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5言目 この子は私が見てないと、なんかヤバい気がする。

楽しんで読んで下さい。


 《個人能力一覧ステータス》が表示され、聖川さん、リリィ、私は各々違った反応をしていた。


 聖川さんは、《職種クラス》を確認したのだろう「う、嘘ぉ…」と呟きながら、翳していた両手の力を抜き、肩を下げだらんと腕を垂らし、呆然として、顔色を悪くしていた。無理もないだろう…自分は聖女ではない、聖女であるはずがないと思っていたのに、それが覆され自分がこの世界に喚ばれた聖女だと現実を突き付けられたのだから。


 それと反比例するように、リリィは聖川さんの《職種クラス》を確認すると、頬を上気させ桜色に染め、目は大きく見開きキラキラとした輝きを放ち、口はにっとするように口角を上げて笑みを作ると「ほら、やっぱりっっっ!!!!!!」と声を張り上げ、すごく嬉しそうにニコニコしている。すごく、とっても嬉しそうだ。……結果は分かりきっていたけども。分かっていたけどもっ!聖川さんの様子が見えないのか、このやばじょはっ!!ちったぁ聖川さんの事も考えんかっっ!!!このっ馬鹿っん子がっ!!!!


 と、二人の様子を見て、それぞれに感想を抱きながら、私は、(異世界の女神(ユーティカルナリア)の加護って…何?ユーティカルナリアって…わ、私の事、だよね?なんで、…聖川さん に()()()()??そんなの与えた覚え、これっぽっちもないのだけれど???なんでじゃ?????)と言う感じで再び混乱していた。


 「これで、セレン様が聖女だと言うことが証明されましたね」

 ニコニコ笑いながら、聖川さんに声をかけるリリィ。その声を聞き正気に戻ったのか、リリィを見ながら泣きそうな顔をして眉を顰め、声を震わせて小さな声で聖川さんは言った。

 


 「わ、わたし…聖女っ……なの?」

 




 


 

 私は、彼女を抱きしめていた。




 思考も、感情も、何もかも放り出して、神の本能のままに、

 彼女の、頭を自身の胸に押し付け強く強く抱きしめ、


 「大丈夫、大丈夫ですから、私がいますから……」


 そう、声を掛けていた。小さな幼い子、か弱い可愛い子、抱きしめたのは、水野みずのとおるではなくユーティカルナリアポセイドンアトランティスという一柱ひとりの神として、小さくか弱い女の子を、どうしていいのか分からない泣きそうな迷い子を、守る為に。


 「もう、我慢しなくていいですよ。私がいますから…泣いてもいいです」

 そう言いながら、何度も、何度も、胸の中にある桜色の髪を、涙を促すように優しく撫でた。




 「…、うっ……っぅあ…っぐすっ、ぅっえっ……み、水野さんっっっ!!!うぅぅ…」


 自分がしっかりしないと、一人で何とかしないと、頑張らないと、守らないと、そんな色々な事を考えながら耐えていたのだろう、彼女は私の背にすがる様に両手を回し、強く抱きしめ返し、胸に顔を埋め、肩を震わせ、声を詰まらせながら泣いていた。


 「一人で抱え込まないでください。…愛しい子。大丈夫です、大丈夫ですから…、」

 「ぅぅぁぁあ…っう…うぅ……、うぁぁ……、」



 その様子をリリィは黙ってみていた。

 




***





 「うっ…ぐすっ……っ、あっありがとう。水野さん、もう、大丈夫だから…、」


 しばらく、私の胸で泣いた後、落ち着いてきたのか、聖川さんは、目元を赤くした顔を上げ、背にしがみついていた両手をゆっくりと離し、少し距離をとってから、右手の人差し指の背で涙をぬぐうように、右目の目尻を軽くなでながら恥ずかしそうに少し頬を染め、はにかみながらそう言った。


