6言目 ………、えっ、さっきまでの何か色々と否定してませんでしたっけ???????
話を進めたい。
それから、ひじっ…、じゃなくて、世恋ちゃんは、私をぎゅぅぅぅっと抱きしめ幸せな笑顔で浮かれていた。可愛いな、さすが美少女と思いました。
ちなみにですが、この時の私は、何かを悟ったような穏やかな顔で、無抵抗にひっ…、世恋ちゃんからの喜びの抱擁を受けております。
あと、これが重要なのだが、『もう、私たち友達なんだからっ!水野さんの事これから、透ちゃん♡て呼ぶねっ!!透ちゃんも、私の事、世恋って名前で呼んでね♡』という風にひじっ…、では無く、世恋ちゃんからの提案があり、ひ、っ世恋ちゃんと呼ぶ事した。呼び捨てでないのは…、察してくれ。しかし、中々これが難しい。が、呼ばないとなんか、闇堕ちしそう雰囲気なんだよな…提案された時も…なんか、目が……いや、これは考えないでおこう…考えたらヤバいと本能が告げている。
…世恋ちゃんは可愛い。これは、世界の真理。うん。…ここ、重要なのでテストに出します。
こんな感じで、世恋ちゃんと私が……、と言うよりも主に世恋ちゃんが、きゃっきゃっウフフッと、此処は私たち二人だけの特別な空間であるような雰囲気を形成していると、
「あ、あのぅ…よ、よろしいでしょか?」
遠慮がちな感じで、リリィが話しかけてきた。
リリィ、忘れてた……、訳じゃないんだよ???
リリィが話しかけたとたんに、きゃっきゃっウフフッとしていた世恋ちゃんの空気が、ぴたりと凍り付くように固まった。
そして、世恋ちゃんはリリィの方にさっきまでの笑顔を、すんっと消した、無表情を向けている。
………、ゑっ??????
リリィは、世恋ちゃんの様子に気が付いていないのか、気にする様子がなく、目を瞑って、呼吸を整える為に、一度、息を深く吸って吐き出す動作をすると目を開き、手を前で揃えて、
「この度は、私の《聖女召喚の儀》により、無理矢理にこの世界へ招いたこと、心よりお詫び申し上げます。」
と、言って、腰を折り深々と頭を下げ謝罪してきた。
私は、世恋ちゃんに抱きしめられたまま黙って、二人の様子を見ていた。
「セレン様の先ほどの涙を見て、目が覚めました。私は、なんと愚かな事をしてしまったのだろうと…。セレン様は《聖女》である前に、一人の、か弱い守られるべき普通の人間の少女だと、いうことを失念していました。私は、只々、《聖女召喚の儀》の成功に喜び、己の都合しか考えずに、セレン様を《聖女》特別な存在という認識でしかとらえずに本質をないがしろにし、セレン様に《聖女》という役を押し付けて、セレン様を傷つけた。そして、極め付けに、関係のない少女をも巻き込んだ、これは許されざる行為だと考えております」
「…」
頭を下げたまま、謝罪の言葉を紡ぐリリィ。そんな、リリィを静かに見つめる世恋ちゃん。
「許してもらおうと、思ってはおりません。これは、ただの私の自己満足の為です。」
「…」
黙ったままの世恋ちゃん。……、あのぅなんか、目がに温度がないような?
「……、お怒りはごもっともです。頭を下げたからなんだと。自分たちは帰れる保証のない、ましてや、危険な状況にある異世界にいきなり連れてこられ聖女だなんだと言われ、不安でたまらないと。私に何が分かるんだと。罵りたいでしょう、恨みたいでしょう。…、もし、私も同じ立場ならば同じことを思うかと思います。」
「…」
「しかしっ!!どうか、どうかっ!!私の話を聞いてお力をお貸してくださいませんか!?!!?この世界を救うには!神災害に対抗するにはっ!!もう、《聖女》しか、持ちえない、固有能力【女神の器】に縋るしか方法がありません!!私たちセルファルーナの民では、どうしても神災害に対抗出来ず、どうすることもできないのですっ!身勝手な事を言っているのは重々承知です!お力を貸して頂けるのであれば私はどうなっても構いません。私を奴隷でも、下僕でも、お世話係でも、なんでも好きなように扱って下さい!!確かにっ!私は!!己の矜持の為、私を、馬鹿にしてきたあの者たちに一泡吹かせようと、決して成功しないと言われていた《聖女召喚の儀》を自己判断で行い、セレン様方を此処へ招きました。これに、言い訳はございません。ですが、それだけが《聖女召喚の儀》を行った理由ではないんです。私は、ただ、自分の故郷である。この世界の崩壊を何としてでも食い止め、大切な家族を、家を、帰る場所を、守りたいのですっ!!!それには、聖女様のお力添えがどうしても必要不可欠と、どの様に文献を調査しても同じ結論に辿り着きました!!セレン様っ!!どうか、どうかっ!!!何卒、何卒お力添えをよろしくお願い致しますっ!!!」
リリィは必至だった……。必死にこの世界を…、自分の大切な家族を守る為に頭を下げている。
やめてよ…、そんなことしたら、私の海界の民と被って見えちゃうでしょ?
