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僕は将来、魔王になる男だ!!  作者: 風妻 時龍
2章.放浪篇
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10.旅路

 挨拶も無しに、僕らは再び旅立った。

 惜しまれるのが分かっているからだ。


 旅を急ぐ理由も無かったので、歩きによる旅だ。

 僕の右側にベルフィナ。左側にカルフィナ。

 チラチラとベルフィナの視線を感じるが、無視だ。


 食糧は、ある程度のストックを残しながらも、ベルフェゴールに買い取らせておいたし、ハウウェイスさんもまだここで稼ぐつもりらしいから、もう、これ以上の心配や配慮は、甘えの原因となって逆効果だ。


 別に、食糧に困りはしないが、道中の食事は狩りをしながら、足りない分はストックを使う。

 食べられる植物も、凄く多い。

 正直、食糧を増やしながら進んでいくことも可能だ。


「レッドバニーだ、逃がすな!!」


 カルフィナの一矢で仕留める。弓の腕では、もはやカルフィナの方が上かも知れない。


「……別に、ウサギ一羽ぐらい、逃しても良くなかった?」

「馬鹿か!赤いマナ石片を必ず残す獲物だぞ!!」


 そう。

 全ての動物は、マナ石片を体内に持っているが、色が決まっているものは稀だし、レッドマナほど高いマナのマナ石片を確実に遺すのは、レッドバニーぐらいのものだ。よく、乱獲されて絶滅しないものだと、僕などは思っているのだが。


「……要するに、お金になるの?」

「ああ。

 概算で、一羽ブルーマナ一個分の価値がある」

「そんなに!?」


 マナ石片は、実は、内包する魔力量が決まっていない。大きさに大きな差は現れないので分かりづらいが、マナに変換する時に関わってくる。おおよそ10個で一個のマナが出来るのが目安だが、9個の時もあれば、11個の時もある。……余った魔力はマナ石片として残る。ただ……余ったマナ石片を使うと、11個必要になることが多いことが、悩ましい。だからこそ、マナ石片単体では価値が無いと見なされるのだが。

 たまに、複数のマナ石片を体内に持つ場合もあるし、高齢のワイバーンを狩った時に、一度だけ、ブラックマナそのものを遺したことがあった。それが、ミリアのために使った、あのブラックマナだ。

 恐らく、時間の経過と共に体内に蓄積した魔力が結晶化したものだろうと、僕は推測している。


 解体は僕がやった。この世界では、女性も別に躊躇無く行うことだが、僕は女性に獲物を解体させることに抵抗がある。……生きていくため。女性もそのくらいは出来ないと、食うに困る。毒の無い植物を選んで食べて生きられるのは、鑑定のスキルを持っている者だ。何故か、鑑定しないと分かりづらい毒のある植物がやたらに多いので、基本、肉食の文化の世界なのだ。

 だから。

 実は、ポーションの材料になる薬草を確実に選んで売れる者は、食うに困ることはまずない。

 ……というか、パズ草とダラク草のように、条件次第で毒性の有無の違いがある植物が非常に多いことが、一番の問題なのだが。

 あくまで推測だが、マナの質の違いがその条件なのだが、『魔界』という世界を構築されたことによって、毒性を持つ性質のマナの方が豊富である環境ばかりなのが、毒性の強い植物の存在を増やしている気がする。

 だが、草食動物は、毒性のある植物を食べても平気で、体内で毒性を消す能力を持つ動物が、淘汰の結果残ったから、安全な肉を食べられるのだが。

 毒を利用する動物はいるので、毒のある部位を知られている、例えば蛇などに多いのだが、その部位を避ければ、体内全体に毒性のある動物はほとんどいないので、地味に、蛇は手間がかかる分、少々高く扱われている食材であることもある。一応、美味い。歯ごたえがあるので、僕は好きだ。


 毒性を消す魔法は、けっこう重宝されているが、使い手は多くない。そして、その毒を消すひと手間のかかる植物は、凄く安く買い叩かれるので、それも、食糧難に加速をかけている。本人は、適当に植物を取ってきて毒性を消せば、食べられる植物に困ることが無いから、高く買い取る理由があまり無いのだ。パズ草の毒を消しても、ダラク草にはならないが。


 僕は、いざという時のために、毒性を消すマジックアイテムを作る準備はしているが、任せられる人をまだ見つけられていない。確実に売れると思うし、広まると便利になるとは思うが、そんなに高い値段を設定できないので、『儲ける』という観点では、売る必要が無い。

 僕自身も必要なアイテムではないので、作る理由も無いし、金に困っている奴を救う手段として使えるなと、メソッドその他の準備はしてある。


 更に言えば、魔王の権利を持っていれば、自分に『毒無効』の能力を与えることも難しくない。『魔法毒無効』となると、非常に難しいが、僕は、実質、魔法毒も効果を発揮しない能力を得ている。魔法毒そのものの無効は難しいが、その効果を発揮させなくする方法は、工夫で何とかなったし、イチイチ毒を気にして食事をしたくなかったからだ。


「……美味しい、ですね」


 ウサギとキノコと野草の煮物を食べながら、ベルフィナは言った。


「……そうか?」


 僕は、正直物足りない。日本の食事が、どれだけ美味しかったのかを、今さら凄く実感させられる。だからこそ、ベルゼブブの国に行くのは凄く楽しみだ。


「だって……こんなにしっかり塩味がして……」


 ベルフィナは浮かんだ涙を拭った。


「……魔王の娘だから、恵まれた環境で生きていたと思っていたのに。

 ただの食事だけで、こんなに違うだなんて……」

「……デザートも作ろうか?」

「……え?」

「別に、難しいものでなければ、作れなくはない」


 そう言って、僕はちょっと出歩いて栗に近い木の実を取ってきた。

 砂糖を水で溶き、それで木の実を煮詰める。

 ただそれだけのものだが、砂糖の味をあまり知らない者なら、感動モノの美味に感じる可能性がある。


「……美味しいです」


 ほぼ、号泣だった。


「恵まれているからと、努力を放棄した者より、恵まれていないけれど、努力している奴の方が勝つことなんて、珍しいことじゃない。

 これから行く国は、もっと美味しいものが山ほどあるぞ!」

「……リューイ様は、国はお作りになられないのですか?」

「『様』は要らない。君を部下にした覚えは無い。

 国か。……正直、メンドクサイな。

 風のように、自由に駆け抜ける人生を歩みたい。

 何せ、『自由』を司ると言われているからな」


 ニカッと笑って見せる。ベルフィナも微笑んだ。


「だから、風を掴まえようなんて思うなよ。

 そんなことは、出来るはずが無いと悟ってくれ」

「……はい。

 でも、風を感じるのは、私の自由ですよね?」

「……まぁ、な」


 既に、国境は近い。

 僕という風が吹き抜けた後、ベルフェゴールの国がどう変わったのかは分からない。

 だけど。

 ただの一陣の風が吹き抜けただけで、住み良い国に変わっていてくれたらいい。

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