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僕は将来、魔王になる男だ!!  作者: 風妻 時龍
1章.学校篇
16/79

15.領地

ストックがまだあるので、今日も0時・7時・19時掲載したいと思います

※誤字を指摘されたので、直します

 母親の方はミィシャ、娘の方はミリィと名乗った。

 店の前で待ち合わせ、転移魔法で目的の場所に着く。

 目の前には一軒のログハウス、周囲には、ひたすらの森が広がる。


「……ここは?」

「将来、僕の領地にしようとしている場所の一角。

 今のところ、誰の所有物でもないし、所有権を主張する奴も、多分、いない。

 そもそも、周囲には人と呼べるような存在は確認できない。

 ……狩りは出来るだろう?

 ここで、狩りをしながら暮らすと共に、色々、僕のために働いてもらいたい。

 質問は?」


 二人は顔を見合わせる。


「……獲物は、探せばいると思いますが、逆に、獲物が多すぎて、自分の身の安全を確保できない気がします」

「ちなみに、このログハウスの周囲には、ごく限られた者を除いて、自分の意思で近付くことは出来ない。安全だと判断してもらって構わない。

 これを渡しておこう」


 渡したのは、ペンダントを1つずつ。装飾はする時間がなかったので、ごくシンプルに。だが、そこに秘められた便利機能は、ブラックマナ1個の価値では釣り合わない。


「これを、常に身につけておくこと。どんな時でも、外すことは許さない。

 ちなみに、これを外すと、僕の方では、君たちは死んだものと判断する。

 緊急の時には、この石を、思いっきり力を入れれば指先の力でも砕けるから、そうすること。但し、よほどの緊急事態の時に限っての、一度限り。

 あとは、これを通じて、僕の方から定期的に連絡を取る。

 よほどのことがなければ、これを身につけていれば、周囲から気配を知られることがないはずだし、野生の獣ぐらいなら、やり過ごせるはずだ。

 狩りをする際にも、気配に気付かれずに済むのは有利に働くはずだ」

「……しかし、私は武器がこれぐらいしか――」


 腰から抜いて、差し出してきたダガー。錆び付いて、もう使い物にならないと言っても良いような状態。


「弓は使えるか?」

「はい」

「なら、これを」


 コンパウンド。滑車式の弓だ。魔法の武器ですらない。だが、構造そのものが、この世界では金になる。


「矢も渡しておくが……先に、家に入ろう。

 ちなみに、ある程度、綺麗に使ってくれ。たまに僕も様子見に来る。

 あまりに散らかっているようなら、この家は譲れない」

「え!?譲る!?

 ……下さるんですか、この家を?」

「……ある程度、稼ぎになる活動をしてもらうから、十分な貯蓄が出来たら、買い取ってもらう。

 買い取った後のことまでは、口うるさく言わん。だが、まだ、君たちの所有物ではないという意識は持っておくように」

「はい!」


 ログハウスの中を案内する。

 2階は、寝室と物置程度のものだが、1階の設備は、良いはずだ。

 キッチン、風呂、リビング、他2部屋。

 キッチンと風呂は給水設備を共用するため、隣り合っているが、不便ではないはずだ。


「何か、要望はあるか?」


 部屋の1つに、矢を100本置いておく。「大切に使え」ぐらいは言っておいたが、言われなくても、無ければ食うに困るのだから、滅多に無くなるまい。戦闘用のダガー一本に加え、調理や様々な用途に、5本ほどはナイフも渡しておく。


「あの……水は、ここから、本当に幾らでも出るんですか?」

「壊れない限り、な。

 まぁ……万が一の場合は、近くに川もある。水は綺麗だった。

 あと、すぐに風呂に入れ。スマンが、少し、匂う。

 使い方を覚えて、こまめに入れ。

 小汚い格好をしていても死にはしないという認識でいるようなら、改めろ。

 とりあえずの着替えも、2階に用意してある。

 しばらくして、金に余裕が出来たら、自分で買え。街には僕が連れて行く。

 僕は、食事でも作っておこう。

 後の話は、食事を終えてからでいい」


 もし、僕が魔王となり、彼女らが配下になるのなら、初期の配下となる。いずれ、それなりの待遇を考えなくてはならないかも知れない。その時、粗末な身形が当たり前では困るのだ。

 食事とて、粗末なものでも食べられるのは構わないが、上品なものは食べられない、では困る。

 なので、少しずつ慣れさせようと、鶏肉と野菜のクリーム煮を作った。


「……美味しい」


 ミィシャはそう感想を述べたが、ミリィは夢中で食べている。ワインに近い酒を使ったのだが、子供でも抵抗無く食べられるようだ。


 食べ終えてから、ミィシャに洗い物を任せ、ミリィに与える役目を説明するのだが。


「これが何か分かるかな?」

「パズ草!毒草だね!」

「ミリィは、これを集めるんだ」


 ポーションの原料である。

 問題は、そのまま使っては毒があるということだ。

 特定の条件下で、毒は消えるのだが、あまり知られてはいないようだ。

 だから、ポーションの材料は、中々手に入らないと思われている。

 自然の環境でも、稀に薬の効能を持つパズ草もあるが、別の薬草だと思われていて、『ダラク草』と呼ばれて珍重されるが、厳密には同一のものだ。

 だから、僕は沢山のポーションを作れる。

 パズ草は、別に珍しいものではない。

 加工方法を知られたら、ポーションは珍しい薬品ではなくなるだろう。


「何に使うの?」

「それは、そのうち教える」


 瓶は大量に用意してあるし、メソッドも作成してある。先ほど渡したペンダントを持っていれば、そのメソッドを扱うインスタンスを所持していると見なされる。慣れれば、問題なく量産できるだろう。


