1.帰郷
一回、帰らせてくれ。
僕は卑弥呼にそう伝えて、ルシファーの国に帰った。……卑弥呼もついて来たが。ノーヴィスには、違約金として30億マナクルほど払ってきた。お安いものだ。幾らでも、マナは作れるのだから。
だが。
ルシファーの国は、様変わりしていた。
戦争でもあったのだろうか、都市も荒廃しかけている。
「……ルシエルに事情を聞くか」
通信機能を呼び出して会話する。
『ミリアちゃんがルシファーに喧嘩売ったんだけど?』
「……なん……だと!?」
『ついでに、資金提供を求められたから、100億マナクル渡してある。……脅されたのよ?でなければ渡さないし、口止めもされてた。
分かってる?あなたが放置したから、ミリアちゃん、自暴自棄になってるのよ!?』
「しかし、使い魔を贈ったし、それだけじゃない、ヒマを見ては、お土産贈ってたんだぞ!?」
『……で?
あなたの傍には、今も女の子がいたりしないの?』
「……」
や、ヤベェ……何も言い返せねぇ……
「……カルフィナは?」
『ミリアちゃんと一緒。あなたはベルフィナちゃんと一緒?』
「とうに別れた」
『……まるで付き合っていたような言い方ね』
「茶化すのか?」
『……で?別の女の子が一緒にいたりしないの?』
「……」
しばらく無言を貫くと、ルシエルはため息をついた。
『浮気者』
「……!!」
何か言い返せよ、僕!!このままじゃ、正義はミリアにあるぞ!?
「……ミリアがどこにいるか分かるか?」
『どっかに城を建てたらしいわ。……以前のミリアちゃんと思わないことね。あなたの渡した指輪で、凄まじい力を手に入れたようだわ』
「は……?」
それは……マズくないかなぁ?なんて、ふざけていられる事態ではない!!
「バグはどうした!?」
『何が?
ミリアちゃんは指輪の力を”支配した”って言ってたけど?』
「バグを従えたのか!?」
『知らないわよ、バグなんて。
それが何かの意味を持つの!?』
デバッグしたのなら、構わない。
だが。ミリアがバグに取り込まれてしまったのならば。
……デバッグして救えるのならば良いのだが。
「ありがとう。金については、もう要らん!全額、キミに謝礼として差し上げる。
塩と砂糖の売買その他の扱いについても、任せる。
僕には、他に目的が出来た。協力するなら、一枚噛ませても構わないが、その前に、ミリアの件を僕は片付けなくちゃならない!
済んだら、また連絡する。それまでに考えをまとめておいてくれ」
『ちょ……私の用事は、まだ済んで――』
通信を切る。すぐに呼びかけがあったが、無視だ!
「済まない、急いで片付けなければならない問題が出来た。
悪いが、ダンジョン経営はその後になる」
「……あなたの女の件?」
「人聞きの悪い表現だが、その通りだ。……つうか、まだ僕の女になったわけでもないし、そんな約束をしていたわけでもない。
現時点で、ただの幼馴染だ」
「……本人がその言葉を聞いたら、キレるかも知れないとは思わないの?」
「……既にキレられているようだ」
「言っとくけど、アタシも一応、あなたを狙っているんだからね。前世の同郷の士なんて、他にいるとは思えないから。
アタシは、その子諦めて、アタシにしておきなさいとは言っておくわ」
「……流石に、見捨ててはおけない」
「……バグ、と言っていたわね」
「意味が通じるなら、その通りだと言っておこう」
「あなたのデタラメな力で、その子を城ごとダンジョンに沈めておけないの?
相手がバグなら、ダンジョンのラスボスとしてうってつけじゃない?」
「……可能であるかどうかも、返答に時間がかかる。
ただ……出来そうなメソッドに心当たりはある」
「……めそっど?」
「プログラミング用語だ。専門知識が無かったら、知らなくてもおかしくはない」
「あー……この世界って、やっぱりマジでプログラムなの?
その辺も、今度、詳しく聞かせてよね」
「分かった」
どうでもいいことだが、ふと、1つ気になった。
「……メソッドは、概念として伝わったか?」
「いいえ。その音そのままよ。……そういえば不思議ね。この世界、どんな言語でも意味として伝わってたのに。
……同一世界の言葉だから?」
「ちなみに、『インスタンス』も音しか伝わらないか?」
「……『いんすたんす』って音だけよ?」
……使えねぇ!教えれば、簡単なプログラミングをさせられるかと思ったのに!!
「……で?その子の裏切りは許すの?」
「……『裏切り』?」
「そうでしょ?裏切ったんじゃないの?」
「……そうか。裏切ったのか」
とりあえず。
行く場所がある。
僕の別荘はどうなった?
「……転移するぞ」
「アタシも連れてってよね」
僕の元別荘。
そこには。
……城があった。
「ミィシャ!ミリィ!」
「ミリアちゃんの手下よ、今は。
……やっぱり、ここに来たのね」
ルシエルも、そこにいた。
「……城の場所は知らないと言ってなかったか?」
「久し振りにココに来たのよ。
ミィシャとミリィが取り込まれて、ここに来る必要なくなったから。
それにしても、立派な城ねぇ。パパのお城みたい」
「……お前は取り込まれなかったのか?」
「依頼はあったわ。でも、100億マナクルはその交渉材料。断れたわ」
「……ミリアは、裏切ったのか?」
「そう言ってもいいんじゃない?」
……そうか。裏切ったのか。
「じゃあ、いいか」
ダンジョン生成メソッドを展開した。
「ちょ……!いきなり!!」
「わぁお♪」
城が地下に潜ってゆき、ダンジョンの巨大な入り口が出来た。
「さあ、姫を救うために攻略するぞ!!」
……ミリアには、しばらく反省させよう。
そしたら……謝って来るかも知れない。
その時、僕はこう言うんだ。
――『ただいま』と。




