シィナ
声に反応して視線を向ければ、そこに立っていたのは頭に思い浮かべた通りの人物だった。
金髪碧眼、目鼻の整った顔立ち。一回目も二回目もゆっくり顔をみたわけではないけど、しっかり頭に記憶された姿の女の子がそこにいた。
彼女は、目を見開き──こちらを見て動きを止めている。続けて騒ぎ立てられないのは助かるけど……やはり彼女がこの地域の"英雄"なのだろう。彼女自身とその英雄が一度とはいえ声を上げた相手に周辺からの数名からの視線が集まってくる。
それに気づいた瞬間、俺は即座に自身に対して認識を逸らす術の効果を少し強めた。それだけで、数名の視線がこちらから離れる。二人程何度かちらちらと見ていたけど、すぐに興味を失ったのかどこかに立ち去って行った。
……ふう。とっさに能力を強化したけど、上手くいった方でよかった。慣れないうちは対象に対して悪影響を与える可能性があるから、反射的に使うのはよくないんだけど……気をつけよう。曲がりなりにも強い力を持つからこそ、安易に力をつかっちゃいけないのである。
まぁ今は上手くいったので良しとしよう。ボクは立ち上がるとゆっくりと歩を進める。この場を離れようかと思ったけども、彼女であれば情報収集にある程度都合がいいかも、と考えたのだ。他の連中の視線を外せたなら、慌てて立ち去る必要もないと思う。
その相手の彼女自体はボクのほうへ向かってくるわけでもなく、かといって離れようとするわけでもなく、ただ眉をひそめてこちらを見ていた。
そしてボクが目の前で立ち止まったのを見て、彼女はゆっくりと口を開いた。
「……今。何か術を行使しましたか?」
あ、気づけるんだ……やっぱり実力者ってことかなぁ。これまで他の人間が気づく気配はなかったし、先ほど側にいた面々もその様子はなかったし。となると、今後はちょっと使いどころは考えないといけないな。下手な所で使って感づかれたら疑わしい事この上ない状況になるし。まぁこっちの世界の場合は最終手段として構築した体を捨てて帰っちゃえばいいんだけど。
日本の方には魔術士とかいないし、感づかれることはないよね? ……ちょっと最高神のおじいちゃんに確認してみるかな。
んで、彼女の問いに関してだけど。気づかれているのであれば否定しても逆に不信感をもたれるだけだろうし、素直にコクリと頷いておく。
「あまり目立ちたくなくてね? 意識を私達から逸らす術をちょっと使ったんだ」
その言葉を聞いて、彼女は表情を戻しコクリと頷いた。あっさり受け入れてくれたということは、こっちの世界にはそういった術もあるのかな? どういった術があるかも調べたいなぁ。どんな力を使えば目立たないか知っておいた方が良さそうだし。
「それ以外の効果はないから安心して」
多分。
彼女は怪訝そうな表情を消して、「はい」という言葉と共にうっすらと表情に笑みを浮かべた。そんなにあっさり信じて大丈夫? 自分でも結構胡散臭いと思うけど。でも彼女にとっては一応命の恩人だし、好意的に見てくれるのかな?
そうであれば、やはり彼女が姿を現してくれたのは都合がいいかもしれない。
「あの」
さて、こちらからどう話を振ろうかと考えていたら、彼女が先に口を開いた。
「ん?」
「私はシィナと申します。あの時は助けていただきまして、ありがとうございました。貴女がいなかったら、私はいまここにいません」
「あー、うん。あの時は間に合って良かったよ」
「貴方のお名前を伺っても構いませんでしょうか」
「ふゆ、だよ」
答えてから、あ、ユキの方が良かったかな? と思ったけどまぁどっちでもいいか。
「ふゆ様ですね」
「……様は呼ばれた時に目立ちそうだからやめてもらえる?」
「承知しました。ではふゆさん、と」
「うん、それでいいよ。こっちもシィナさんでいいかな」
「はい。構いません」
実年齢の俺よりは年下に見えるのでちゃん付けで呼ぼうかとも思ったけど、彼女が英雄だとするとそれをちゃん呼びとかそれこそ目立つよな、ということでさんつけである。
「それで、ふゆさん。一つ伺いたい事があるのですが、よろしいでしょうか」
「えっと、答えられる事なら?」
「では……2度目にお会いしたあの時。死んだ大地を癒したあの術に関して、教えていただけませんでしょうか」