 その、可愛い笑顔を見て安堵した私は、顔が緩み「良かったです」と、自然と微笑んで…、

 






  正気に戻っていた。

 

 (…………、ぁぁっぁああああああ!!!、ほ。本能で、聖川さんをだしきめてしまった!!!!?!!??!なんて事をしたんだっ私はっ!?!!?阿保なのかっ!?!?いきなり抱きしめるとか、変態かっ!!痴漢かっ!?……、聖川さん気持ち悪いとか、思ってないかな?い、いきなりだったし、[何してんだ、こいつ]みたいな事、思ってないかなっ!?!?…うぅっ、だ、だってだって、しっ仕方ないだろ!?幼子が、あんなに小さな可愛い子が!!我慢の限界超えて、泣きそうになってるんだよ!?!?!?!!ここで抱きしめないで、何が、女神様だよっ!!!女神なら、しっかり、抱きしめてこそ女神でしょっ!?!?!!ちがうっ??!!?!)


 正気に戻った私は、微笑みの状態のまま硬直し、自分の行いを正当化するような言い訳を早々と並べ立て、うるさく、無言の逆切れをしていた。

 

 そんな、無言の言い訳をしている私の前で、聖川さんは右手を軽く握り、口許にあてると、何かを、思い出したかのように「ふふっ」と可愛らしい声を出して笑みを浮かべ、小声で呟いた。


「やっぱ、優しいな水野さんは……、()()助けられちゃった」



 「えっ?」

 どういう意味か分からずに、キョトンっとする私。



 「何でもないよ。…それより、ねぇ、水野さん。その、良かったらなんだけど、此れからも、さっき、慰めてくれた時みたいに、怖がらずに、私と話してくれないかな?」

 「えっ?」

 

 口許に持っていった右手を降ろし、身体の前で、左手と組み合ってから、

 私を優しい眼差しで見つめ、そんな提案をする聖川さん。


 「その、いつもさ、私、水野さんに、急に声を掛けちゃうでしょ?…だから、水野さん、びっくりしちゃって、目が合わなかったり、小声で震えながら返事したりして……、私、怖がらせてたよね?」

 「っ!?」


 提案した後に、見つめていた視線を組んでいる両手に移し、伏し目がちになりながら言葉を続け、


 「怖がらせて、ごめんなさい…、」

 「!?!!?」



 意を決したかのような表情で、再び目線を私に合わせて、見つめてきた後に頭を下げ、謝ってくる彼女。


 そんな、彼女に、私は…、



 (ち、違うよっ!?聖川さんのこと怖いだなんて思ったこと一度もないよっ!?!?!!?ただ単にそれは、私の、コミュニケーション能力皆無のせいだからっ!!!!!聖川さんは、なんっにも、これっぽちも、ミジンコだって、悪くないんだよっ!?だから、そんな、「怖がられている私から、こんなこと言っても大丈夫かな?」みたいな顔しないでっ、大丈夫だから、本当に、大丈夫だからっ!!こっちこそ、ごめんっだよっっっ!!!!)

 

 という感じに、声を出して弁明したいのに、私の憎いコミュ障が邪魔をして、言葉は詰まり、声には乗らず、心の中でのみの言い訳をしていた。…、情なっ。

 それと同時に、固まっていた微笑み崩れ、呆然とした表情を聖川さんの前にさらしていた。阿呆面である。



 聖川さんは、声を出さず阿呆面をさらしていた私に、不味い事を言ってしまった。とでも思ったのだろか、慌てた様子で、身体を起し、前で組んでいた両手を解き、胸ぐらいの高さまで持ってくると、掌をこちらに向け手を開き、左右に振りながら、


 「あっ、無理ならいいんだよっ!!気にしないでっ!これって私のただの我儘だから!水野さんに、無理強いはしないよっ!」


 と、空元気を出すかのような、誤魔化す為の笑みを見せながら言った。


 その後に、少し沈黙してから、振っていた両手を下ろして、今度は、身体の前の腹部あたりで組み、静かに微笑んで、

 

