さらっと通り過ぎていた存在消失の危機
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「……はっ!?」
あれ、俺は……
周囲を見回すと、そこは先ほどまでと変わらない、俺の部屋だった。
さっきのはなんだったんだ? 夢?
そう思ったが、違う。体にあの時感じた感覚がまだ残っている。なんだかわからないが、触れてはいけないひどく強大で異質な存在の何かに触れた感覚……あれは夢なんかじゃない。
それに見回した時に気づいたが、先ほどから時間が2時間程すぎている。体感では1分どころか10秒も経過していないのにも関わらずだ。
『儂が神であることを理解してくれたかの?』
流れたメッセージに、俺は反射的に頷きを返していた。
実際の所、神かどうかはわからない。が、間違いなくアレはまともな存在ではないのだけは認めざるを得なかった。俺の持つ常識からは外れた話のはずなのに、体も、意識も、否定する事を許してくれない。
「……一体今何をしたんだ」
『なぁに、一度精神を切り離してワシを認識できる場所に呼び寄せただけじゃよ。ただそのままだとお主が不味いことになるから何重にもフィルターは掛けてもらったが』
「不味い事って具体的に何だよ」
『存在が消滅しとったろうな』
「恐ろしい事を人の承諾なしにしてんじゃねぇー!」
只のシルエットらしきものを見ただけで意識が飛んだ事もあり、言ってる事が本当だとは言う事は直感した。ただそんな危険な事をするならちゃんと事前に説明して欲しい。この姿に変えたのが真実だとしてそれも承認もなしだったしなんで勝手に事を進めるの!? 神か! 神だからか! 神だからって何しても許されると思うなよ!
『とにかくこれで儂の事を信じたかね……』
「……7割くらい」
性別が変わった事や最初に宣言した通りマイクもないのに俺の言葉を認識している事、そして何より先ほど感じた感覚がこのメッセージが嘘を言ってないことを示している。それでも10割信じられないのは自分の中の常識が邪魔しているからだ。
『ちなみにワシがこうして文字で話しかけておるのは、直接話しかけるとパァンとしちゃうからじゃよ』
「パァン?」
『もっと具体的に言った方がよいかの?』
「結構です……」
その擬音からしてロクなことではないのが予測できるので。
『まぁよい。それじゃ7割信じたところで、もう少し詳細の説明をしようとするかのぉ。長くなるので、途中で突っ込みはいれんようにな。話が終わらなくなる』
「わかった」
確かに話す内容一つ一つが常識外れで突っ込みたくなる内容なので、その都度茶々をいれていたら一考に話が進まないだろうしな。
そうして始まった話は確かに長かった。軽く1時間くらいはかかったんじゃなかろうか。要約すると──
まず、この最高神とやらは俺達の世界の神ではない。──もっと上位の神だ。
俺達の住む世界はとある空間に浮かぶ世界の一つに過ぎないらしい(ただしその中ではかなり高位の世界との事)。この最高神はそのとある空間全体を支配下に置く神なのだそうだ。ちなみに、俺達のいる世界にも当然神はいる。
さっき最高神が俺を自身の近くに呼び寄せた時に俺の精神が消しとばないようにしていたのが俺達の世界の最高神だそうだ。ややこしいな。
で、だ。その数多に浮かぶ世界の中の一つが危機に瀕しているらしい。
理由は、その世界を管理する神の失策。神同士の間で生み出されたその新たな神はあまりに無能で、本来すべきではない世界への過剰な介入を行った結果その世界をボロボロにし、あげく最後は投げ出したのだそうだ。
その神自体はもう処分したらしいのだが、その結果その世界は管理する神が不在になってしまった。
神の不在は短期なら平気だが長期だと問題があり、さらに対象の世界は前担当神のやらかしですでにボロボロになっており、このままだとやがて崩壊を迎えるレベルでヤバい。
なので新たな神をあてがう必要があったが、現在その余裕のある神が存在しなかった。
対象の世界は元々の格が低く、更には現在ボロボロになっているせいであまり力の強い神が関与するとパァンしてしまう(この表現好きだな最高神)。
なので、まだ力の弱い神をあてがう必要があるが、そんな神はそうそうおらず、いくらか候補がいてもすでに別の世界の管理にどっぷりつかってしまっていたり、あるいは生まれたて過ぎて精神が安定しておらずとてもじゃないが世界を任せられる状態じゃなかった。




