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お転婆がバレて社会的な死を覚悟した私、無事に社会復帰した

作者: 井上さん
掲載日:2026/07/15

名前を借りました

「1人じゃ何もできない弱虫!」


 私は叫んでいた。


街の外れで、暴漢に襲われている男を見付けて、後先考えずに突っ込んで行った。


 私は伯爵令嬢ハトホル。

貴族令嬢として、普段はお淑やかに…見えるように、令嬢に擬態している。


 仕方ないのだ。

出戻り男爵令嬢の母が、伯爵と再婚したから、私はある日突然、伯爵令嬢に進化したのだ。


 伯爵令嬢は、高位貴族の部類なので、貴族教育が厳しくなった。


 男爵家にいた頃は、お転婆の私は、近所の少年少女達と、探検したり、冒険者ごっこをしたり、とにかく身体を動かしていた。


だから、たまに発散したくなる。


ここは街の裏の方だから、他に誰もいない。


目の前の暴漢達を見る。


…群れてないと、何もできないくせに…



 3人いた暴漢の顔を、左右に持っていた2つの巾着で叩く。

ただの巾着ではない。中身は金属でできた玉…重しだ。


 元気と力が有り余っていたので、重い巾着を持って鍛えていたのが幸いし、暴漢は


「ぐえっ!」


「がっ!」


「げっ!」


 と、潰されたカエルみたいな鳴き声をあげて転び


「覚えてろ!」


 と悪役の捨て台詞を残して逃げて行った。


「大丈夫ですか?」


 襲われていた男を振り返る。


「はい…ありがとうございます…あれ?」


 男は、私の顔を見て首を傾げた。


「?」


 私も首を傾げた。


「同じクラスのハトホル嬢?」


「え?」


 まさかの知り合い?


「アモンだよ」


 不味い!


「…え…と…人違いです!それでは!」


 私は走って逃げた。


最近入学した学園では、お淑やかな令嬢で通っているのだ。

お転婆だとバレたら母に叱られる。




 暴漢に襲われた人を助けたらクラスメイトでした…なんて、どんな小説だよ!



 アモンって言ってたよね?


確か…暗くて、静かで、冷たくて誰とも仲良くしない、いつも1人で読書している眼鏡掛けてる侯爵令息…だよね?

婚約を申し込んでも断られていて、いまだに婚約者がいない。って他の生徒が言っていた。



 話した事もないのに、何で分かったんだろ?


私だって、学園ではお淑やかに、静か〜に過ごしているのに。


 人助けしたのに、お転婆がバレて社会的な死を迎えそう…


あとは、母に、お転婆がバレたって知られないようにしなきゃ…




 次の日私は、憂鬱な気持ちで学園に向かった。


昼休み。


「ハトホル嬢…ちょっと良いかな?」


 アモンに…いや、侯爵令息だから様つけなきゃ…アモン様に声を掛けられた。



あぁ…皆に私がお転婆だって言うのね…社会的に死んだ…


上位貴族だから、無視はできない。


「何でしょうか?」


 恐る恐る返事した。


「ちょっとついてきて」


 私は、大人しくついて行った。 



もしかして、お転婆がバレたくなければ言う事を聞け、とかって脅してくるのかな!?



 誰もいない中庭。木陰が涼しくて気持ち良い。


「突然なんだけど」


 はい何でしょう…?怖いよ〜!


「恋人になってほしい」


 と言ってきたアモン様。


ん?恋人?


「?????」


 目をパチクリして、アモン様を見た。


「ハトホル嬢は、恋人も、婚約者もいないよね?私は、君が気に入ったから、恋人になってほしいんだ」


「な…何でですか…?」


 動揺してしまった。貴族としては落第だ。


「昨日、街外れで…」


 ヒィ!やっぱり脅しだ!


「何が望みですか!?私を脅しても何も出ませんよ!」


「え?」


 アモン様が戸惑っている。


「アモン様は婚約者がいないって聞きました。誰からも申し込みが無いって…だから、自棄になって、私を脅して恋人にするんですか!?」


「え?違うよ?」


「最近伯爵家に来たばかりの、男爵家で育った私に、価値なんてありません!そんなのを恋人にする意味が分かりません!」


「ちょっと待って!」


 アモン様が慌てている。


「私の本性がお転婆なのを黙っている代わりに、恋人になれって事ですか!?」


「違う!!!話を聞いてくれ!!」


 大声で言われて驚いた。

とりあえず、大人しく聞くしかない。

怖いよ〜!