 「それに、さっき、抱きしめてもらったときに、なんか、小さい頃…、お母さんに、抱き締めてもらった事を思い出して。あぁ、この人なら大丈夫。守ってくれる。助けてくれる。って、安心感がこみ上げてきて…、だから少し、泣いちゃった。」


 そう、語った後に、


「…さっき、私が、水野さんのこと守るから大丈夫だよって言ったのに…、私、全然、水野さんのこと守れてない。むしろ、逆にこっちが、守られちゃってる」


 表情を曇らせ、自分が情けないと思っているような顔で、少し悲しそうにしながら、笑う彼女。



「ありがとうね、私のこと、守ってくれて。水野さんに、抱きしめられて『愛しい子』って言われて、元気が出た。それになんだか、水野さんの特別になれたみたいで。凄く、嬉しかった!!」

  

 一度、目を瞑り、一呼吸おいた後に、悲しそうな笑顔から、一変して、とても嬉しそうに笑いながら聖川さんは私に御礼を言った。

 

「……あっ、だからって、これからずっと、水野さんに甘えっぱなしってわけじゃないよ?私も、頼りないかもしれないけど、水野さんのこと守りたいしっ!…できれば、支えあえる関係…と、友達になりたくて、ちょっと、提案してみただけ…それだけで…、うんっそれだけだから…だから、本当に、気にしないで?」


 表情豊かに、一生懸命に自身の思いを話す、彼女の…、聖川さんの健気な心を聞いて、私は、

 



 


 「分かりました」


 すらりと、詰まることなく、自然に言葉を発していた。


 

 「え?」

 予想外のことが起きたかのように、驚いた表情を見せる。聖川さん。

 

 私は、その様子をまったく気にせず…、いや、噓をつきました。ごめんなさい。…、多少、ほんのちょこっと、小指のさきっちょくらいだけ気にして、胸の前で両手を、強く握りしめ拳を作り、意地と気合と根性を入れっ!頑張って!!話をする。

 なお、この時私は、前髪で両目が隠れていることをいい事に、聖川さんの目を見て、話していると思わせて、実際は目をおもいっきり瞑っていた。

 

 だって…、目と目を合わせてお話なんて、コミュ障には、ハードルが爆上げでしょ?下手したら、塵になるかもだし……、そういうことで。

 ちなみに、感知系統の能力は、これでも神様なんで、もちろん持っていますが、察して下さい……。

 

 ともかくっ!私にしては、頑張ってるんだからねっ!!

 誉めてもいいのよっ!!!


 

 「あっ、あの!!、わっわたし…、こ。こっコミュニケーション能力がっ!いち、著しくひっ低くって、ひと、人と話すとき、どどど、どうしても、どもったり、目を見て、話がっ出来なかったりするのです。だっだだ、だからっ、そのぅ、あ、あの…べっ別に、聖川さんが、こっこわ、怖いわけではないっ!…です。」


 「…」


 目を瞑っているので、聖川の表情はわからないが、静かに話を聞いてくれている。


 「そっそれに、わっわた…私も。ひっ聖川っさんと、とっとと、友達にっ!」


 「っ!!」


 



 


「友らちになりたいでしゅうっ!!!!」




 でかい声で、おもくそ噛んでしまった…。


 めちゃくそ恥ずかしいな、おいっ…。


 大事な場面だったのに、大きな声で、めちゃくちゃに噛んでしまった私は、瞑っていた目に、なんだか潤いを感じていた。きっと、顔は赤くなっていることだろう……。

 海界に帰って、5000年位引きこもっていたいです。…引きニート万歳。

 

 という感じで、自身を恥じていた時、握りしめていた両手に温もりを感じ、何だ?と思い。うっすら目を開けると…。


 目の前には、かわいこちゃんの可愛い笑顔があり、()()()()()


 


