4.狩り
「狩りに行くよ」
そう告げられたのは、一週間前だった。
だから、一週間で準備を整えろと。
……アホかと。
ワイバーンを狩った云々の話を鵜呑みにして、それなりの相手を本当に狩れるのか、試したがった三人。
そして、「嘘つけ」と言い張る奴の筆頭格、ローク。
どこで噂を聞きつけたのか、特別に許可をもらったミリア。
この6人で行くことになった。
そして、どこで情報を仕入れたのか、僕が、以前にワイバーンが一匹住んでいるから、そのうち狩ろうと目星をつけていた山を目指して、一直線。
「ねぇ……他の場所、行こうよ……」
「何故?」
情報を仕入れてきたらしい、スティンクが、僕の言葉に返す。
「こっちに行っても、裸の山があるだけで、獲物なんていないから……」
「いるかも知れないだろう?」
「森とかの方が、確実に獲物が――」
「大丈夫だ。大物がいるとの情報を仕入れている」
ああ……あと300メートルほどで、ワイバーンの縄張りに入る……
……気付くだろうなぁ。
時期的には、あの卵が孵って、雌ワイバーンが神経質になっている頃だろうし……
もうしばらくして、子供が巣立ってから、こっそり狩りに来るつもりだったのに……
「はぁー……」
僕は、盛大にため息をついた。
……縄張りに入る。
ワイバーンが、山から一直線にこちらに向かって飛んできた。僕らを認識していることは確実である。
「ミリア。突進を一度、止めれる?」
「え?……うん。多分。
壁を張ればいいんでしょ?」
「見えない壁に激突させられる?
戦い易くなると思うんだ」
「うん……。気付かれないように、ギリギリまで引き付けるね」
「頼んだよ」
「任せて!」
特待生Aのクラスは、5人しかいないと聞いている。つまり、全く魔法が使えない者と同じぐらい、珍しいほどの魔法の使い手ということだ。それ以上のランクには、S級に一人いるだけというのだから、生徒の中ではベスト10に入ることになる。恐らく、戦い方によっては、ミリア一人で倒せるはずだ。……僕は、出来る限り、手を出したくない。
「おいおい、来るぞ!デカイ!……ワイバーンじゃねぇか!」
「大丈夫よ。リューイなら、狩れる……んだよね?」
確認してくるセリンヌは、不安げだ。見た目はボーイッシュだが、性格は男勝りのスティンクの方が度胸がある。
「……散った方が良くないか?」
「ミリアが一撃防ぐ。
正直に言うぞ。足手まといのお前らがいる状態で、犠牲者無しで狩れる自信はない」
「ひぃっ……!」
クラスで一番乙女してるカルフィナは、怯えてその場でしゃがみ込んだ。仕方がないから、その前に立つが。
「……言っとくが、気休めだぞ。ミリアの魔法で止められなかったら、あの体格だ。諸共に犠牲になる」
「うん……。でも、ありがとう」
爪を向けて突進してくるワイバーンとの接敵まで、あと10秒ほど。ミリアは魔法を準備し、タイミングを見計らい……放った!
「シールド!!」
果たしてミリアの魔法は……ワイバーンの突進を、止めきった!
ワイバーンは頭から衝突して転がり、暴れだした。
シールドは、突進を止めるのが精一杯だったようで、既に砕けている。
「一旦、下がれ!」
4人は下がる。だが、カルフィナは腰が抜けたらしく、動けないでいる。仕方ないので、抱き上げて安全圏まで運ぶ。
「最大火力、打ち込みます!」
ミリアが魔法の準備を始めた。僕はショートソードを構えて、カルフィナを庇う。
「ライトニング!!」
凄まじい光と轟音。雷が落ちた。ワイバーンに直撃。ワイバーンは動きを止める。……だが、まだ死んではいない。
ゆっくりと体勢を直し、立ち上がった。瀕死のようだ。翼を動かすが、飛ぶ体力も残っていない模様。
「もう一撃!」
ロークがミリアに向かって言うが、ミリアは首を横に振る。
「私には、一日一度しか、あの魔法は打てません!」
「リューイ!トドメ刺せよ!」
僕は首を横に振る。
「……見逃そうぜ」
「何でだよ!?」
「巣に、雛がいる」
「「……」」
全員、黙った。
「でなければ、こんな見境なく襲ってくるほど凶暴な奴じゃない」
「……知ってたのか?」
「……ああ。雛が巣立った頃に狩りに来ようと思ってた」
「……見逃せば、それでその子は助かるの?」
カルフィナは気付いたようだ。このままでは、このワイバーンは、巣に戻ることも出来ない。
「眠らせた後で、回復させればいい」
視線がミリアに集まる。
「……もう、そんな余力、ない」
僕は亜空間から薬瓶を取り出し、ミリアに差し出す。
「魔力回復ポーションだ。眠らせて回復させて、僕以外を全員連れて、帰れ」
「リューイは?」
「用事が済んだら、追いかける」
ミリアがポーションを飲んで、魔法を二つ。有無を言わせず、全員を帰路に着かせる。
ワイバーンの縄張りから、十分に離れたのを確認してから、僕はワイバーンを起こす。
「悪かったな」
グルルルル……
ワイバーンが唸り、そして、何かを呼ぶように吼える。
応えるように、紅い闇が一箇所に集い、それが人の形を成す。……一人の、竜人に。
「感謝する」
「いや……前にも頼まれたことだからな。むしろ、すまなかった」
子供が巣立つまでは手を出さないでくれ――
僕は、以前、彼にそう頼まれていた。
「謝礼、というわけではないが、手ぶらでは返さぬよ。
受け取れ」
竜人が、皮袋を投げて寄越す。中身は、十数個のマナだ。
「一応、コイツには、子供が巣立ったら逃げろと言ってあるが、その頃に、また奴らが狩りに来るようだったら、ソイツを説得材料にして止めてくれ。
ワイバーンも、個体数が少なくなってな……。眷属として、護りたい」
「逃げないようなら、僕が狩りに来るが……。
――使わせていただこう」
三番目に価値の高い、レッドマナまで含まれていた。収入としては、上出来だ。
「元気でな」
僕はワイバーンの首を撫でる。ワイバーンは竜人と共に山に帰った。
僕も、5人を追って、早足で去る。
帰ってから、5人には、グリーンマナを1つずつ配った。
「まぁ……子供の小遣いとしては十分か」
ロークの感想は、貧乏はしていても、貴族の子供として、セリンヌたちの共感も得るものだった。
3連休に1話ずつ掲載してみることにしました