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僕は将来、魔王になる男だ!!  作者: 風妻 時龍
1章.学校篇
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2.学校

 魔界の学校に、入学式は無い。随時、生徒を募集している。

 但し、入学試験がある。


「受験料は、グリーンマナ1つだ」


 僕はもちろん、ミリアも渡してあったお金から支払った。


「学生証だ。身につけろ。色が変わるはずだ。色によって、ランクが分けられる。ランクによっては、入学金の額も違ってくる」


 まずは、ミリアが身につけた。透明だった学生証の色が変わる。……黄色だ。


「イエロー!!

 ……特待生Aランクとして扱う。入学金を免除するが、入学するか?」

「……?はい」


 試験官は、中々、驚いているようだ。まぁ、入学金免除はありがたい。

 次は僕の番だ。

 透明だった学生証は、僕が身につけても透明のままだった。


「……逆に珍しいな。

 Eランクだ。入学金が、レッドマナ1つになるが、入学するか?」

「はい」


 レッドマナを支払う。学生が二人呼ばれ、それぞれ、クラスに案内される。学生証は常に身につけているように言われたが、二人の学生も、黄色と透明の学生証を身につけている。黄色がミリアを、透明が僕を連れて教室まで案内すると説明してくれた。ミリアは不安そうだったけれど、大丈夫だろう。


「君も、貴族の子供か何かかい?」


 案内してくれる先輩が言う。学生証には、『セリンヌ』と書いてある。名前だろうか。


「何故?」

「でなければ、あんな大金、払えないだろう?」


 服装はボロだが……そこは無視!?狩猟の途中か何かの格好ぐらいにしか見えないはずだが。


「まぁ……蓄えがあったので」

「ふぅん……」


 セリンヌは、恐らく森人族だ。男だろうか。顔立ちが整っていて、女性と言われても驚かないが、髪は短く刈っている。腰には、剣を差している。僕より、少し年上だろう。……そういえば、名前は女性っぽいな。近いうちに、聞いておこう。


「君の得物は、弓かい?……変わった弓だね」

「……得物?」

「だって……クリアーということは、魔法が一切使えないのだろう?」

「……は?」


 僕は、セリンヌを質問攻めにして、この学校のランク分けが、魔法の潜在的才能で行われることと、セリンヌが女性であることの確認とが取れた。ついでに、「ワケあり」の貴族だろう?と言われた。軍属だとしても、あまりに服装がボロだからだ。


「じゃあ、僕は魔法が一切使えないことにしておいた方がいいんだね?」

「……まるで、使えるような口ぶりだね」

「別に、習ったことがないから、多分、使えるのだと思っていたんだけどね。

 これが壊れているのでもなければ、残念ながら、僕は魔法が使えないという可能性が高いと思っておくよ」


 実際には、マジックアイテムを作れるのだし、使えないことはないと思う。

 ただ、そうなると、問題が一つある。


「じゃあ、僕らのクラスに、魔法の授業は無いの?」

「無いよ。魔法抜きで、戦うための訓練や、基礎的な勉強ばかりだよ。

 むしろ、ほとんど放置に近い状況だ。自習が多くて、希望しなければロクに授業が行われることがない」

「なんだ、つまらん」


 しばらくは、猫を被って大人しくしているつもりではあったが。

 ここが、つまらない場所であったのなら、それなりの年齢になるまで、身を隠すだけの場所として、割り切ろう。他の悪魔との関わりが必要ないのであれば、猫を被る必要もなくなるだろう。

 教室に着くと、二人の学生が待っていた。


「三年ぶりの新入生だね」


 スティンクが言った。教室に着いてすぐ、学生証に名前を先生が魔法で刻んだので、学生証に書いてあるのが名前なのは間違いない。もう一人はカルフィナ。……みんな、女だ。


「……ハーレム……」


 人によっては、羨ましいだろうが、馬鹿話を出来る同級生がいないということを意味する以上、これは軽い拷問だ。先生を確認するが、ダリアという名の女性だ。


「……ため息をついて言うことかな」

「いや……いいんです。

 ……寮は?男女別ですよね?」

「そうだけど……個室だよ?」

「ふぉぉぉぉぉぉぉ……」

「貴族の綺麗な女の子三人を前に、その反応はないと思うなぁ」

「とにかく!

 とりあえず歓迎会をしよう。

 ……食堂の、クリア定食だけどな。

 ダリア先生、行っていいだろー?」


 ダリア先生は、座って教壇に突っ伏しながら、手をひらひら~と振るだけだった。どうやら、やる気がないようだ。


「よし、許可も下りた!

 荷物置いてこいよ。早いけど、昼飯だ!

