その日(2)
「ぎぃぃやぁぁああああ!!!!!」
木々が渋滞し自然彩る森の中で、尻尾の生えた森の動物たちに二足歩行の全力疾走を見せつける青年。
「ぬぉぉわぁぁああああ!!!!!」
腕を直角に曲げ指を揃えて腹を叩けるほど膝を上げ必死に走っている。
膝から下の両足は淡い水色の細くしなやかな毛に覆われ、丸みを帯びた足の爪は獣のように短くも鋭い。
「ブフゥン!」
後ろを追随するのは、180cmほどある青年の胸ほどの高さ、細身だが少し筋肉質な青年の体の三倍ほどの幅を持つイノシシがまるで我が子を奪われたかのような血眼で四足歩行の力走を披露している。
「ハッハッハッ!大物連れてきたな!?あと少しだ!頑張れアラン!」
青年より少し背が高く、肌の黒い筋骨隆々な白髪混じりの男が青年とイノシシの上げる土埃を眺めながら腕を組んで声援を送る。
「んんんおおおおおお!!!!!」
ラストスパートと言わんばかりに加速するアランと呼ばれる青年。
「ブヒィィィイイイイ!!!」
イノシシもさらに毛を奮い立たせ、土埃を増しながら速度を上げる。
見えた...!
アランの目には森の隙間に不自然に空いた広場とその先に待つ仁王立ちの男。
「だぁぁああああ!!!!」
広場の入り口から男の足元まで。10mはあろう距離を空中を駆けるように跳ぶアラン。
着地したと思われたアランは砂埃に引っ張られているかのように地面を滑っていく。
「ぶへっ!」
全身を木に受け止められ、側面を撫でるように落ちる頭。
木の根に頭をうずめるように腰を折るアランの足はいつの間にか人の裸足になっている。
キラーン☆
先ほどまでの勢いを完全に失ったアランの突き出たお尻が広場手前のイノシシの眼を光らせる。
勢いそのままに突進するイノシシ。
「ブヒィ!…ブヒ!?!?ブヒィィィ…」
お尻を突こうと広場を走ったイノシシは中央に空いた落とし穴に気付かず落ちた。
「ハッハッハッ!思ってたよりうまくいったな!なあアラン!」
高笑いと共にご機嫌の面持ちで振り返り、伸びるアランにグッと親指を立てる男。
「そ…そうだね…父さん…」
お尻をピクつかせながら返事をするアラン。
「ブヒィ…」
イノシシも深めに掘られた穴の底で負けを認めたかのように返答した。