「昨日は助けてくれてありがとう。そんな君に一目惚れしたから、恋人になってほしいだけなんだ!脅すつもりはない!」


 え?脅すつもりはない?


安心したら、腰が抜けた。

ヘナヘナと座り込む。


「だ…大丈夫!?そんなに怖かったの?」


 アモン様が驚いて、私を抱えて近くのベンチに座らせてくれた。


「ごめんね…怖がらせて」


 アモン様が心配そうに覗き込んできた。


「いえ…」


 本当に、脅しじゃない?


「本当に、恋人になってほしいだけなんだ」


 恋人になってほしいなんて、今まで言われた事がないから、戸惑ってしまう。


「え…っと…本当に?」


「本当だよ。君が好きだ」


「…初めて言われました…ちょっと信じられないです…」


 よく知らないしね。


「そうか…話した事はないしね…」


 アモン様は、少し考えてから


「では、しばらく交流しよう。私の事を知ってほしい。私も、ハトホル嬢の事をもっと知りたい」


 そこまで言われたら、断るのも悪い。


「分かりました…」


「もし、どうしても…嫌だったら…」


 俯きながら 様が言う。


「嫌だったら?」


 私は聞いた。


「…泣いちゃうかも」


「…え?」


 泣いちゃう?


「いや…違う…その…まずは友だちからでよろしく」


 赤くなりながら、アモン様が言った。


「…はい…よろしくお願いします」


 私は、とりあえず頭を下げた。


「ハトホルって呼んでも良い?」


「いきなり呼び捨て!?」


 驚きのあまり、叫んでしまった。

被っていた猫が、どっかへ飛んでった。


「ダメだったかな?」


 上目遣いで見てきた。あざとい。

そして、断りにくい。


「…どうぞ…」


「では、私のことはアモンと」


 流されるまま、名前で呼び合う事になった。 


「さすがに、侯爵家の方なので、慣れるまではアモン様で良いですか?」


「仕方ないなぁ…」


 残念そうな、嬉しそうな顔をした。


「男爵家から伯爵家に来たなら、教育の水準が違うから、分からない事もあるだろう?私が教えるよ」


「え?良いんですか?」


 それは助かるが…良いのかなぁ?


「ハトホルの役に立ちたい」


 真面目な顔で言われると、困ってしまう。


「…よろしくお願いします…」


 私が言うと、嬉しそうに微笑んだ。


あざとい…!!


 それから、一緒に図書室へ行って読書したり、お互いの家に行ってお茶会やマナー講座をしたり、勉強会をしたりした。




 伯爵家の一員になったんだから、と母からきつく言われていた。

だから、お転婆なのを隠している…と正直に言った。


「私の前では、隠さなくて良いよ。母上には、内緒にしておくから」


 アモン様が言ってくれた。

良かった…


社会的な死から逃れられた…


 ちゃんと生きてる?



私は無事に社会復帰した。よね?






「あの2人、最近よく一緒にいるわね」


「弱みを握られたんじゃないの?」


 色々と噂をされるようになったが、悪い事はしていない。


気にせずにいたが。




「大丈夫?」


「脅されてるんじゃないの?」


「怖い目にあってない?」


「相談に乗るわよ」


 クラスメイトの令嬢3人が、学園の廊下で声を掛けて来た。


 あれ?これって、嫌みとか、意地悪とかじゃなくて、マジで私を心配してる感じ?


