15.領地
ストックがまだあるので、今日も0時・7時・19時掲載したいと思います
※誤字を指摘されたので、直します
母親の方はミィシャ、娘の方はミリィと名乗った。
店の前で待ち合わせ、転移魔法で目的の場所に着く。
目の前には一軒のログハウス、周囲には、ひたすらの森が広がる。
「……ここは?」
「将来、僕の領地にしようとしている場所の一角。
今のところ、誰の所有物でもないし、所有権を主張する奴も、多分、いない。
そもそも、周囲には人と呼べるような存在は確認できない。
……狩りは出来るだろう?
ここで、狩りをしながら暮らすと共に、色々、僕のために働いてもらいたい。
質問は?」
二人は顔を見合わせる。
「……獲物は、探せばいると思いますが、逆に、獲物が多すぎて、自分の身の安全を確保できない気がします」
「ちなみに、このログハウスの周囲には、ごく限られた者を除いて、自分の意思で近付くことは出来ない。安全だと判断してもらって構わない。
これを渡しておこう」
渡したのは、ペンダントを1つずつ。装飾はする時間がなかったので、ごくシンプルに。だが、そこに秘められた便利機能は、ブラックマナ1個の価値では釣り合わない。
「これを、常に身につけておくこと。どんな時でも、外すことは許さない。
ちなみに、これを外すと、僕の方では、君たちは死んだものと判断する。
緊急の時には、この石を、思いっきり力を入れれば指先の力でも砕けるから、そうすること。但し、よほどの緊急事態の時に限っての、一度限り。
あとは、これを通じて、僕の方から定期的に連絡を取る。
よほどのことがなければ、これを身につけていれば、周囲から気配を知られることがないはずだし、野生の獣ぐらいなら、やり過ごせるはずだ。
狩りをする際にも、気配に気付かれずに済むのは有利に働くはずだ」
「……しかし、私は武器がこれぐらいしか――」
腰から抜いて、差し出してきたダガー。錆び付いて、もう使い物にならないと言っても良いような状態。
「弓は使えるか?」
「はい」
「なら、これを」
コンパウンド。滑車式の弓だ。魔法の武器ですらない。だが、構造そのものが、この世界では金になる。
「矢も渡しておくが……先に、家に入ろう。
ちなみに、ある程度、綺麗に使ってくれ。たまに僕も様子見に来る。
あまりに散らかっているようなら、この家は譲れない」
「え!?譲る!?
……下さるんですか、この家を?」
「……ある程度、稼ぎになる活動をしてもらうから、十分な貯蓄が出来たら、買い取ってもらう。
買い取った後のことまでは、口うるさく言わん。だが、まだ、君たちの所有物ではないという意識は持っておくように」
「はい!」
ログハウスの中を案内する。
2階は、寝室と物置程度のものだが、1階の設備は、良いはずだ。
キッチン、風呂、リビング、他2部屋。
キッチンと風呂は給水設備を共用するため、隣り合っているが、不便ではないはずだ。
「何か、要望はあるか?」
部屋の1つに、矢を100本置いておく。「大切に使え」ぐらいは言っておいたが、言われなくても、無ければ食うに困るのだから、滅多に無くなるまい。戦闘用のダガー一本に加え、調理や様々な用途に、5本ほどはナイフも渡しておく。
「あの……水は、ここから、本当に幾らでも出るんですか?」
「壊れない限り、な。
まぁ……万が一の場合は、近くに川もある。水は綺麗だった。
あと、すぐに風呂に入れ。スマンが、少し、匂う。
使い方を覚えて、こまめに入れ。
小汚い格好をしていても死にはしないという認識でいるようなら、改めろ。
とりあえずの着替えも、2階に用意してある。
しばらくして、金に余裕が出来たら、自分で買え。街には僕が連れて行く。
僕は、食事でも作っておこう。
後の話は、食事を終えてからでいい」
もし、僕が魔王となり、彼女らが配下になるのなら、初期の配下となる。いずれ、それなりの待遇を考えなくてはならないかも知れない。その時、粗末な身形が当たり前では困るのだ。
食事とて、粗末なものでも食べられるのは構わないが、上品なものは食べられない、では困る。
なので、少しずつ慣れさせようと、鶏肉と野菜のクリーム煮を作った。
「……美味しい」
ミィシャはそう感想を述べたが、ミリィは夢中で食べている。ワインに近い酒を使ったのだが、子供でも抵抗無く食べられるようだ。
食べ終えてから、ミィシャに洗い物を任せ、ミリィに与える役目を説明するのだが。
「これが何か分かるかな?」
「パズ草!毒草だね!」
「ミリィは、これを集めるんだ」
ポーションの原料である。
問題は、そのまま使っては毒があるということだ。
特定の条件下で、毒は消えるのだが、あまり知られてはいないようだ。
だから、ポーションの材料は、中々手に入らないと思われている。
自然の環境でも、稀に薬の効能を持つパズ草もあるが、別の薬草だと思われていて、『ダラク草』と呼ばれて珍重されるが、厳密には同一のものだ。
だから、僕は沢山のポーションを作れる。
パズ草は、別に珍しいものではない。
加工方法を知られたら、ポーションは珍しい薬品ではなくなるだろう。
「何に使うの?」
「それは、そのうち教える」
