32.壊滅
怠惰の国、壊滅――
その情報とほぼ時を同じく、ルシファーから1つの依頼が来た。
『七鍵守護神』を貸して欲しい。
第七魔王、ベルフェゴールの国を壊滅状態に追い込んだのは、『怒りの国』サタンの軍勢だ。
軍事力では最大の力を誇り、ルシファーでも、八剣守護者を使って尚、手に余る相手だという。
しかも、八剣守護者は非常に大きな精神的打撃を受けたばかり。
今、サタンの軍勢を叩かないと、噂を聞いてルシファーの軍勢を攻める足がかりにベルフェゴールを攻めた可能性が考えられる。サタンは、ベルフェゴールならばいつでも滅ぼせた。だが、その後の戦況に不安があるから、そうしてはいなかった。だが、今は、一番脅威であるルシファーを滅ぼせる可能性がある。最短距離ではないが、サタンが国土の直接隣接していなかったルシファーを攻める足がかりとして、ベルフェゴールの領土は適地だった。本土決戦を避けたいルシファーとしては、誰かの手を借りてでも、今、ベルフェゴールの元領土でサタンの軍勢を叩きたい。……国内に、『七鍵守護神』という脅威的な戦力がいれば、真っ先に声をかけるのは当たり前だ。
僕は、七人を集めてその辺りを話して相談した。
「俺は、そのまま雇ってもらっても構わないぐらいだが」
ロークが言う。年にブラックマナ10個なら、心が揺れない方がおかしい。
「……師匠のお考えは?」
シルヴィーンが言う。
「全員、協力して欲しい。
先方からは、かなりの大金が条件として突きつけられた。その範囲内で、皆を説得してくれと言われている。
但し、条件は、サタンの主力戦力の壊滅だ。期間や損害は無視して、成功報酬で。
正直、子供に任せていい任務じゃない」
「……もしも、全員が断った場合は?」
「僕が、本気を出して、派手な魔法でもぶっ放して、報酬を独り占めする」
言うべきだろうか。
ブラックマナ100個出すから、何とかしてくれと泣きつかれたと。
別に、ルシファー一人の命なら大したことはないが、八剣守護者がフルパワーで機能しない今、サタンの軍勢が相手だと、国としてはかなり大きな損害が予想されるらしい。……指揮官に不安要素が大きすぎるのだと。兵士の能力は互角としても、数はサタンの軍勢の方が上。サタンだけは、未だに本気で魔界の武力統一を謀って戦争を行っているのだ。
「……お前が本気を出せば、一人で解決できる理由が分からない」
「……一応、正確に理由を言うぞ。
魔王は、一般的に『限界』と思われている能力を、誰にでも与えられる。
だが、魔王自身は、『限界突破』と言われる能力で、魔王にしか権限の無い限界値まで能力を発揮できる。
だけど、変数の上限値は、それより遥かに上で、僕は、知識と技術があるから、その変数の上限値まで、数値としてだけなら、能力を引き出すことが可能だ。
皆に与えた鍵は、その、魔王の『限界突破』の限界値まで能力を引き出すことを、無理矢理に可能としたものだ。
だから、数値だけなら、皆は魔王と同等の能力を発揮できる。
それが、皆が八剣守護者を圧倒できた理由だ。
……流石に、魔王が奥の手を使ってきたら、敵わないからな。
悪いが、それを『ズルイ』と言われたら、僕にも、『その通りです』と頭を下げなくちゃならないぐらいのチートアイテムだ。
7人全員が揃っていたら、下手したら、サタン本人が現れても、サタン一人ならば、撃退することが出来る可能性がある。
……ルシファーが、『反則』とまで言った理由が分かったか?
ルシファーが、与えたくても与えられない値の能力を、お前らが持っていたから、驚かれた。
分かるな。いくらサタンの軍勢でも、魔王に近い能力を持つ7人がいれば、壊滅できる。
逆に言えば、ルシファーは、その手を借りなくちゃならないぐらい、危機的な状況だと判断している。恐らく、支払える限界金額を提示して、断られたら国を捨てる覚悟でいると思われる。
……幾ら欲しい。言ってみろ。多分、言い値で何とかなる」
「え?言い値でいいのか?
じゃ、ホワイトマナ3つ!」
真っ先に言ったのは、ロークだ。
「アホか、お前は!話を聞いていたのか!?」
「そうよ、ローク。そんな大金、貰える訳ないじゃない」
……セリンヌも分かってなかったのか。
「……ルシエル。幾らなら、貰えると思っている?教えてやれ、ルシファーが提示する相場を」
「……ブラックマナ3つ」
「えっ!?そんなに貰えるの!?
……7人で分けたら、幾ら?」
「お前ら、一人につきブラックマナ10個やるから、サタンの軍勢滅ぼして来いよって話だよ!!
それでもなお、活躍次第で追加報酬払える金額提示して来たんだぞ!?
僕だけか?ルシファーの本気を理解しているのは!?」
「「……」」
流石に絶句したか。ルシファーの国の軍事費の一部でしかないだろうが、個人に与えられる金額としては、大きすぎる。感覚が麻痺するぐらいの金額だ。
「……リューイ君。子供だからって、からかわれてるのよ。そんな詐欺に引っかかっちゃダメよ?」
「カルフィナ!本気でルシファーは困っているんだぞ!?」
「だって……。皆、詐欺だと思って、あの話を断ったのよ?7人で相談して。
ホントに、年にブラックマナ10個払ってもらえるって信じていたの、ロークだけよ?」
「師匠。相手は魔王ですよ?陰謀の可能性ぐらい考えないと」
「お前ら、僕がどれだけ本気で凄い能力与えたのか、理解してないのかよ!?」
……泣きそうです。
奥の手がバレる覚悟のアイテムなのに。
「……もういい、分かった。
僕とルシファーを信じて、協力できる奴だけ名乗り出ろ。嘘みたいな報酬、交渉で支払わせるように要求してやるから」
ルシエル、シルヴィーン、ミリア。それにロークは見返り目当てだが、即決で協力を申し出てくれた。三人娘が、懐疑的だ。
「……いざとなったら、リューイが十分な報酬払ってくれるなら、協力するけど」
「恐らく僕に利益を残しても、凄い金額払えるけどな!」
「……約束してよね?」
「してやるよ!」
こうして、無事に7人全員の協力を得られることが決まった。
正直、一人いれば僕が手を下さなくても大丈夫なぐらいだから、わざわざ全員に話して面倒になったと、僕はため息をついて反省したのだが。




