特技をお見せしましょう
「さて、と。これで大丈夫かな」
機材のセッティングを済ませて、最終チェック。うん、大丈夫……だと思う?
よし、配信開始!
「こんにちわー。映ってる?」
『近い近い近い』
『顔面力の暴力ぅ!』
『え、ガチ恋距離配信?』
「あー、ごめんごめん」
カメラのすぐ横に操作とコメント確認用のタブレットおいてあるから、カメラの目の前に立ってたわ。かなりドアップの超美少女(ボクの事だ)が突然配信画面いっぱいにうつった事によりコメント欄が混乱している。
とりあえず、数歩下がって距離を取る。
「あらためて、いつもと違う配信の時間なのに見に来てくれてありがとう」
『あ、髪型ポニテだ。可愛い!』
『ユキちゃん基本夜配信だもんねぇ』
『あれ、外?』
『自宅の庭?』
「いや、庭じゃなくてちょっと離れた場所にある原っぱかな」
そう、今ボクはいつもの自宅の配信用の部屋ではなくて、青々と茂った樹々に囲まれた、林の中にあるちょっとした広場にいる。周囲にはカメラとタブレット、胸元にはピンマイクを着けている。
こんな場所で配信しているのには当然ちゃんとした理由があるわけで。
「SNSで告知したでしょ? 特技を見せるって」
本日木曜日。あのくっそ混んだ週末の開けた週の、である。平日の真昼間。なのでタブレットで確認できる視聴者数はいつもより少ない。まぁこれは想定通りなのでヨシ。
本当は土日に配信したかったけど、あの混雑具合ではさすがに休むわけにはいかないし、そうすると早朝配信になっちゃうしな……というわけで諦めてお店が休みの日の配信にした。後で自分で切り抜きして動画上げればいいでしょ。
最初っから動画でいいんじゃない? とも思わなくもないけど、こういうのは"生配信"でやったのが重要だってお姉ちゃんが言ってたし。まぁ動画だけだと編集とかいわれそうでもあるし。
「ボク、体動かす方が得意なんだよね。だからちゃんと格好いいところ見せようと思って!」
『格好いいところより可愛い所見せて?』
『色白なのに、お外で遊ぶのが好きなの?』
『ユキちゃん、ゲームは上手くもなく下手でもなく、だもんねぇ』
うん、ボクちゃんと成人してるって伝えてるよね? コメント欄がなんか子供に話しかけるような感じなのが多いけど。まぁ外見上はあまり外で動き回るイメージがないのは解るけどさ。色白だし、手も足もほっそいし。あと微妙に辛辣な人がいますねぇ……
ゲームに関してはね、下手なら下手なりに楽しんでもらえそうなんだけどボクの実力普通よりの下手くらいだからなぁ……あと、下手だったらオーバーリアクションの方が受けそうだけど、現状その辺りも微妙だからなぁ……ものすごくわざとらしくなりそうで。明らかに養殖物というか。
正直、圧倒的な外見がなければいまだ視聴者数1人(お姉ちゃん)の可能性もあったんじゃなかろうか。
まぁそれもあって、今回の企画が早めに出来たのは非常に助かる。俺の場合配信の主目的がお金じゃないし(いや、生活費とか機材とかでお金は欲しいけど。そもそもまだ収益化してないんだよね)、自分の動画切り抜きだけじゃなくて他の切り抜き師とかの眼についてくれれば万々歳だ。
『それで何やるの?』
『運動するのにブルマじゃないんですか!』
「持ってないよ、ブルマなんて……」
昭和の時代なんだから、ブルマ持ってる女の子なんて殆どいないでしょ。そして俺はほんのちょっと前まで男だったので、持っていたらアレすぎる。……いやお姉ちゃん「用意する?」じゃないんだよ、配信中に変なメッセージ送ってこないで。
『ブルマはともかくとして、配信する際の格好としては地味だよね』
『ユキちゃん普段は可愛い服着てるから、運動するときも同じような可愛い感じにするのかと思った』
普段配信で来ている衣装はお姉ちゃんが選んでくれた奴だからね……今日の格好は普段のトレーニングにも使えるよう自分で買った奴なので。というかジャージで可愛さ出そうとするの無理じゃない? 可愛さ優先のそれはもうジャージではないのでは?
一応お姉ちゃんに改めて相談してみるかなぁ? でもさすがにお姉ちゃんでもその辺は無理そうな気がするけど。
ま、それはいいか。配信始まめた以上格好は今更だし。それより『何やるの?』ってコメントが増えて来たし、さっさと始めるとしようか。
「何やるかなんだけど、ボク結構球の扱いが得意でさ。最初はやっぱり一番得意なの見せようかなって」
そう言葉にしつつ、カメラの横に置いてあったものを手に取った。
「今日はこれを使ってボクのすごいところを見せちゃおうとおもいまーす」
言葉と共に、カメラの前に差し出したそれは白と黒の大きなボール──サッカーボールだった。




