5.決闘
木剣を構えて、セリンヌと向かい合う。
……何で、こんなことになったんだろう……。
セリンヌを応援するロークを、恨みを込めて睨んだ。
ロークも、殺意を込めて僕を睨んでいる。
きっかけは、こんなことだった。
「セリンヌ。今日こそ勝たせてもらう」
ロークが、久し振りにセリンヌに挑みかかったらしいのだ。
「は?
リューイに勝ってから言って頂戴。
ちなみに、あの動き、魔法使ったんでしょう?
剣一本で勝てないなら、あなたに挑戦権はないから」
「く……!
リューイ!勝負だ!」
「……僕が、セリンヌより弱いと思っているのか?」
図書室から借りてきた魔道書を読んでいて、相手をするのが面倒だった。だから、何気なく言った言葉だったのだが、それが、セリンヌの気に触ったようなのだ。
「リューイ、そんなに自信があるなら、私と勝負しなさい!」
「……は?」
セリンヌは、剣を僕に突きつけていた。
「私に勝てたら、つ、付き合ってあげてもいいわよ……?」
「……何で、僕が勝ったら、君と付き合わなくちゃならないんだ?
僕が勝ったら、君とロークは僕の邪魔をしないでくれ。……ヒマじゃないんだ」
「……私が勝ったら?」
「……何が望みだ?」
セリンヌは、真剣に考え込んだ。
「……どんな望みなら、叶えてくれるの?」
「付き合ってでも、欲しいのか?
……いや、冗談だ。
マジックアイテムを、一つくれてやる。剣か護符を用意するから、好きな方を選べ」
「い、いいでしょう!
じゃあ、行きましょう!」
「……今?」
僕が心底嫌そうに言うと、セリンヌは動揺した。
「は、早い方がいいでしょう?」
「……まぁ、さっさと済ますか」
魔道書を閉じて、亜空間にしまう。正直、機嫌が悪い。中々ためになる情報が載っていたから、面白いところだったのに……
「セリンヌが決闘するぞー!!」
スティンクのシャウトで、校庭に集まった者、約100人。
ミリアもいて、そして、僕が勝ったら、セリンヌと付き合うことになるという噂が、何故か広まっていて、ミリアも不安げな顔をしながら、中立の立場に立っている。
審判を勤めるのは、この学校の先生だ。
「魔法の使用は禁止する。
時間制限無しの一本勝負。
いいね?」
「「はい」」
そして、木剣をお互いに構えて向かい合うことになった。
やる気のない僕と、本気のセリンヌ。
まずは、セリンヌが打ち込んできた。
……剣先が、魔法を使った時のローク並みに速い。
全て弾く。……10回打ち込んできたか。
「片手で!?」
そう、僕は、まだ木剣を片手でしか扱っていない。
二度と挑んで来ないで欲しいのだ。圧倒的な差を見せ付けたい。
「……僕から行こうか?」
「……来なさい」
……パァーン!!
すれ違いざまに打ち込んだ木剣が、セリンヌの木剣を打ち砕いた。
「……え?」
「ストップ!」
審判が待ったをかけた。
……木剣の交換が行われた。
「……おい」
「何よ!?」
「普通、僕の勝ちだろ!?」
「まだ勝負はついてないわ!!」
観客も、誰一人、僕の勝利に納得していない。
……はぁー。
ため息が出る。
……仕方ない。痛い目を見てもらうか。
一方的な展開。
僕はセリンヌの打ち込みを回避しながら、何度も彼女の右のふくらはぎに打ち込む。……同じ場所に。
最初は、痛みに顔を歪める程度だった。
しかし、次第に動きが鈍くなり、やがて、セリンヌは立てなくなった。
「……僕の勝ち、だよな?」
「くっ……!!」
悔しがるセリンヌだが、そんな、悔しがるような微妙な差か!?圧倒的だろ!?諦めろよ!!
「審判!
セリンヌは続行不能だ。僕の勝ちで構わないだろ?」
「そうだな……」
その時だった。
誰かが、僕に魔法をかけた。
レジストして無効化したが、そんなことは、周囲にとってはどうでもいいことだったらしい。
「魔法の使用が行われた!
審判を下す!
リューイの反則負け!!」
「「なっ!!」」
僕も、セリンヌも不本意だった。
魔法をかけたのは、ミリアだった。
「ミリア!何で……!」
「だって……」
はぁー……。
ため息が出る。
まぁ、仕方ない。あんな噂が流れてる状況じゃな。
「……まぁ、いいよ。
ほら。出来合いだが、剣か護符か、選べ」
セリンヌに近付き、条件だった剣と護符を差し出す。
「……受け取れない」
「そうか……かなり良い品なんだがな」
「……どんな代物なの?」
「魔法を一回吸収して、魔法剣になるミスリルソードと、自分を魔法の対象に出来なくする護符だ」
「なっ……!!」
正直、簡単に譲って良いものではない。だから、流石にセリンヌも悩んでいる。護符の方を装備していれば、反則負けになる事態にはならなかったのだが、魔法の対象になることが、僕にとって脅威ではなかったことが災いした。
「……本当に、受け取っていいの?」
「別に……。
だが、二度と、僕に挑んで来るな!!」
「……」
どうやら、僕の怒りを受け、少し凹んだらしい。
「……やっぱり、受け取れない」
「そうか。なら、ポーションを渡そう。
半分は飲んで、半分は傷口にかけろ。そうすれば、傷跡は残らない」
「……ありがとう」
面倒な事件であった。だがしかし、この件のおかげで、ロークが、僕に挑んでくることは、二度となかった。
ただ……
ほとぼりが冷めてから、セリンヌが、あの剣を買い取ろうと、レッドマナを持ってきたが、「ホワイトマナを持ってきたら考える」と断った。
未だに、諦めていないらしく、時々、物欲しそうな視線を、彼女から感じるようになった。