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僕は将来、魔王になる男だ!!  作者: 風妻 時龍
1章.学校篇
20/79

19.取り引き

凄く偏見的な意見が主人公のセリフとして書かれています

苦手な方は、読まない方が良いと思います

それによって、読者の何割かが離れるぐらいの覚悟で書きました

 カルフィナが、ブラックマナを持ってきた。


「……は?」


 僕には最初、意味が分からなかった。


「あの弓。売って」


 ……そうか。その話が、ようやくまとまったんだな。


「……ホントにブラックマナを用意したのか」


 構造を知ってさえいれば、そこまで価値のあるものではないはずだ。

 だが、この世界では、まだ発明されていなかった。

 新しいアイディアに対する値段としては、そう間違っていない価格かも知れない。


「寮に置いてある。取りに行ってくるよ」

「私もついていく」


 教室から、寮の僕の部屋へ。入り口の前で待っているように言って、弓と、ついでに矢筒を持ってくる。


「これは、サービスだ」

「……マジックアイテムよね?」

「弓が無いなら、価値は無い。

 もう一度作る予定も無い。

 流石に吹っかけた値段を言い値で用意してきたから、このくらいはサービスしても問題ない」


 ワンランク下の、ホワイトマナでも、2つセットの価格として、まだ高いぐらいだ。代物そのものの値段としては、そんなに驚くほどの価値はないはずなのだ。

 もう一度作るぐらいなら、もっと飛び抜けて性能の高いマジックアイテムを作った方が、売る時の値段としても、手間に対する見返りとしても、僕にとっては意味がある。正直、マジックアイテムを作る方が手間がかからないのだ。矢筒も、魔法の知識があまり無い時に、精一杯頑張って、ようやく作れたものだが、今なら、「わざわざなんでそんな性能の低いもの作らないとならないの?」ぐらいのものでしかない。


「……ありがとう」

「小遣いはけっこう貰えたのか?」

「……前払いでブルーマナ一個。あとは、実際に品物を見てから評価するって言われた」

「損失が出そうなら、ルシファーに見せろと言っておけ。興味を持って、それなりの評価を下す可能性がある」


 いつかは、誰かが発明するであろうものでしかない。別に、僕が作ったものだとルシファーが知った上で入手することになったとしても、僕には困る要素は無い。むしろ、矢筒の方がちと問題がある。研究までされた場合には、既存の魔法以外の技術を使っていることがバレてしまう。但し、マジックアイテムの製法にでも興味を持っていなければ、それに気付くほどの研究をする可能性は無い。奴なら、もっと性能の良いものを作る手段の幾つかは、すぐに思いつくはずだからだ。


「実は、それだけでは完成ではないのだが……リリーサーの構造を詳しく知らないから、作れなかった」

「……『りりーさー』?」

「リリースを補佐する道具だ。それがあると、命中精度の向上が見込める。

 スタビライザーなんかと違って、小さな道具だから、あって損の無い道具だが……別に、無いと困るものではないから、頑張って作る気になれなかった。

 競技として使う道具にするなら、スタビライザーとVバーぐらいは作っても良かったんだが、実用の武器として使うには、邪魔になると思って、作っていない。少なくとも、狩りに使う際に取り付けたら、かえって使いづらくなる。密集して木の生えた森では使えないとか、狩猟用の道具として失格だ。

 武器としての用が済んだら、言ってくれ。スポーツとして競技用のものを作るなら、相談してくれれば、幾つかアイディアがある」

「……良く分からないけど、分かった」


 兵器にするだけなら、火薬や銃を発明したら、戦争がより悲惨になるが、それはやるつもりがない。そもそも、新しい魔法を、ある程度作れる僕は、もっと手軽に凶悪なマジックアイテムを作れてしまうが、シミュレーションゲームで戦争をほとんどやらずに内政の充実を図って圧倒的に豊かな国を作ることが好きな僕に、戦争に勝つための手段を作るという選択肢は、存在しない。自衛のための軍事力は用意して備えるが、物量の差でいつか勝てる戦争を、勝負がつくまでやることには、虚しささえ感じる。だから、戦争をしなければ領土を広げられなくなった段階でそのゲームをやめるのだが。まぁ……策略を巡らせて人材を引き抜いて、国を維持する人材が足りなくなった国を一蹴する程度の戦争ならするが。


「……リューイも、商売やってるんだって?」

「……領主ともめてやめた。利益が全部吹っ飛んだ。結果、今、この街に領主はいない。

 ……この世界の住人を、全て悪魔にして、『魔界』という世界として作った奴の気持ちが、少しだけ分かった」

「……?

 まるで、誰かがこの世界を意図的に作ったみたいな言い方ね?」

「……もうちょっと、本を読んだ方がいいぞ。この程度の知識は、この学校の図書室の本にも書いてある。

 恐らく、それが正しい説である可能性も、僕は高いと思っている。

 少なくとも、魔王は全員、作り変えられる前の世界の記憶を持っている可能性が高い。

 まるで、意図的に、『神』という概念をこの世から排除したかったようなやり口だ。


 ただ……宇宙そのものは、滅ぶまで待つだけの状態からは脱している。一時凌ぎにしかならなかったとしても、『魔界』が滅ぶまでの時間稼ぎが出来れば、その時間を活かして、また滅びを避けるための手を打てる可能性は、作ることに成功している」


 カルフィナには理解できないようで、顔に疑問符ばかりが並んでいるが、いずれ、魔王以外の魔界の住人全ても、知るべき情報だと、僕は思っている。『世界』を救う役目を負うのは、魔王ではないからだ。魔王は、魔界が破綻するのを予防するための『管理者』にしか過ぎない。


