表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は将来、魔王になる男だ!!  作者: 風妻 時龍
1章.学校篇
15/79

14.治療

 それは、店を閉めて帰ろうとした時のことだった。

 一人の猫型獣人族の幼い女の子が、僕を待っていた。


「あの……」


 僕に近寄って、声をかけてくる。何の用だろうか?


「……病気を治すポーション、売って下さい」

「……ポーション?」

「これ……代金!」


 皮袋を取り出し、口を広げて突きつけてくる。

 中身は、半分ほどがクリアマナの、本当に小額のお金だった。

 クリアマナは、ほぼ価値がない。よほど貧しい地域でなければ、通貨として使われることもない。


「……店の売り物は売れないが」

「お願いします!お母さんが死にそうなの!」

「……まぁ、診てやろう。案内しろ」

「こっち!」


 案内されたのは、スラム街だった。この街は割と豊かな街だが、それでも、貧しい者はいる。ただ……スラム街が、暴力で支配されてはいないのは幸いだ。戦闘能力がある男は、戦闘奴隷として捕らえられ、売られて戦場に送られる。女も、見た目に恵まれた者は性奴隷として捕えられるが、戦時中と言える現在、戦闘奴隷ほどの需要は無い。治安と言う面で、大きく危険性を感じるような場所には育っていないのだ。

 結果、病に苦しむ者もここには多く、満足な食事を取る余裕も無く、本来はさほど重い病でも無しに命を落とすため、スラムはある一定以上、大きくはならないようだ。


 中でも、彼女の母親は、重い病にかかっているようだった。

 左の足首に、傷がある。化膿しているようだ。


「……ディジーズラットに噛まれたか」


 虫の息。もはや、荒く呼吸し病魔と戦う体力もないようだ。


「……とりあえず、治そう」


 術式を施し、病魔を取り除き、傷口も治す。数値上の体力も回復させるが、栄養を取らせないと、ただの延命措置にしかならない。


「割に合わんが……乗りかかった船だ」


 まず、簡易的なかまどを作って、鍋を乗せ、鳥獣類の肉と数種の野菜を煮込む。恐らく、固形物を食べるのは辛かろう。必要なものは、亜空間から取り出した。石ぐらいは、その辺に転がっているものを使ったが。

 作るのは、スープ。煮込んだエキスで栄養の取れそうなものを使った。


 呼吸は落ち着いているようだ。多少、煮込みに時間がかかっても大丈夫だろう。


 十分に煮込んでから、皿に移し、ひとまず女の子に持たせる。

 左手で母親の上半身を支えて起こし、皿は女の子に持っておいてもらったまま、右手を使ってスプーンで少しずつ口に流し込む。火傷しない程度には冷ましたから、大丈夫だろう。

 時々咳き込むが、少しずつ、ゆっくりと飲ませる。


「……あ」


 半分ほどを飲ませた辺りで、薄く目を開いた母親。だが、体に栄養分が十分に行き渡っていないのだろう、それが限界のようだ。

 全く。この世がただの数値処理なら、体力を回復させれば、食事など必要ないだろうに。


「無理をするな。もう少し、飲めるな?」


 小さく頷く。


 一皿分飲ませたところで、母親を横たえる。あとは、時間さえ経てば動けるようになるだろう。

 大き目の皿を取り出して、それに鍋の中身を移し、女の子に渡す。


「好きにしろ」


 先ほどから、小さくお腹を鳴らしていることには気付いている。塩と多少のスパイスは使ったし、普段、貧しい食生活をしているなら、十分にご馳走だろう。


 母親が、助かるかどうかは分からない。だが、最後まで面倒を見るつもりはないので、ここらが引き際と見極めて帰ることにした。娘の方は、感謝の言葉を述べていたが、謝礼はいただく。先ほどの皮袋の中から、クリアマナだけを全ていただいた。一般的には利用価値など何もないが、僕にとっては違う。下手な低ランクマナよりも、最低ランクマナのクリアマナの方が利用価値が高い。

 娘は不思議そうな顔をしていたが、価値で言えば、割に合わないものの、そこそこ数があったクリアマナを同じ数集めることを考えれば、僕にとって、そう悪くは無い。

 とりあえずは、これで終わりと思っていたのだが。


 後日、二人は店に顔を出した。


「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいやら……」


 皿も、きちんと洗って持ってきて、返却された。まぁ……僕の手できっちり洗ってからじゃないと、使う気はしないが。


「……あの。もしよろしかったら、娘をいただいていただけませんか?」


 そう提案する母親を睨む。


「……奴隷として、か?必要ない」

「好きに扱っていただいて構いません」


 幸い、店に客はなく、少し話せる時間は取れそうだ。


「悪いが、僕は見ての通り、まだ子供だ。女を奴隷としてもらっても、利用価値がない。

 ついでに言うと、僕からは、打算しか感じられない。

 このまま貧乏をしていても苦しむだろうし、将来、奴隷になる可能性も十分にある。主によっては、死ぬより苦しい生活が待っているだろうし、今の生活から抜け出せる見込みもない。

 それならいっそ、恩のある相手にもらってもらって、苦しい生き方をしようが、結局、相手が悪かったら運が悪かったと諦めるしかない。運に頼るとは言っても、ほぼ無償で助けてくれた相手だから、ただ金で買い取るだけの主より、マシな主である可能性の方が高い。

 結果、主にするメリットが高い。

 ……で?奴隷を必要としていない僕に、何のメリットがある?」

「……」


 娘だけでも、今の生活から抜け出させたかったのだろう。恐らく母親の方は、食糧を得るための狩りの最中に噛まれて、病気を移された。獲物の多そうな場所までは、距離がある。結果、食うにも困る生活だったのだろう。


 ……はぁー。


「まぁ、いい。

 明日の朝、二人でこの店の前まで来い。

 役立つかどうか、試してやる。

 ……言っとくが、今まで以上に苦労するぞ」

「は、はい!」


 自分はこんなにお人好しだったかなと思いながら、サービスついでに亜空間から鳥を一羽取り出す。


「持って行け。酷使してやるから、そのつもりでいろ」

「あ、ありがとうございます!」


 ここまでサービスした理由。

 それは、もしかしたら、裏切ることのない味方に出来るかも知れないという、僕の方の打算もあった。

 国を作るのだから、人材確保は必要だ。まだ、そこまで動くつもりはなかったのだが、仕方あるまい。

 少しずつ、準備は始めているのだ。布石を打っておくぐらいは、いいだろう。

 最悪、見捨てるつもりの捨石だが、見返り無しの慈善事業はするつもりがない。

 頭の中で、明日までに準備することをまとめておく。


 ……はぁー。


 全く――

 割に合わねぇよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