 セリンヌ、寮の部屋、案内してやれよ」

「了解~」


 寮に行く途中の校庭で、木剣で訓練している生徒たちがいた。そのうち一人が、模擬戦の相手を打ちのめしてから、僕ら――正確にはセリンヌに近付いてきた。


「セリンヌ、相手してくれよ。魔法抜き、一本勝負」

「今、新入生を寮に案内するところなの。ヒマじゃないから、また今度」


 ローク。ゴッツイ体をした、恐らく地人族。セリンヌより年上だろう。学生証がピンクというのが、似合ってない。


「10分やそこら、いいだろう。

 時間も計る。10分で決着がつかなかったら、終わりでいい」

「ダーメ」

「面白そうじゃないですか。

 何なら、僕が受けてもいいですか?」


 セリンヌがぎょっとした顔をして僕を見て、ロークは大笑いを始めた。


「コイツはいい。

 セリンヌ、俺がコイツに勝ったらでいい。

 10分勝負。決着がつかなくても諦める。

 ……って条件でどうだ?」

「いいですよ。木剣、貸してください」

「ちょっと!私はいいとは言ってない!」

「いいじゃないですか。少し、遊ばせてください」


 セリンヌは、ロークに背を向けて、僕に耳打ちした。


「アイツ、あれでもこの学校で二番目に剣が立つの。あなたの体格じゃ、勝てないから」

「別に、勝てなくてもいいじゃないですか。

 10分、耐えればいいんでしょう?」


 ロークはニヤニヤしながら、こんなことを言ってきた。


「俺に勝てたら、昼飯、交換してやるぜ?」

「あ、4人前、お願いできますか?」

「いいだろう。

 ……お前とお前とお前、昼飯の権利、俺に寄越せ」


 指を差された三人が、ニヤニヤしならが僕らの様子を眺めてきた。一人が、木剣を持って僕に近付いてくる。


「使えよ」

「ありがとうございます」


 僕は、弓と矢筒とショートソードをセリンヌに預けた。


「もう!

 ローク!手加減してあげてよね!コイツ、新入生なんだから!」

「分かってるよ」


 木剣を中段に構えた僕と、肩に担いだロークとで向かい合った。


「誰か、開始の合図と、一分ごとにカウントしてくれ」

「良ければ、始めるぞ。

 ……はじめ!!」


 ロークは、動かなかった。僕も、様子を見る。


「……その構えでいいんですか?」

「構わねぇから、打ち込んで来いよ」

「……では、遠慮なく」


 一分のカウントを待った。


「一分」


 その声が発せられる間だった。


 僕はロークの脇を通り抜けながら、胴をひと薙ぎして、ロークの方を向き直って木剣を構えた。


「もう一度聞きます。

 ……その構えでいいんですか?」


 ロークが驚いたような顔をして、腹を撫でて僕の方を向いた。


「……今、打ち込んだのか?」

「ええ。見えていたでしょう?」


 ロークが真剣な顔をして、両手で木剣を持って、横に寝かせるように構えた。我流だろうか。


「……僕から行っても?」

「……いや。行くぜ!」


 ロークは走り、間合いを詰めて、下から僕の木剣を掬い上げる。

 しかし、遅い。

 僕は、すれ違いざまに彼の横腹を薙いでから、向かい合って、再び双方、構えた。


「二分」


「本気で行くぜ!」


 上段に振り上げ、一瞬で間合いを詰めてくる。

 セリンヌが、焦った声で何かを言おうとする。


「ちょっ……!まほ――」


 振り下ろした彼の木剣を、迎え撃った僕の木剣が砕いた。

 僕は、ゆっくりと彼の喉元に木剣を突きつける。


「僕の勝ちでいいですか?」

「……ああ」


 木剣を手渡して、セリンヌの方へと戻る。


「本気のアイツを、三分足らずで沈めるなんて、アンタ、大したものね」

「まぁ、子供同士ですから。

 それより、セリンヌさんは、彼より強いんですか?」

「一応、私に剣だけで勝ったら付き合ってあげると公言していて、誰とも付き合ったことはないわ」

「あー……セリンヌさんに挑まなくて良かった……」

「……」


 そこから無言で寮に向かい、管理人さんに空いている部屋まで連れてってもらって、荷物を置いて食堂に向かった。

 ピンク定食は、塩だけで味付けして焼いた肉と、具沢山のスープだった。

 ちなみに、ロークたちはその具沢山のスープだけを食べていた。

 食事まで差別化されるなら、何か考えなければなるまい。


 後日、僕が陰で『三分殺のリューイ』と呼ばれていることを知った。

 正直、『あの程度で?』と思うので、期待外れの気配が濃厚なここで、猫を被る意味を急速に見失ってゆくことになった。

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