「……リューイ。あなたは、何を言っているの?」

「いや……すまない、まだ、理解できる者の方が少数派のはずだ。

 ……魔王は、何故、戦争をしているか、知っているか?」

「……魔界を支配するため?」

「違う。

 今の魔界が、世界が滅ばない程度の戦争をする程度の文明レベルにしか到達していないからだ。


 魔王は、魔界が歪んだ形で文明を築くことがないよう、本来であれば歩むべき段階を踏んで、過不足無く高い文明レベルに到達するよう、魔界を導こうとしている。

 多少の知識を持って、早足である目標を目指しているが、戦争を経験せずにそこに到達した社会では、いざとなったら、力ずくで自分の言い分を通すことが、デメリットを無視して、効果的な手段であるという認識をする者ばかりの社会が出来上がってしまう。

 その結果、戦争になった時に、高い文明が生み出した高性能な兵器は、魔界に壊滅的なダメージを与え、『魔界』という世界の次の段階の世界を生み出し、再び滅びを回避する可能性が、消えてしまう可能性が高い。


 ……兵器の性能が低いうちに、力ずくで自分の言い分を通そうとした結果が、悲惨なものにしかならないことを社会が学習し、住人がそれを知識としてだけでも認識し、自分の言い分を通したければ、自分の言い分が正しいことを証明し、相手を説得して双方の納得の上でその言い分を通すことが、遠回りだけれど正しい手段であることを認識しなければ、より簡単な方法である暴力から戦争に発展するという楽な逃げ道を選ぶのが、むしろ当たり前の考え方になってしまう。


 神という概念が存在している限り、戦争は無くならない。神は、『絶対正義』の象徴だ。『神』という言い訳で自分の正義を主張する人間は、自分が絶対に正しいと主張することは、それが正しいということが前提条件になっていて、前提条件が間違っている可能性を考えない。結果、違う考え方を持っている人間の主張は、絶対に通らない。主張が衝突すれば、争いになる。争いに暴力を用い、それが大規模になれば、戦争になる。


 そもそも、『神』という概念は、人によって認識が違うのに、『自分の信じる神様は正しいです』と主張する奴は、『自分の主張することは全て正しいことが前提条件です』と主張しているのと等しいのに、同じ主張をする者以外を認めるはずがない。


 それに、自分の主張が間違っているかも知れないと考えることは、意外に難しいことだ。ある程度は自分の主張が正しい前提条件で考えなければ、自分の主張全てが間違っていることを前提に考えて、精神が崩壊しない者の方がおかしい。

 疑問に思った時、『神』という概念を持ち出したら、楽に正しいという認識を得られる。正しいことが楽に得られるのに、それに逃げないことを選べる者は、極論、この世に存在しない。


 誰かが、『神』という概念を知った時、自分が正しいと思うことは、『神』という概念になってしまう。だから、『精神』という概念が存在する限り、『神』という概念を排除することは出来ない。人によってそれを違う言葉に言い換えているだけであって、……僕の世界の言葉で、『精神』という単語には『神』という文字を使うように、精神は神の一部と言っても過言ではない。


 だから、この世界を作った奴は、精一杯の抵抗をしたのだろう。神への信仰を教義として残らないように、魔王という最低限の管理者以外には、前世の記憶を残らないようにしている。


 ……君も、僕と同じような時期に生まれたのだろうから、恐らく、前世は同じ世界に存在していたはずだ。


 記憶が蘇ることなどないだろうけれど、教えておくよ。

 僕らは、『地球』という惑星からこの世界に飲み込まれて転生した。

 可能性は物凄く低いけれど、そこで、知り合いであった可能性すら存在する」


 カルフィナは、呆然として聞いていた。


「……リューイ、何を言っているの?分からないよ……」

「……うん。

 僕が、言ってしまいたかっただけだ。

 魔王以外で、これを話して理解できる奴は、まだほとんど存在しないと思うよ。


 だけど、あと数百年もしたら、必要になる。

 この世界の住人のほとんどが、この知識を持っていなければならない。


 全て、図書室の書物に書いてあって、僕は裏づけが取れたけど、魔王になる資格を与えられた奴は、転生する時に知識として与えられている。


 ……ルシエルが、魔王を『権利』と言っていた気がするが、魔王は、『責任』を背負わされた代わりに、『能力』を与えられただけだ。


 ……世界と同じ重さの責任だよ?


 『チート』?……言ってろよ。『管理者権限』は与えられたけど、能力は、僕の努力で伸ばしたものだ。能力を伸ばす努力もせずに『ズルイ』と言うのは、ただの逃げだ。


 知っているかい?魔王の持つ『管理者権限』を持たなくても、ある能力を手に入れれば、魔王を倒すことは、容易なんだよ?


 僕が、世界を滅ぼそうと思ったら、勇者を一人育てるだけで、自分の手を下す必要もない。


 ……僕は、何も知らない方が幸せだった――」


 分からないと、本人も言っていたが、ついでに、色々ぶっちゃけた。分かってもいないだろうに、カルフィナは、僕の頭を抱き寄せて胸に抱えた。


「……泣いてもいいよ?」

「――やめてくれよ。

 泣きたくもないのに……泣きそうになる」


 それに、恥ずかしくて人に見られたくない。特に、ミリアには。

 カルフィナは、僕を手放してくれた。


「そう。

 じゃあ、今度、泣きたくなったら、おねえさんに言いなさい。胸ぐらい貸してあげるわ。

 その代わり、また何かいいものがあったら、教えてちょうだいね」


 僕は苦笑しながら、「分かったよ」と答えた。


 ただ……

 この一件が、ちょっとした騒動に繋がることになろうとは、僕は予想だにしていなかった。

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