一本先の勇気
勇気の一歩を踏む、きっかけは一本だった。
練習が終わった後、柔道場の空気がひんやりと冷えていた。汗をかき終えた体に、次第に心地よい疲れが広がっていく。柔道部のエース、**藤田優斗は、今日は少し余裕のある表情で、練習を終えたばかりの結城里香**に向かって歩み寄っていた。
「お疲れ様、里香。」藤田は軽く笑って声をかける。
里香は肩をすくめて、少し息をつきながら振り返った。「お疲れ様、藤田くん。今日はちょっとキツかったけど、なんとか乗り切れた。」
「それはよかった。うちのバスケ部も練習熱心だよな。」藤田は彼女を見ながら言った。少し照れくさそうに笑う里香を見て、心の中で少しだけ胸が高鳴るのを感じていた。
里香は肩を回しながら答える。「まあ、やるからには結果を出さないとね。でも、柔道部も大変じゃない?」
「まあ、強くなりたいからね。」藤田はそう言って、腕を組んだ。
その瞬間、理沙はふと思い出す。柔道部の練習で何度も藤田が見せる巧みな技、特にその強さを引き出す大外刈りからの連絡肩車は、まさに彼の得意技で、まるで流れるように次々と繋がる。まさにその技が、里香の記憶に焼きついていた。里香は柔道をする藤田に惚れていた。
「藤田くん、大外刈りからの連絡肩車、すごくかっこよかった。あれ、まるで一つの流れのように完璧に決まるよね。」里香がその技について話し始めると、藤田は少し驚いた表情を浮かべながらも、口元を少しゆるめて答える。
「ありがとう。あれは、練習で何度も失敗してやっとできるようになったんだ。君が言うように、一つの流れで決めることができるようになると気持ちいいんだ。」
その言葉を聞いて、里香は少し目を輝かせる。「バスケでもあんな風に、無駄なく流れるように動けたら…同じような感覚を持てるんじゃないかな。」
藤田はにっこりと笑った。「バスケも、同じように流れ...チームの流れが大切だよな。」
その瞬間、里香はふと足を止め、藤田をまっすぐに見つめた。これまで何度も交わした言葉の中で、なんとなく通じ合っていると感じていたけれど、今の自分の気持ちはそれ以上に強くなっていた。
「藤田くん…」理沙が口を開こうとすると、藤田も彼女を見つめ返す。
「何か言いたいことがあるのか?」藤田は、少しだけ真剣な表情を浮かべる。
里香は少し恥ずかしそうに目を逸らしながらも、決意を固める。そして、心の中で何度も繰り返した言葉を、やっと口に出した。
「私、藤田くんのこと…好きなんだ。」
藤田はその言葉を聞いて、しばらく無言で立ち尽くす。しかし、その沈黙が長く感じたのは理沙だけではなかった。藤田もまた、心の中で迷いが生じていた。彼女が見せる真剣な表情に、つい心が揺れてしまった。
やがて、藤田は少しだけ微笑みながら言った。「里香、俺も…実は君のことが気になってた。」
その言葉に、理沙は思わず目を見開く。驚きと喜びが一気に込み上げてきた。
「本当に?」里香が少しだけ震える声で言うと、藤田は頷きながら少し顔を赤くした。
「うん、ずっと気になってた。ただ、俺はどうしていいか分からなかった。でも、今なら分かる。君と一緒に歩んでみたいって。」
その言葉を聞いた瞬間、里香の胸は高鳴り、嬉しさと安心感でいっぱいになった。彼女は笑顔を浮かべ、藤田を見つめながら静かに言った。
「じゃあ、これから一緒に頑張ろうね。」
藤田はその言葉に答えるように、少しだけ真剣な表情で頷いた。そして、二人の間に、言葉では表せない新たな絆が生まれたことを感じ取った。
こんな青春を送りたいという気持ちから書きました。
学校での青春はその後に待ち受ける就職という熱い夏を乗り越えるためにあるものです。
精一杯青春を謳歌してください。