どうでもいいとか思ってた、この世界を…、見捨てて、簡単に帰れなくなりそうじゃない…。
確かに、世恋ちゃんを無理矢理呼んで、泣かせた事は、腹立たしい。
けど、海界神は、必死の覚悟を決めて、頭を下げるリリィを、簡単に見捨てるほど鬼畜ではない。
だから、今、私は、神の本能で、手を差し伸べて、救済をしたくなっている。
世恋ちゃんだけ帰して、私は戻ってくるか?
いつの間にか私は、リリィの様子心揺れ動かされ、世恋ちゃんと帰る事ではなく世恋ちゃんを帰す事を考え、リリィに集中してしまい、世恋ちゃんの様子を見ていなかった。
「…、それ、今、言うことですか?」
「「え?」」
凍るような冷たい声に。私とリリィの声が被り、同じタイミングで世恋ちゃんの顔を見た。
そこにいたのは、さっきまでいた、【不安いっぱいのか弱い普通の少女】ではなく、【冷酷無情が似合う無機物のような冷徹な女性】だった。
「セっ、セレン様???」
リリィは、世恋ちゃんの先程までの、普通の少女の様子とは違う、冷徹な女性の様子の変化に驚いたのか、戸惑った表情と若干震える声色で世恋ちゃんの名前を呼んでいた。
そんな、リリィの様子を全くもって気にしてないのか、世恋ちゃんは無表情を変えずに、
「……リリィさん、それ、今、言うことですか?だったら、今の状況、見てわからないんですか?今、私は、透ちゃんとイチャイチャしてるんですが??…、もう一度、言いますけど、それ、今、言うことですか?」
そう、言葉を発し、私を抱きしめる力を強める世恋ちゃん。
(世恋ちゃん…、少し苦しい)なんて思いながら、私も世恋ちゃんの変化に、啞然として、言葉が出なかった。
「えっ」
戸惑うリリィ。
世恋ちゃんの話は続く、
「私の、愛しい、憩いの、時間を、邪魔する、つもり、ですか?」
一言、一言、区切って大事な内容を強調しするかのように穏やかに言葉を紡ぎ、そう言い切った。
彼女の顔は、無表情…、から、微笑みに変化はしていたが、『さっきまでの、晴れやかで、温かな、可愛らしい笑顔は、どこに行ったのかなぁ?家出してしまったのかなぁ??……、いま直ぐ、ダッシュでっ!!帰ってこーいっ!!!』と心の底から叫んでしまいたいほどに、どこにもその温かさは見られず、
あるのは、顔に影を落とし、絶対零度で、てめぇを絶対に死んでも凍らすぞという意思が見える、雪女も裸足で逃げていくような、とてつもなく温度の低い、恐ろしい微笑みだった。
「はひゅっ…;;」
その、笑みを正面から受けたリリィは、変な鳴き声を上げて、震えている様子は、
さながら、肉食獣を前にして、今にも、今日のご馳走になりそうな哀れな子ウサギのように見える。
幻覚かな?ぴるぴる、ぷるぷる、震える耳としっぽが見える。……、ヤバい、さっき、リリィを幼子認定してしまったから、なんか、こう、可愛く見えてしまう。……、騙されてはダメよ、私っ!!リリィはヤバ女なんだからっっっっっ!!!!!!ほら、繰り返すっ!!リリィはヤバ女っ!リリィはヤバ女っっ!!…、でも、やっぱり、可愛いな。リリィのくせに。
…あっ、そういやこいつ、見かけだけは、一級品の美女だったな、奇行のせいですっかり忘れてたわ…。
「リリィさん、私、やっと、色んな、努力が、報われて、大好きな透ちゃんと、お友達になれたんです。そして、こうやって、合法に抱きしめてこの柔らかさを堪能しても良い、役得な権利がある立場になれたんです」
「ひょっ…!?」
「……、分かりますか?やっっっとの、努力が報われて、愛する透ちゃんを抱きしめている。今の私の気持ちが??…私、世界の中心で『透ちゃんLOVE♡』と、大きな声で叫びたいくらい、さいっこうに、嬉しくて、幸せなんです」
怖い笑顔から一変して、とろけている様な恍惚とした表情を浮かべ、頬を赤く染めながら、本当に幸せそうに、そう言った。
その表情は、世恋ちゃんが美少女だからなのもあるだろうが、100人中1000人の心臓を射止め、トキメキで心臓発作を起こさせ、息の根を止めるくらいの威力が有りそうな甘ぁ〜〜〜い、表情だった。
……、あっ、危なかった〜〜〜;;正面から喰らっていたら、死なないけど、トキメキで死んでしまうかと思ったぁ;
「ふみゅっっ!?」
世恋ちゃんのあの、殺人級の表情を見たリリィは、表情の温度差についていけなかったのだろう。顔色を、青から赤に、赤から青にと、寿命が切れそうな蛍光灯のみたいにチカチカと変えながら、また、変な鳴き声を上げていた。
……、本当に、リリィのくせに、子猫みたいな、可愛い声出しやがって、…幼子可愛いと思ってしまうじゃないか、コノヤロー!!