「何か、質問や要望は?」

「……気配を消す効果、無くしていただけませんか?」

「……何故だ?」

「私たちは、気配を消しての狩りに長けた種族です。

 魔法のアイテムで気配が消えるのに慣れていては、勘が狂ってしまいます。

 多少、危険が増えるのは承知の上です。

 ……娘も、それが原因で死ぬのであれば、どの道、ダメだろうと」


 ペンダントの設定は、簡単に変えられるようにしてある。

 だが、枠が1つ余る。

 ……少し考えた末、一度だけ命の代わりに石が砕ける効果を与えた。

 知らなくても役には立つだろうから、敢えて言わない。

 石が砕ければ、僕も二人の危険を察知できる。


「よし。

 なら、狩りに行って来い。

 ミリィは、パズ草の群生地まで案内しよう」


 ミィシャは狩りに出かけた。日が暮れる前には戻るように言っておいた。僕はミリィを連れ、パズ草の群生する川の畔まで出かける。

 強力な毒があるので、虫も食べない草だ。1時間ほど、摘み続ける。


「よし、そろそろ戻ろう」

「はい!」


 帰ってタライに入れ、水で浸す。


「まずは、これをダラク草にする加工を行う」


 ミリィは興味津々とタライを眺める。


「魔法を使ったことはあるかな?」

「ありません!」

「じゃあ、目を瞑って」


 僕はミリィの両手を握って、心に直接、干渉する。


「ここに、魔法を使う手段があるのが分かるかな?」


 全ては、感覚的なものだ。そのメソッドが、自分の干渉範囲内にあることを、まずは知覚してもらわなければならない。


「うーん……何となく」


 メソッドの存在を強調しているから、目を瞑っている今なら、ある程度、知覚できるはずだ。


「じゃあ、それを起動してみて」


 呪文による起動の方が楽かも知れないが、これを感覚で覚えると、後々、とても役に立つ。是非、覚えてもらいたいものだ。


「うーん……こうかな?」


 メソッドを強く意識すると、メソッドの実行を行うかどうかの確認が求められる。それに実行することを意識して伝えると、メソッドが起動する。ミリィは、割とあっさり、無詠唱での魔法を使うための手段を実行した。これで、タライの中のパズ草は、全てダラク草に変質した。他の方法もあるが、魔法無しでパズ草をダラク草に変える手段は、あまり知られたくない。


「よし。

 今度は、何も補助しないから、もう1つあるメソッドを起動してみて。

 それを使うと、ポーションが作れる」

「はい!」


 メソッドの発見まで、5分。起動するまで15分かかった。あとは、品質が十分に上がるまで、一晩待てば良い。

 タライには蓋をする。品質を上げることも含めたメソッドだが、どうしても、ダラク草のエキスが浸した水に浸透するまで、一晩はかかる。その間に、品質が徐々に上がるようにしてあるのだが。あとは、その水を瓶に詰めれば、高品質ポーションとして売り出せる。薬効成分がすっかり抜けたダラク草は、食べれば良い。香りが少し強いが、慣れると美味い。


「よし、これだけ出来れば十分だ。

 あとは、これを毎日、一人でやること。

 瓶は50本用意してある。一日、10瓶ずつ作ること。

 50本出来たら、売りに行くから、一緒に来い。その次の日は、休んでいい。

 明日は瓶詰めをしてから、パズ草を摘みに行く。

 早めに、一人でこなせるようになってくれ」

「はい!」


 間もなく、ミィシャも帰ってきた。獲物は、鳥が三羽に熊が一頭。……よく、運んでこれたものだ。


「獲物を捌くとき、注意点がある」


 皮を剥ぎ、血を抜く。そして、胸の中央、心臓のすぐ近くから、石のようなものを取り出す。砂粒より少し大きい程度だ。鳥も、熊も、1つずつ持っている。


「マナ石片という。加工すれば、マナ……つまり、金になる。

 僕は、これの加工が出来る。これは、集めてくれ」


 熊がブラウン、鳥がパープルとピンクだった。いずれも、安いマナにしかならない。だが、それをマジックアイテムに加工できる僕にとっては、価値がある。……もっとも、中途半端ならクリアの方がマシだ。


「皮は、売ろう。

 肉も、余るようなら干し肉にして売る。

 干し肉ぐらいは、作れるだろう?」


 調味料はある程度用意してある。きちんと作れば、干し肉は美味いものなので、出来が良ければ僕が買い取るつもりだ。硬いだけの干し肉しか作れないようなら、安く売ってもらうしかない。それでも、保存食としての需要はあるはずだ。


「あの……」

「言っとくが!」


 何か言いたそうだったが、釘を刺しておく。


「利益が上がったら、そのうち幾らかは、僕に納めてもらう。

 いいな?」

「「はいっ!」」


 あとは、ミリア辺りに手伝ってもらえると良いのだが……

 まぁ、軌道に乗るまでは、僕が干渉するしかあるまい。

 ルシエルが手伝ってくれるなら、国の運営が飽きたら、国を譲るのだが……

 まだ、僕は子供だ。もうじき8歳になるから……4年。大人になるまで、4年ほどの時間がある。

 ゆっくり。今はまだ、ゆっくり準備していていいだろう。


 ……ただ――

 国を作ることが、僕のためになるとは、まだ、どうしても思えなかった。

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