役に立たないかも知れない。
「待て。僕が、中で色々、確かめてくる。
ちょっと待っていてくれ。
……とりあえず松明を持ち込もう」
適当な棒に適当に布を巻いて油を浸し、火を灯して今度は1レベルに挑戦する。
……30分後。
「……最悪だ」
ダンジョンの外に戻って、3人に伝える。
「管理者権限の能力すら、ほとんど使えない。
ステータスはどうなっているのか分からん。
マジックアイテムも、機能しない。
……要するに、僕が、一般人と同程度の能力しか発揮できない」
「……どうするの?」
「挑戦はする。それは当然だ。
……だが、1レベルから順番にということになるだろう」
だが。
実は、僕はこの時点で、大事な情報を隠していた。
……ダンジョン管理者権限。
僕は、それを指定出来るらしい。恐らく、ダンジョン作成者の特権だ。
僕はそれを知った時、『このヌルゲームを熱くする種が来た!!』と思った。勿論、そのダンジョン管理者権限を指定しないことで。……管理者権限で何もかも自由自在というのは、非常に面白みに欠けると感じていたからだ。
だから。
僕はしばらく、ダンジョン管理者権限の存在を隠そうと思っていた。
「ダンジョン専用の管理者権限でもあるんじゃないの?」
……卑弥呼が言った。
「……そうなの?」
「この顔見れば、あるってことなんじゃない?」
隠し通すのは無理そうだった。
「ああ!あるよ!だからどうした!?
何でも思い通りに行くのが、決して楽しいわけじゃないって分かったから、不自由を楽しもうと思って、封じ手にしようとしたよ!それがどうした!?」
「救わなくちゃいけない人がいるんじゃなかったの?」
「少しは反省する時間を与えたいんだよ!」
「1000レベルの100階?そんなにすぐに助けられるものなの?……まぁ、アタシとしては、救わないってのもオススメだけど」
「……分かったよ。確かに、明かりも持ち込まなければならないのは不便すぎるからな。
……獲得したぞ、このダンジョンの管理者権限」
すぐに、ダンジョンの100レベルに突入する。
まずは、明かり。……僕の作ったメソッドが機能しない(泣)
ステータスを確認する。暗くても、概念として理解できるから問題ない。……半ば、予想はしていたさ。
魔力が8000近くもあるぜ!!
魔力の上昇条件を散々調べる過程で届いた数値だが、管理者権限で0にしたはずだった。
……つまり。
ダンジョン外の管理者権限が、まるっきり無視されているようだ。
ならば。既存の魔法で明かりを灯す。
意外と便利なのだ。最初に魔力を消費するだけで、延々と灯してくれるし、消費魔力も、1時間も他に魔法などを使わず安静にしていれば回復する程度のものだ。具体的に数値にすると、10ぐらい。
とりあえず、周囲を眺めている間に、シルヴィーンがやってきた。しばらく間を空けて、ルシエルと卑弥呼も。
「卑弥呼。お前、恐らく足手まといだぞ。管理者権限で上げた能力値は、無視される。
自力で上げたステータス分の能力しか与えられない。
ついでに言うが、管理者権限を与えられた奴は、あとは前世の記憶以外に、ギフトを与えられずに転生する。当然、他のギフトを与えられた奴の方が、その能力においては高い。……ただのスキルを与えられるだけということもあるがな」
「嘘!?……ステータスも見れない!!」
ギフトについては、どっかの図書で読んだ。この世に産まれる者は、必ずギフトを与えられているらしい。僕は、ステータスを見れるのだからと、ステータスの上昇条件を調べる過程で、ギフト持ちにも負けないだけの能力値を、自力で獲得したが。当然、スキルの獲得条件についても調査したが、そちらは大した成果は無い。それでも、幾つかのスキルは手に入れたが。……正直、手に入れてしまったスキルの獲得条件を、再検証することが難しいのだ。管理者権限で失わせても、それは、『アクティブではないスキル』として獲得済みになってしまうからだ。
だから。もう名も忘れたが、あの怪力の男は、力のステータスだけに異様なまでのギフトを与えられていたのだろうと思う。
「……一応、見ておくか。
……1000に届いているステータスが1つもないぞ」
「そんな……!ここでは、アタシは無力だと言うの!?」
「だが、剣術のスキルはある。他にも、幾つかあるな。……戦闘系ばかりだが。
剣奴だった時の経験が活きているんじゃないか?」
「別に、そんなの嬉しくない!!」
卑弥呼が、一頻り困り果てた後、僕の方をじっと見た。
「……ダンジョン管理者権限で、ステータス操作できるよね?」
「やらんぞ。つまらんから」
「やらないなら、帰る!」
しばらく無言で向き合った後、僕はため息をついた。
……僕が折れることにしたのだ。
「……分かった。ある程度は上げてやるよ」
「分かればよろしい」
……だが。
「……おかしい。ステータス操作が出来ない」
「嘘だったら殴るよ」
「いや。ホントに出来ない。……僕自身のステータスすら操作できない」
……つまりはだ。
「……何でもやろうと思えば出来てしまうヌルゲームから脱することが出来る!!」
「何、喜んでるの!?ここ、困る場面!!」
冗談じゃない。
コレを楽しまずに、何を楽しめと言うのだ!?
僕は、このダンジョン攻略に、ガッツリと重いやりがいを見出していた。
ダンジョンよ……僕の期待を裏切らないでくれ……!!