それはそれとして、顔色、人間やめてんな。
「…、もう一度言いますけど、そんな、私の、愛しい、憩いの、時間の、邪魔を、あなたはしたいんですか?」
世恋ちゃん、また、無機物みたいな色の無い無表情なってる。
…なんか副音声で、『殺すぞ』が聞こえる気がする……。
美少女の無表情は恐い…。でも、顔が可愛い。
そんな、無表情の美少女に、怯えている、リリィは、このままでは話が進まないと感じたのか、勇気を振り絞るように震える声で、話しかけた。
「っ、セ、セレン様!おっ、お、お怒りは、ごもっともです。私はっ!!自国の為に、関係が全くないあなた様を巻き込みましたっ!!謝りっ、続けたとして、その怒りが、帳消しになる訳ではない事も解っていますっ!!ですが、話を、話だけでも、聞いて頂けないでしょうかっ?!?!!」
「……、邪魔、したいんですか?」
「じゃぁっ、邪魔?!??!?!?いっ、いえ!?じゃ、邪魔をしたくて謝った訳では無く、ただ…」
「…」
「ただ、謝ったのは、自分の過ちに気付き反省したからなのと、セレン様に信用して頂きたいと、思ったからです」
「…信用」
「そうです。己の過ちを素直に認めずいる輩など信用に値しません」
「…」
「ですから、あなた様に信用して頂くには、今は、こうする他ないと思い、頭を下げました」
リリィは、話すことによって、落ち着いてきたのか、段々と声に震えがなくなっていき平常心を取り戻しているようだ。
先ほどのように狼狽える様な視線はなく。今は、真っ直ぐに世恋ちゃんを見つめている。
「これから、どの様な事態が起きようとも命をかけて、守ってみ「要りません、そんな重いもの」
「へっ、?」
世恋ちゃんは冷え冷えするCOOLな態度で、リリィの言葉を遮った。
リリィは、先程の真剣な表情から一変して、少し驚いた表情をしていた。
「リリィさん、何か、勘違いしてませんか?」
「かっ、勘違い?いったい何を?」
「…、私が今怒っている理由です」
「えっ、?怒っている理由ですか?」
「そうです、リリィさんは私をここに喚んだ事を反省して、謝罪しているみたいですが、別に、連れてこられた事に対して、混乱はしましたけど、怒ってはいないですよ」
「お、怒っていない?」
……、はい??お、怒ってないの???世恋ちゃん、最初から、あんなに感情的になってたのに??????????あるぇ???????
世恋ちゃんの言葉を聞いて、混乱状態になった私を置いて、二人の話は続く…。
私、ここに来てから、混乱しかしてないような???…、まぁいっか。
「そりゃ、もしも、一人でこんなファンタジーなとこに、喚ばれたら怒りのあまり何をしたのか分かりませんが…」
「ひえっ!」
「でも、リリィさんは、私だけではなく、私の愛している透ちゃんと一緒に喚んでくれ、あまつさえ、吊り橋効果が期待出来る舞台まで用意してくれて、水野さんと呼び続けた名前を、透ちゃんと呼べるまでの仲に進展させる切っ掛けをくれた。そんな、恩人の様な人に手を合わせて感謝すれどもそんな些細な事で怒ったりしませんよ?そこまで、恩知らずでは無いので」
「ゑっ?」
「そういえば、さっき、おしゃっていた、《聖女》のお力添え?でしたっけ?いいですよ。私の何かが必要なんでしょ?リリィさんは恩人ですから恩返しとして手伝います」
「!!!!っ本当ですか!?!?!!」
「はい、本当です」
………、えっ、さっきまでの何か色々と否定してませんでしたっけ???????
話が進まない