21.同郷の士
僕は卑弥呼を牢に連れ込み、同じく日本の近い・或いは同時期の年代の記憶を持っていることを確認した後、彼女にかけられていた隷属魔法を解いた。
「……ホントに解けるんだ」
「まぁな。一応、魔王の権限持ってる」
「……私も、管理者の権限持ってるんだけど」
「魔王は上位の管理者権限だ」
「……知らなかった……」
一部、訂正がある。
隷属の術式をかけられていたので解いたが、『魔法』ではなかった。呪いの類で、恐らく、魔法より上位の術式。魔王権限が無ければ解けない。……だが、それを解いたことで、僕はその術式を行う権限も得て、マモンに会う必要性が無くなった。
というか、それどころではない。
今まで、ロックがかかっていて出来なかった、『物質をマナに変換する』権限まで得られてしまった。どうやらマモンの持つ権限には、その両方の能力があったらしく、そして、僕は、『他の魔王の持つ権限能力を得る条件』が分からなくなってしまった。2代目サタンを除いては、会ってから権限能力を獲得していたので、顔を合わすことが条件だと思っていたのだが……。
「……つうか、他の能力が要らないレベルのスゲー能力を得た気がするぞ」
いや……疑問には思っていたんだ。
通貨になるほどの数のマナが出回るのに、獲物を狩ってマナ化していて、間に合うのだろうかと。
恐らく、マモンが世の中のマナのある程度を供給していたに違いない。
「じゃあ、アタシの復讐劇に付き合ってくれる?」
「イヤマテ。それはヤメテクレ。
この世界を壊したいのか?」
「アタシは一人でもやるよ!」
「土下座して謝罪させるから、考え直せ」
「……『土下座』?」
「しなかったら、僕も一緒に暴れる」
「……面白いじゃないか」
ニタニタと楽しそうに笑って、彼女は牢の檻を剣で切り裂いた。
「早く見たいね。行こうじゃないか」
「……その前に。
キミ、ホントに名前は卑弥呼?」
「いえ。違うけど、もう馴染んだ名前だから、そう呼んどくれ」
騒ぎ出した牢番も、相手を見て逃げ出す。管理者の権限を持っているからステータスは圧倒的だし、実力も知られているから、相手をしようという奴は少なく、刃向かう奴は、卑弥呼が切り捨てた。
「マモンの側近はどうする?」
「勝てなくはあるまい?」
「……まぁ、僕は勝てるけど」
「アタシも負けるつもりはない」
「待って」
地面に剣を突き刺す。
「これを使って」
「……ありがたい!」
何の能力も持たせていない水の特殊結晶の剣だが、錆びた中古の剣よりはマシだ。
「アンタの得物は?」
「術で戦うよ」
実戦で培われた実力なのだろう、多少の補佐をするだけで、卑弥呼は同等の能力値の相手も軽々と圧倒してくれた。これなら、奥の手を幾つも晒さずに済む。ありがたいことだ。
「……ホントにコッチかい?」
「恐らくな。今まで見た限り、構造は僕の記憶と一致する」
「……来たことがあるのかい?」
「いや。この城を作るメソッドを解析した」
「……意味が分からないよ」
「この城の構造は予想がつくと言っている」
そして、大きな扉に辿り着き、「この中だ」と僕は告げる。玉座の間か、或いは――
「……いないよ」
扉を開けるが、マモンはいなかった。
「……まぁ、そんなこともあるさ。
多分、こっちに魔王の部屋がある。
そこにいなかったら、逃げ出したのかもねぇ……」
半日かけて捜索し、マモンの姿は見つけられなかった。
「……マモンの土下座は?」
「……僕の土下座でいい?」
「いいわけあるか!
……交換条件を出す。叶えられないなら、アタシは死ぬまで復讐のためにマモンを一人で追う!」
「……一応、言ってみてよ」
「アタシ、ダンジョン経営がしたいんだ!」
……何を言い出すかと思えば。
「……で?」
「構想はある。だけど、それを実現する能力が無い!
……アンタ、バレてないつもりだろうけど、スゲー能力を幾つも隠し持っているよね?
それを、アタシの夢のために使ってみてくれないかい?」
「まぁ、いいだろう。
とりあえず、飯でも食いながら、その構想という奴を聞かせてくれ。
実現できそうなら、暇つぶしに付き合ってやるさ」
「ありがとう!!」
そのまま城下町に出て――飯?
そんなわけがあるか。
剣奴を辞めたら、帰ると決めた場所がある!!
「何だコレ、ウメー!!」
ベルゼブブの国は、やはり、美食に関しては他の追随を許さず、卑弥呼が涙を流して食べるほどの美味だった。




