13.商売
一箇所、厳密には意味が違うであろう単語を使っていますが、感覚的にそれに近い意味の言葉を使いたく、他に思いつかなかったので、ご容赦下さい。
思いついたら、修正します。
僕は、金を稼ぐために、店を出すことにした。
店舗は既に借りている。
準備をミリアに手伝ってもらって、わずかばかりの謝礼も支払った。
基本、僕が学校を休んで店番をする。
店名は、『ブラックマナショップ』。
その名の通り、『ブラックマナ均一ショップ』であり、全品、金額はブラックマナ1つ。
つまりは。
金持ち以外はお断りなのだ。
当初、冷やかしの客しか寄り付かなかった。そりゃそうだ。ブラックマナなど、持っていたら、それなりの屋敷が買えてしまう。
たまに、万引き未遂が起こるが、未会計商品を持ち出そうとすると、店から出られないという術式を施しているので、一応、店内に注意書きも用意してあるが、無理矢理持ち出そうとする奴には、「では警備兵でも呼びましょうか?」と言ってやる。
そのうち、噂を聞きつけて、本気で買い求めに来た客が、商品を見ながら、どれを買うべきか本気で迷い始める。正直、その値段でも、鼻血が出そうなほどお買い得商品ばかりだ。
「すまない」
客の一人が、商品の1つを手にして僕に尋ねてくる。
「これの素材を教えていただきたい」
透明な刀身の剣。
目玉商品とも言える。
但し、特殊な効果は与えていない。
「水の特殊結晶です」
「……は?」
驚くだろう。
そりゃ、驚くだろう。
何せ、驚かせるために作ったのだから。
「……解けない氷、ということかね?」
「構造が全く違いますが、まぁ、そう思っていただければ」
「……製作者は?」
「僕です」
「……」
鬼人の、恐らく商人。そのオッサンが、絶句した。
「ああ、製法でしたら、恐らく、僕以外に作ることは不可能です。
……お買い求めになりますか?」
「……いただこう」
……とまあ、こんな具合だ。
そのうち、ルシエルも噂を聞きつけたのか、やってきた。
「……代金は払えるのかい?」
こっそり聞く。
「……1つか2つなら」
さすが、魔王のお嬢様だ。これは、お金を落としていっていただかないと。
「……ね、ねぇ。こんなの売り捌いて、どうするの?」
「……金儲け」
「用途は?」
迷ったが、言ってもいいだろう。
「国を1つ作ろうと思ったら、幾らあっても足りない」
「あ、やっぱり国作るんだ……」
「魔王に対抗するには、そのくらいはしないと」
僕は、狙われる可能性がある。
自分の大切なものぐらいは、護れないとならない。
「き……気が変わったら、言ってよね……」
「またあの魔法をかけられたいか?」
「き、気が変わったらよ、ほほほほ……」
この際、はっきり言うべきだろうか?
……言ってしまえ。
「野心丸出しのうちは、考えることもない。
むしろ警戒させていただく」
「え?……あ?……あ、そうかぁ……」
何故か、顔を赤くして納得されてしまった。何か呟いているが、気にしないことにする。
授業が終わったのだろうか、ミリアも顔を出した。ルシエルを見付けて、様子を窺っている。
「どう?売れた?」
「まぁ……少しは」
「……手伝おうか?」
「いや……今はいい。僕にしか使えない術式が必要になるし……人手が必要になったら、声をかけるよ。
ミリアも、今はそんなにお金に困っていないだろう?」
「うん。当面の生活は何とかなる。
……でも、高いのに、見ていく人、いるんだねぇ」
「まぁ……値段相応のものは用意した。売り方によっては、倍以上の値段で売れるものもある。
……ん?」
店の入り口から、警備兵を伴った、身形の良い男が入ってきた。なにやら、軽く興奮気味だ。
「ここだ!ここで売っている商品、全て、我が屋敷から盗まれたものだ!」
……出てくるとは思っていた、ゲスだ。ミリアは驚いているようだが、問題ない。
「何の騒ぎですか?」
警備兵に話しかける。
「店の者か?」
「ええ。そうですが」
「……まだ子供ではないか」
「……子供が、商売をしてはいけないとでも?」
「いや、そうではない。
ここの商品が、全て盗品の疑いがある」
「……証拠は?」
「しらばっくれるな!これだけのものを盗んでおいて、盗人猛々しい!」
「ここには、僕にしか作成できないものが、多数ありますが?」
「な、何だと!?」
身形の良い男が、顔色を変えて僕の胸倉を掴んでくる。
「大人しく返せば良いのだ!
さもなくば、貴様、命は無いぞ!?」
「……貴様に出来るものならやってみろ。
ああ、そうだ。既に幾つか呪いをかけさせてもらった」
「……呪い、だと……!?」
「ああ、そうだ。
貴様には、赤子すらそう殺せはしない。
……喧嘩を売る相手を間違えたな。
欲に目が眩んだか?
無事に家まで帰れれば良いがなぁ……」
気がついているのだろうか。
身につけているものが、自分の動きを縛るほど重くなっていることに。
身につけているものを重くしたわけではない。
彼の能力を徹底的に下げたのだ。
「……で?ウチの商品が、盗品であるという証拠は?」
「クッ……!
き、貴様のものであるという証拠もあるまい!?」
「だから、僕以外に作ることがほぼ出来ないものが多数ある。
……で?僕が指定したものと、全く同じものを作れたら、それに関しては、貴様の所有権を認めて引き渡そう。
だが、言っておくぞ。そこにあるポーションですら、その品質のものは、ルシファーが作れるかどうか、怪しいという代物だ。偶然では、絶対に作れない。だが、比較的近い品質のものを作れるという意味では、ここにあるものの中では、比較的作りやすいものだ。
……そのぐらいは作ってから、出直して来い!!」
「クッ……!!」
悔しそうに店を出て行こうとするが、警備兵に止められる。濡れ衣を着せて店の商品を全て奪おうとしたのだ、未遂だが、犯罪にはなるだろう。そのために警備兵を利用しようとしたのだから、事情ぐらいはしょっ引かれて聞かれるだろう。
「……大丈夫なの?」
ルシエルが聞いてくる。場合によっては、恩を売るために介入する機会を窺っていたのだろう。
「問題ない。
説明しないと、ルシファーにも同じものは作れない」
「……ねぇ。オーダーメイドは頼める?」
「別に……構わんが」
「指輪が欲しいの。ブラックマナ相当の価値のあるものだったら、何でもいいから」
「断る。そんな意味深なものを貴様には作れん!」
「……チッ!」
後日、アイツが、呪いについて苦情を言いに来たが、謝罪の言葉の一つも述べなかったので追い返し、二度とこの店に入れないように術式を施した。
まぁ、ルシファーに泣きつけば、解けるはずだ。
逆に言えば、魔王でもなければ、解けないものだ。
僕に喧嘩を売り、ただで済むと思うのが悪い。
そのルシファーだが、ルシエルの話によると、「店ごと買い占めたい」と言っていたらしい。
商品全てを見たわけではないが、あの水の特殊結晶の剣は、大層な曰くをつけられて、ルシファーはブラックマナ10個で買い上げたのだとか。
今は、それと同じ素材を作ることに、ご執心だとのことだった。