「お姉ちゃん」
金、じゃないよな。そう言う事いってくるような人じゃないし。俺が首を傾げると、姉貴はくすくすと笑って答える。
「私の事は今後お姉ちゃんと呼んで。その外見だったらそっちの方が普通でしょ?」
「うえ!?」
「元々、高校の途中まではそう呼んでくれてたじゃない」
「そ、そうだけど」
なんとなく恥ずかしさを感じて姉貴と呼ぶように変えてからもう何年も立つ。今更そう呼ぶのはなかなか恥ずかしいものが……
姉貴はニコニコ笑っている。
もう俺も成人しているわけだし……
姉貴はニコニコ笑っている。
……
姉貴はニコニコ笑っている。
「お、お姉ちゃん」
俺がやや目を逸らしつつぼそりとそう呼ぶと、姉貴──お姉ちゃんは一度自分の胸の前で両手を祈るように組んで満面の笑みを浮かべると、次の瞬間には俺を胸元に書き抱いていた。
「ちょっ」
「うふふ、なぁに冬樹?」
「ちょ、とりあえず離れて……」
「なぁに、姉妹だから気にしなくていいじゃない」
成人した姉弟はそうそうこんなことしない! というか今姉妹つったな!?
「妹扱いはやめ「妹でも弟でも冬樹は冬樹だから問題ないわよ?」」
これなんかスイッチ入ってない?
「そうだ、今日は一緒に寝ようか。冬樹が中学生に上がって以来だけど、今の状態なら問題「なくはないだろ、っていうか落ち着け!」」
肩を掴んで強く押すと、姉貴はようやく離してくれた。
「あっ、ごめん」
「落ち着いたか?」
「うん。なんかお姉ちゃん呼びがすっごく懐かしくて思わず嬉しくなっちゃって。さすがにいきなり妹扱いは冬樹も困るわよね?」
「うん」
「ごめんね。こういったのはゆっくりとやっていかないとね」
「うん」
うん?
「それじゃ話を戻しましょうか。これからどうやって配信をやっていくとかいろいろ話し合わないとね。それによって準備するものも変わってくるだろうし。」
「そうだな?」
えっと、なんかさっきの姉貴の言い方がちょっと引っかかったけど、まぁいいか。
それから俺達はしばらく、二人で話し合った。どのようなキャラクターで行くかとか、どのような企画をやっていくかとか。それに二人でネットを眺めながら必要な機材とかも。配信の話以外にも、他の手法での信仰集め方法とか、いろいろ試す必要があるねとかいろいろ話し合って──そうして気が付けば、日が変わる一時間前位になっていた。
「うわ、こんな時間か。姉貴「お姉ちゃん」……お姉ちゃん、今日は泊っていくよな?」
「そうね、幸い明日は休みだし……寝間着代わりに服貸して貰える?」
「OK」
元の俺のサイズだと姉貴にはちょっと大きめになるが、寝間着としてなら大きく問題はないだろう。
「今日は後は風呂入って寝るだけかな。風呂用意してくるわ」
「お願い……あ、後一つだけ確認しておきたいんだけど」
「何?」
「冬樹、これからどこで暮らす? ここに住み続けるのは難しいわよね?」
「……ああ」
俺はこれから別の戸籍を持った人間になる。そんな人間がそのままここには住み続ける事はできない。家主が失踪して、そこに今度は(外見上は)年端もいかない少女が住みだしたら怪しいなんてものじゃないし、俺の事に関していろいろ聞かれるだろう。
そもそも、姉貴を除いた交友関係はすべて断ち切る事になる。正直こんなふざけた事情を話せる相手なんて俺には姉貴くらいしかいない以上どうしようもない。正直悲しいなんてものではないが、致し方ない事である。
そもそも今の俺の姿を見て同一人物と気づく人間なんているわけないから、わざわざ姿を隠す必要はないが……
「でもできれば、しばらくは引きこもりたい所だよな」
「まぁ知名度が上がり始めたら、面倒な事になりそうだしねぇ。その外見だとどうしても目立つし」
「一応神の力で人の意識を逸らして注目させないって事はしていいらしいんだけど、人の意識への干渉はそこそこ力を使うらしいんだよね」
「ふむ……将来的にはなんとかする術はあるわけか」
俺の言葉に姉貴はそう呟くと、また少し考え出した。とりあえず風呂支度してくるねと告げると視線はこちらに向けないまま頷いたので、風呂場に行って給湯の設定を行う。
そして戻ってくると、顔を上げた姉貴が俺の顔をじっと見つめていった。
「ねぇ冬樹。田舎に住む事に抵抗はないかしら?」