「恥ずかしながら、勉強を教えてもらったり、マナーを教えてもらったりしてるんです…」


 私が正直に言うと


「え?」


「そうなの?」


 令嬢達は驚いた。


「実は私、元は男爵家で、母が伯爵様と再婚したばかりだから、まだよくマナーとか分からない所があって…」


「そういえば…」


「そう聞いたわ」


 私の言葉に、令嬢達が頷く。


「アモン様が親切に教えてくれてるんです。アモン様は、本当は優しい人なんです」


「そうだったのね」


「誤解して悪かったわ」


「でも、令嬢同士のマナーとかあるから、私達で良ければ教えるわよ」


「本当ですか?!」


「クラスメイトですもの」


「仲良くしましょう」


「ありがとうございます!」


「私達、友だちよ」


 キャッキャウフフしていたら。


「そうしたら、私との時間が減るなぁ…」


 アモン様が後ろから言った。


いきなり背後に立たないでほしい。


「「「え?!」」」


 令嬢達が驚いた。


「私は、ハトホルと恋人になりたいから、アプローチしているんだ」


「え?」


「そうなんですか?」


 私は、ハッキリと言われて顔を赤くした。


「かわっ…!可愛い!!!」


 アモン様が言った。


令嬢達は盛り上がった。


「ハトホルさんは、アモン様をどう思ってらっしゃるの?」


 そう言われて考えた。


「最近友だちになった」


「友だち?」


「だって、喋った事なかったし…」


「そうね」


「一緒にいてどうなの?」


「う〜ん?」


 どうとは?私は首を傾げた。


「一緒にいても、嫌じゃない?」


 そう言われて考えてみると


「嫌じゃない」


「それなら、2人でお出掛けしてみたら?」


「お出掛け?」


「「「デートよ!」」」


 恋バナ好きな令嬢達は、キャッキャッと盛り上がっている。


恋愛には鈍い私は、置いてきぼりだ。




 何かよく分からないうちに、友だちが増えたし、アモン様とデートする事になった。






※※※


 子どもが招待されたお茶会で。


眼鏡を掛けている私に、数人の子息達が絡んできた。


「変なもんつけてる!」


「格好悪〜」


「1人だけ目立とうとしてるんじゃない?」


 こいつらは、いくら子どもとはいえ、下位貴族なのに侯爵子息への言葉使いがなっていない。


 きちんと教育しとけよ親!


従兄弟の王子よりも顔が良いから、隠しているだけなのに。


口を開こうとしたその時。


「1人じゃ何もできない弱虫!」


 女の子が私の前に立った。


「何だと!?」


 子息達がいきり立った。


「貴方達、どこの家の者よ!この子が、侯爵家のご令息だと知りながら、そんな無礼を働いているの?」


 女の子が言った。


「「「は?」」」


 3人の子息達が、怪訝な顔をした。


侯爵家を知らないのか?


「侯爵家に睨まれたら、貴方達の親が困るのよ!そうしたら、貴方達も困る事になるわ!」


「そんなわけ…」


 まだ私を侮っている。


「ラジアン家とカンデラ家とジーメンス家だな。キルヒホッフ侯爵家から、抗議をするから、帰ってから楽しみにしておいてくれ」


 私は言った。


「バカにしやがって!」


「ふざけるな!」


「覚えてろよ!」


 3人は、もし本当だったら不味いと思ったのか、逃げて行った。


バカにしたのも、ふざけてるのも、覚えておかないといけないのも、お前達だけどな。


「ありがとう」


 私は、女の子にお礼を言った。


「余計なお世話だったかな?ごめんね」


 女の子が、困ったように笑った。


「ううん。侯爵家の一員として、毅然としないといけなかった。気付かせてくれてありがとう」


「そう…それなら良かった」


「あの…」


 もっと話をしたい…


「あ、ごめん…もう行かなきゃ」


 女の子が言った。


「あ…あぁ…ありがとう」


「それじゃ!」


 女の子は、走って行ってしまった。

女の子が走っていった後を、爽やかな風が通り抜けていく。


あ…名前を聞くの忘れた…


あの子と、また会いたいな…




 以前にも助けられたのだ。

あの時に一目惚れした。好きだ。


どこの家の子か分からなかったから、数年ごしに偶然にも再会できて、本当に良かった。


 あの時は、逃げられたけど、今度は逃がすものか。



 今まで婚約を申し込まれても、あの時に助けてくれた女の子以外は嫌だと我儘を言い続け、いまだに婚約者はいない。

 だから、私が婚約したい令嬢がいると両親に告げた時は、泣いて喜ばれた。



 父である侯爵にも、ハトホルの義父の伯爵にも、了解は取ってある。

あとは、彼女がその気になれば、婚約をして、学園を卒業したら結婚する。




 ずっと一緒にいられるな…幸せだなぁ…


彼女の事を、幸せにしたいなぁ…

2人で幸せになりたいなぁ…



 幸せな未来が待っている。


花盛りの我が邸の庭で、目の前でお菓子を頬張っている可愛いハトホルを見つめて、幸せな気持ちで紅茶を飲んだ。


読んでいただきありがとうございます

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