天使で悪魔
ジャンル分けの難しい小説ですが、天使が出るのでとりあえずファンタジーです。
短い小説なのですぐ読めると思います。
ここで出会ったのも一期一会、ということで御一読してくれたらとても嬉しいです。
私は天使。
天上界で死者の魂を迎え入れる仕事をしている。毎日何万人もの人間が天に昇ってくるので、休む暇なんて無いに等しい。
でも今日は久しぶりの休暇を貰った。二十四時間自由に遊べる。私は東洋の小さな島国へと足を運んだ。
このちっぽけな島に来た理由は二つ。一つ目は、最先端のファッションを取り扱っているから。二つ目は、天使という異物に大変寛容だから。
この島国の都心には変人が多いらしい。だから背中に真っ白な羽を生やしている天使が街を闊歩しても誰も恐れたり、敬ったり、警察に通報したりしない。もちろん好奇な目で見られたりはするけど、それくらいの方がむしろ心地いい。収納できる羽をわざと見せびらかせているのもその為だ。
さて。街に着地したはいいけど、服を買うためのお金を持っていない。まずはお金を手に入れることにする。
前方から若いカップルが歩いてきた。私にチラチラと目を向けながら横を通り過ぎる。そして私は目線が離れたその一瞬をついて、男の後ろポケットに差しこまれている黒革の財布を素早く抜き取る。ご丁寧にズボンとチェーンで結ばれていたので、私は手刀を繰り出て、鎖を切断した。その間、約〇・一秒。天使の身体能力は人間よりもはるかに高いので、もちろん周りには気付かれていない。
私は手慣れた動作で財布から現金を抜き取ると、有名なブランドロゴが記された黒革の財布をゴミ箱にポンッと放り込んだ。人間が思う天使像からは考えられない行為だと思うが、毎日何万人もの魂を世話している天使ならば、これぐらいの所業は神も許して下さるのだ。
私は羽をはためかせ、最近新しくオープンした服屋に足を運んだ。
そして三時間後。
店員の熱烈なアプローチに押されて、結局服を十着も買ってしまった。羽を「綺麗ですね」と大変褒めたたえてくれたので、勧められるがままに次々と服を購入していったのだ。たった一軒を回っただけでお金がすっからかんになってしまったが、別に私のお金でもないので後悔はない。むしろ盛大に浪費して清々しいぐらいだ。
だが人間界というのはプラスマイナスが平等に働いているらしく、良いことの後には悪いことが起こるものらしい。辺りが暗くなり、そろそろ帰ろうかという時に、人相の悪い若者たちに絡まれてしまった。五人ほどの集団に取り囲まれた私は、古い倉庫の中へと連れ込まれた。
こんな連中をあしらうのは造作も無いことだが、人通りの多い所で目立つことは許されないので、人気がなくなる場所に連れられるまでは大人しくしておいた。そして古い倉庫の扉がガチャンと閉まった瞬間に、私は指先から鬼火のような火の玉を発生させた。その火の玉が若者の身体に触れると、消し炭すら残さずに若者の肉体は完全に消滅した。天使たちの護身術『浄化の炎』。触れたものは天国へも地獄へも行かずに、この世から消滅する。
茫然とする若者たちに向けて、私は次々と浄化の炎をお見舞いする。一人、また一人と消えていく人間。私の身体、及び羽に気安く触った罰としては妥当の行為だ。私は容赦なく若者たちに指を向ける。
そして入口のシャッターを閉めた若者だけが残った。私は羽を揺らしながら一歩、また一歩と近付いていく。消滅した仲間たちを見て自分の末路を悟ったのか、若者の膝は震え、その震えは身体全般に伝播した。そして口を震わせながら若者は叫んだ。
「あ、悪魔!」
私はその侮蔑にも似た言葉にいたく憤慨した。
「いいえ、私は天使よ」