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僕は将来、魔王になる男だ!!  作者: 風妻 時龍
2章.放浪篇
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15.ベルゼブブ

「まずは感謝の言葉を述べさせていただく。

 ありがとう」


 ベルゼブブに会い、まず、そう言われた。


「……管理者、か。

 どうかね、我が国を見た感想は?」

「良い国だな」

「……キミの前世よりも?」

「いや……豊かという意味では、まだまだだ。

 ただ、『食』というきっかけを元に、これだけ国を栄えさせるのは、大したものだよ」

「……手厳しいね」


 そう言いながらも、ベルゼブブは嬉しそうに苦笑した。


「文明の発展、という点を除いては、私の前世より豊かな国にしたつもりなのだが」

「魔法の存在に依存して、か。

 だが、まだ甘い。

 奴隷の解放も無しに、『豊かな社会』と言われてもな」

「……我が国では、本人の犯罪への関与無しに、奴隷の身分になることは無い」

「ほう……」


 それは初耳だった。この国ですら、まだ奴隷は存在しているのかと、残念に思っていたのだが。


「犯罪への抑止力として、完全に奴隷制度を無くすという発想は捨てざるを得なかった」

「まぁ……下手に豊かなだけの社会を目指すのが、必ずしも良いとは限らないと、僕は思うしなぁ。

 むしろ、自然を犠牲にした豊かさを目指したら、『何が豊かなのか』の定義に疑問を持たなければならない社会になりかねない。

 犯罪も増えるだろうし。

 犯罪してでも豊かな暮らしをしたいと発想する人間が増えれば、それだけ、秩序は乱れる。

 秩序が厳しすぎる社会は、生きていて窮屈だし。

 ある程度、秩序の緩い社会で、自然の豊かな、精神的に豊かな暮らしを出来る社会が、僕は理想だとは思う」

「君の前世では、奴隷は存在しなかったのかな?」

「ああ。ほぼ失われた制度だった」

「そうか……。

 一部の権力者が、制度を復活させたりはしていなかったのか……」


 ……キナ臭い話だ。


 不意に、背後から袖を引かれた。

 ……カルフィナだ。


「ねぇ、リューイ」

「何だ?」

「ミリアちゃんから聞いたんだけど。

 ……あの子、あなたがいなかったら、奴隷になるところだった、って」

「……そうだが?」

「……何で置いてきたの?」


 それには、色々思うところがあって、これを言えば、全てを悟るのかも知れないと思う言葉を選んで放った。


「……僕が、自分を中心にしか世界を見れないクズだからだ。

 ミリアには、僕のような男を選ばないという選択肢を与えたかった」

「な!……あなたがクズとか、そんなこと言ってないし、そんなこと聞いてもいない!

 そもそも、あなたはミリアを奴隷になる危機から救ったんでしょう?惚れさせておいて、放置だなんて……」

「惚れてしまう状況を、不本意ながら作ってしまった。……ミリアに、選択の余地は無かった。

 放置すれば、悲惨なほどの不幸となる。

 僕は、救う力があったから救ったが……。


 僕は、一度、僕自身の心の闇に、耐え切れなかった人間だ。

 僕に比べれば、そこらに転がっているチンピラの方が、まだ可愛げがある。


 多少、能力的には優れているが、人格的には――最低の部類に入る人間だよ」

「……だから、距離を置いたの?」

「ああ」

「それが、どれだけミリアちゃんを苦しめるか知っていて?」

「僕の心の闇と向かい合うことに比べれば、大した苦痛ではない」

「……ミリアちゃんにとっては、それが、人生の全てと言えるほどの恋でも?」

「失恋など、この世に幾らでも転がっている小さな不幸だ」

「あなたはもう一度ミリアちゃんを救えるのに、救うどころか、どん底に突き落とすの!?」

「僕が耐え切れなかった苦痛を!ミリアに味わわせたくない!!」

「ミリアちゃんにとって、そんなこと、些細な問題でしかない!

 分かってるの?あなたが、ミリアちゃんの幸せの全てを握っているの!!」


 ……大袈裟な。

 僕は、ただそう思って、恐らく平行線なのだろう、これ以上のやり取りは無駄だと悟った。


「……別に、ミリアから『好き』とも言われたことはないしな」

「女の子からそれを言うのが、どれだけ勇気がいると思っているの!?」

「別に。それだけの勇気を出す価値が、僕に無いだけだろう?」

「……っ!!」


 カルフィナが、『鍵』をつき返してきた。


「……もう、あなたとは一緒に歩めない」

「……そうか」


 僕が鍵を受け取ると、カルフィナは足早に立ち去った。


「ベルフィナ。君はどうする?」

「……別に。今まで通りですわ」


 ベルゼア君が、咳払いを1つ。僕は済まなかったと断ってからベルゼブブに向き直った。


「1つ、聞きたいことがある」


 僕がベルゼブブに問う。


「……バグが現れたのは、ベルゼアを管理者にした時か?」

「……その通りだが、何故、その推測を?」

「僕も、カルフィナを管理者に……!!」


 ……忘れてた。

 カルフィナ、管理者権限持ってるよ……。

 これから、どうするのか知らないが。


「……済まない。ちと頭痛が」

「……?

 まぁ、前世の記憶を得ることも無く、リスクばかりを背負って見返りが無くて残念な結果だったが。

 ただ、ベルゼアが強力な切り札になったな」

「ちなみに、オートデバッグは試したのか?」

「……?

 オートデバッグ?」


 ……分からないのか!!

 これは、色々と検証の必要が出てきた。

 どうも、同じ『上位管理者権限』である『魔王の資格』に、性能差があるように思えてきた。


 これは、この国に長期滞在する必要がありそうだ。


 ……この、非常に美味しい国に!!

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