瓶は大量に用意してあるし、メソッドも作成してある。先ほど渡したペンダントを持っていれば、そのメソッドを扱うインスタンスを所持していると見なされる。慣れれば、問題なく量産できるだろう。
「何か、質問や要望は?」
「……気配を消す効果、無くしていただけませんか?」
「……何故だ?」
「私たちは、気配を消しての狩りに長けた種族です。
魔法のアイテムで気配が消えるのに慣れていては、勘が狂ってしまいます。
多少、危険が増えるのは承知の上です。
……娘も、それが原因で死ぬのであれば、どの道、ダメだろうと」
ペンダントの設定は、簡単に変えられるようにしてある。
だが、枠が1つ余る。
……少し考えた末、一度だけ命の代わりに石が砕ける効果を与えた。
知らなくても役には立つだろうから、敢えて言わない。
石が砕ければ、僕も二人の危険を察知できる。
「よし。
なら、狩りに行って来い。
ミリィは、パズ草の群生地まで案内しよう」
ミィシャは狩りに出かけた。日が暮れる前には戻るように言っておいた。僕はミリィを連れ、パズ草の群生する川の畔まで出かける。
強力な毒があるので、虫も食べない草だ。1時間ほど、摘み続ける。
「よし、そろそろ戻ろう」
「はい!」
帰ってタライに入れ、水で浸す。
「まずは、これをダラク草にする加工を行う」
ミリィは興味津々とタライを眺める。
「魔法を使ったことはあるかな?」
「ありません!」
「じゃあ、目を瞑って」
僕はミリィの両手を握って、心に直接、干渉する。
「ここに、魔法を使う手段があるのが分かるかな?」
全ては、感覚的なものだ。そのメソッドが、自分の干渉範囲内にあることを、まずは知覚してもらわなければならない。
「うーん……何となく」
メソッドの存在を強調しているから、目を瞑っている今なら、ある程度、知覚できるはずだ。
「じゃあ、それを起動してみて」
呪文による起動の方が楽かも知れないが、これを感覚で覚えると、後々、とても役に立つ。是非、覚えてもらいたいものだ。
「うーん……こうかな?」
メソッドを強く意識すると、メソッドの実行を行うかどうかの確認が求められる。それに実行することを意識して伝えると、メソッドが起動する。ミリィは、割とあっさり、無詠唱での魔法を使うための手段を実行した。これで、タライの中のパズ草は、全てダラク草に変質した。他の方法もあるが、魔法無しでパズ草をダラク草に変える手段は、あまり知られたくない。
「よし。
今度は、何も補助しないから、もう1つあるメソッドを起動してみて。
それを使うと、ポーションが作れる」
「はい!」
メソッドの発見まで、5分。起動するまで15分かかった。あとは、品質が十分に上がるまで、一晩待てば良い。
タライには蓋をする。品質を上げることも含めたメソッドだが、どうしても、ダラク草のエキスが浸した水に浸透するまで、一晩はかかる。その間に、品質が徐々に上がるようにしてあるのだが。あとは、その水を瓶に詰めれば、高品質ポーションとして売り出せる。薬効成分がすっかり抜けたダラク草は、食べれば良い。香りが少し強いが、慣れると美味い。
「よし、これだけ出来れば十分だ。
あとは、これを毎日、一人でやること。
瓶は50本用意してある。一日、10瓶ずつ作ること。
50本出来たら、売りに行くから、一緒に来い。その次の日は、休んでいい。
明日は瓶詰めをしてから、パズ草を摘みに行く。
早めに、一人でこなせるようになってくれ」
「はい!」
間もなく、ミィシャも帰ってきた。獲物は、鳥が三羽に熊が一頭。……よく、運んでこれたものだ。
「獲物を捌くとき、注意点がある」
皮を剥ぎ、血を抜く。そして、胸の中央、心臓のすぐ近くから、石のようなものを取り出す。砂粒より少し大きい程度だ。鳥も、熊も、1つずつ持っている。
「マナ石片という。加工すれば、マナ……つまり、金になる。
僕は、これの加工が出来る。これは、集めてくれ」
熊がブラウン、鳥がパープルとピンクだった。いずれも、安いマナにしかならない。だが、それをマジックアイテムに加工できる僕にとっては、価値がある。……もっとも、中途半端ならクリアの方がマシだ。
「皮は、売ろう。
肉も、余るようなら干し肉にして売る。
干し肉ぐらいは、作れるだろう?」
調味料はある程度用意してある。きちんと作れば、干し肉は美味いものなので、出来が良ければ僕が買い取るつもりだ。硬いだけの干し肉しか作れないようなら、安く売ってもらうしかない。それでも、保存食としての需要はあるはずだ。
「あの……」
「言っとくが!」
何か言いたそうだったが、釘を刺しておく。
「利益が上がったら、そのうち幾らかは、僕に納めてもらう。
いいな?」
「「はいっ!」」
あとは、ミリア辺りに手伝ってもらえると良いのだが……
まぁ、軌道に乗るまでは、僕が干渉するしかあるまい。
ルシエルが手伝ってくれるなら、国の運営が飽きたら、国を譲るのだが……
まだ、僕は子供だ。もうじき8歳になるから……4年。大人になるまで、4年ほどの時間がある。
ゆっくり。今はまだ、ゆっくり準備していていいだろう。
……ただ――
国を作ることが、僕のためになるとは、まだ、どうしても思えなかった。