3.コンパウンド
このクラスになって、一つだけいいことがあった。
希望をすれば授業は確かにやってくれるが、基本、自分たちで考えて、好きにしても良いという点だ。
「服、似合ってるね」
「……昨日、幼馴染と一緒に、買いに行きました」
その日は、僕の服の話題から始まって、僕の持つ弓の話題になり、弓の練習をしようということになった。
「……弓まで、その腕前なんだ……」
ほぼ、的の中央から外さない。
しかも、矢は矢筒から取り出されてから三分後に、自動的に修復されて矢筒に戻ってくるから、矢を回収する必要もない。ストックは三十本あるから、足りなくなることはまずない。
「その矢筒、どこで手に入れたの?」
「いやぁ……それは秘密です」
僕が作ったのだが、魔法が使えない人が作ったというのは、問題があるだろうと、隠しておくことにした。
「売って!」
「嫌です!」
弓使いらしい、カルフィナが言ってくるが、即座に断った。セリンヌと同じく、森人族のようだ。
「じゃあ、一回、その弓、使わせて。
試したら、返すから」
「……まぁ、必ず返すなら、いいですけど」
滑車式の弓、コンパウンドは、威力の割に小型化が出来る。だから、子供が使うにはいいと思って作ったのだが。
「……え?」
弓を引いている途中で、カルフィナが驚きの声を上げた。
一射してから、弓を僕に返し、的に刺さった矢を回収しに向かった。
戻ってきて、開口一番。
「その弓、レッドマナで売って!」
僕は、ニヤリと笑った。
「ブラックマナなら」
「……時間をくれる?」
「買うんですか!?」
「だって……」
カルフィナが、理由を語り始めた。
魔法の道具ではない。
しかし、引けば徐々に負荷が下がる上に、威力は大きな弓と変わらないという性能なら、その構造の弓を量産すれば、商売として成り立つ、ブラックマナを支払っても、利益を出せる。
そんな理由で、親を説得して出させるから、時間が欲しいと言ったのだ。
忘れてはいけない。この魔界は、七大魔王の勢力争いで、軍事産業は儲かるのだ。
そして、少ないながら、魔法を使えない者もいる。
そういう者も戦力にするには、この弓は役立つのだ。
「……戦争に使われるのか」
「嫌なの?」
「……少し」
カルフィナは見落としていたが、この弓は、最大限に引いた時の負荷が最も低いので、狙いをつける際に有利、だから通常の弓より命中力が高いのだ。正直、兵器としての性能は、彼女の評価でも低いぐらいだ。
「さ、それより、そろそろ昼ごはんにしましょう♪」
最近、食事は、僕が持ち込んだ食材を使って、豪勢に食べている。食材を持ち込めば、食堂では調理をしてくれるからだ。
実は、一人でも狩りをしていた時に保存の効くように魔法をかけて、亜空間に保管してある分が、まだかなりある。
具沢山のスープだけでは満足できない、貴族育ちの彼女たちも、定期的に狩りに出かけて食材を調達していたそうだが、かなり遠出になるので、たまに贅沢をしたい時にしかやっていないそうだ。
なら、親の金で学校の外で店に入って食事をすればいいと思うのだが、魔法が一切使えない彼女たちは、親からの資金援助を打ち切られていた。学校で測定されるまで分からなかったそうだが、そういった者の場合、最悪、家族の縁を切られて、奴隷として売られるそうだ。魔界では、魔法を使えないということは、そこまでのデメリットなのだ。入学金を支払えた彼女たちは、自分の財産として持っていたに過ぎない。
だから、僕の弓を買い取るためのブラックマナの調達も、相当厳しいはずだ。
だけど、魔界での貴族は、例外なく、戦争での重要戦力だから、軍事に関わることなら、可能性があると読んでいるらしい。彼女の親は、商売関係で国を支える貴族らしい。別に、重要戦力と言っても、兵士や将軍としての戦力である貴族ばかりではないようだ。
そして、だから彼女は恐らくは、ブラックマナ以上の見返りを、親から受けることを期待して、あの提案をしたのだろう。
「……あ、このお肉、美味しい」
「本当。……でも、食べたことないなぁ」
「私は、食べたことがあるような味だが……何の肉か、思い出せん」
話題が、食べている肉の話になって、何の肉だったか思い出して、冷や汗をかいた。
「ねぇ、何のお肉?」
「さ、さぁ……」
「柔らかくて、鶏肉っぽくて……でも、味は全然違う。
そんなに小さな生き物の肉ではないな」
「……ワイバーン?」
食べたことないと言ったカルフィナが正解を出して、僕は黙った。
「……アタリ?」
「……」
「「「ええええーーーー!!!!」」」
頷いてもいないのに、バレてしまった。
……どうしよう。
そう思っていたら、どうやってワイバーンを狩ったのかという話になった。
僕は、沈黙を守った。
だが、学校中に噂が広まった後、僕がワイバーンを狩ったらしいと本気で信じたのは、彼女たち三人と、ミリアだけだった。「嘘だ」と主張する主犯は、ロークである。彼はまだ、僕の実力を疑っているらしい。