11.闘技大会 後夜祭
祭りの最終日の夜は、遅くまで、後夜祭だ。
実質、僕の祝勝会だった。
落ち込んでいるのが、ローク。
本当に、ブルーマナ1個をサフィルス先生の勝ちに賭けていたのは、ローク一人だった。
他にも、本当のことを宣言していたのは、ミリア。レッドマナ1個を僕の勝ちに賭け、ブルーマナ1個分の利益を得ていた。
セリンヌ、スティンク、カルフィナは、少しだけれど僕の勝ちに賭けていたし、売り子4人のうち、3人はサフィルス先生に賭けていたが、イエローマナ単位の可愛いもの。ミリアが勧誘していた子は、ミリアの助言に従って、僕にグリーンマナを2個賭けていた。「もっと本気で賭ければ良かった」とか怖いことを呟いていたが、賭け事に嵌るダメな子にはならないで欲しい。皆、ロークの気合に圧されて、ロークと同様の賭けをしていることにしていたらしい。
店の在庫は全て祝勝会で放出した。アルコールの一部を除いて。大人になる時のために寝かせてあった分だから、そんなに奮発は出来ないものもある。ただ、芋は、あっても用がない。用があっても、安いものだから、また仕入れればいい。例えば……芋で酒を作る時とかには。
だから、全てポテチに加工して、スパイスも少し放出して味付けし、全て、その日のうちに消費された。
ただ、ルシファーは「もっと酒出せー」と、ダメな大人のセリフを吐いていた。
給金は、まず本日の分をブルーマナ1個、最初から協力していた5人には、最初から最後まで頑張ってくれたお礼にブルーマナ1個、勧誘されて協力してくれた4人には、最後まで辞めずに頑張ってくれたことに対して、グリーンマナ3個を、そして、全員に、最終日の完売に対して、グリーンマナ2個を配った。ちなみに、仕入れを差し引いても、それでも僕には利益が残る。何故なら、「貧乏人は芋を食え!」と言われるぐらいに、芋は安い食材だからだ。……買占めその他の理由で、この町近辺では、値段が急騰して大変なことになったらしいが。
「しかし……こんなことのために、こんな本気のマジックアイテム作るとはねぇ……」
ルシファーが、店の機材を眺めて言う。
「……まぁ、子供のお遊びですけれど」
「その割に、随分な利益を上げたみたいだけど。
それに、君の中身は何歳だい?」
「……」
聞かずとも、ルシファーが『管理者』の権限を得た経緯は、僕と似たようなもののようだ。
「警戒しなくてもいい。
私が『高慢』を司っていても、君に『配下になれ』なんて失礼なことは言わないよ。
魔界は広い。
7人の魔王を以っても、支配しきれぬ。
八つ目の国が出来ようとも、困りはせんよ。
ただ……。
縁があったのだ。敵対する国にはならないで欲しいだけだ」
コイツには、聞きたいことが色々ある。
だが、他の誰かに聞かれていい話など、ほとんどない。
この場で話すなど、もってのほかだ。
「……僕は、何者なんだ?」
「この場で話せる話と話せない話がある。
分かっているだろう?
君の中身に関して言えば、君以外に知っている者がいるとは思えない」
つまりは、コイツもそのことで苦労した口か。
「……君は、何故、能力を縛る?」
「……何もかもが思い通りになるのが分かっていて、それを楽しめるような性格をしていないから、かな」
「ハハハハ、そうか。
……そうか。私は最初、力に溺れてしまったがね」
ルシファーはグラスを傾ける。少し、遠い目をした。
「あまりにも強い力を与えられた。
だから、魔王と戦うまで、私は魔界を支配するつもりでいた」
「だが、魔王同士で決着をつけることは難しいだろう」
「その通りだ!」
ルシファーは、面白そうに笑顔を浮かべる。
「お互い、能力は限界値。与えるダメージも互角。最大火力のダメージを与えても、さほど時間もかからずに回復してしまう。
魔王が、魔王を倒すことは不可能なのだよ」
「……不可能という点には異論があるが」
「奥の手でもあるのかね?
だがね。大抵の奥の手は、相手も思い浮かんでいるのだよ。
そして、魔王は死を回避する手段を用意している。
……奥の手を知られて、再び対峙する気になれるかね?」
僕は、わざわざ奥の手を知らせるのも、と思い、黙ることにした。
「魔王は、増えることはあれ、減ることは滅多にない。
ならば、せいぜい、仲良くしてはいかないかね?」
「……別に、敵対するつもりはないが、あなたに協力するつもりもない」
「構わんよ。
国を作る時は、相談したまえ。悪くはしない」
ルシファーは酒を飲み干し、グラスを置いて立ち上がった。
そして、去り際、こう言った。
「そうそう、この学校は、『ルシファー王立魔道学校』という。
その気になれば、幾らでも干渉できるのでね。何かあったら、相談したまえ」
……むしろ、干渉されるのが嫌なのだが、まぁ、それは言わないでおくことにした。