 塵にはならなかったが、石になった。


 「本当に、本当っ!??!!!?!?!!噓じゃないっっっ?!?!!?夢じゃないっっっっっ!?!?!!ありがとうっ!!!!水野さんっっっっ!!!!!!」


 聖川は、キャーキャーとまるで、推しに合って、ものすごいファンさをして貰った限界オタクのように、はしゃぎながら私の両手を握り、キラキラと瞳を輝かせていた。


 「ひ、ひっ聖川…しゃ「私っ!!」


 何が何だか訳が分からずに石になった身体を無理やり動かして、噛みそうになりながも取り敢えずなんとなく、聖川さんの名前を一生懸命に呼ぼうとする私の声を遮り、彼女は大きな声で、嬉しそうに声を弾ませながら、私に語りかける。


 「私っ!水野さんに()()()()()()あの日から、ずっと、ずっっっと!!友達にっ!!なりたかったのっっっっ!!!!!!」


 彼女は、話す。

 如何に、私とすっごく友人関係を築きたかったのかを、

 

「で、まずは、水野さんに私の事知ってもらおうとして、少しでもアピールチャンスがあったらっ!頑張って、何度も、何度も、何度もっ!!チャレンジして!!!毎日の挨拶はもちろんっ!!水野さんが一人でいたり、授業でグループ学習とかがあって、話しかけるチャンスがあったら進んで話しかけたり、水野さんが困っていたら積極的に手伝いに走ったり、水野さんにボディタッチする機会があればさりげ~なくボディタッチして私を意識してもらえるようにしてみたり、水野さんが好きって言ってたスマホゲームもアプリをダウンロードして寝る間も惜しんでやり込んで、より水野さんの理解度を高めたり、水野さんが使っているシャンプーが何なのかを分析して同じものを使ってみたり、水野さんの好きだって言ってたしょうが焼きを得意料理に出来るようにおいしいって有名な専門店でアルバイトしてみたり、あっちなみに!そのアルバイトなんだけどね、水野さんと出かける時に水野さんに恥を欠かせないように、私が、水野さんに貢ぐ為にアルバイト探してたら、なんと!!その専門店が丁度アルバイト募集してて、これは!!と思って応募したんだ!!!今では、懐も潤って準備万端だし、しょうが焼きだって店長お墨付きで、看板を任せられるくらいにおいしく作れるようになったよ!!!今度、ご馳走するねっ!!!こんな感じで、色々頑張って、水野さんと友達になりたいよって、必死にアピールしてたんだけど、水野さん、いつも、怖がってるみたいで、まともに話せなくって、私、嫌われてるのかな?って少し落ち込んだ時もあったんだけど…、でも、そっか…、そっか、そっか!!水野さん、私の事、嫌いなわけでもっ!怖いわけでもっ!!無いんだっっっっ!!!!!!ん~~~っ!!いま私!!人生で一番!!さいっこうに!!嬉しいっ!!!!幸せっ!!!!」

 

 




 ここは、この世の楽園です。この世の春です。今この時、世界は幸せで満ちてます。LOVE&PEACE。

 とでも、思っているようなすごーく嬉しそうな笑顔で、可愛い聖川さん。

 


 一部、聞こえちゃいけない、内容、だった気がする…。









 そういや…、よくよく、考えてみたら、私、聖川さんに、すんっっっっごい、絡まれてたような…?

 

 朝の挨拶とか帰りの挨拶とかは必ず声を掛けられていたような…?

 

 私が、一人で教室の隅っこで、ゲームしたりしてた時は、なんか、スマホ片手に持った聖川さんに、『水野さんっここ、どうしても攻略できないの、どうしたらいい?』とか『水野さん、すごーいっ!!それレアキャラだよね?』とか『水野さんはどんなタイプが好き?』とか『むしろ、私、好き?』とか声を掛けてきていたような…?


 日直の時で、先生からの頼まれものを運んでたときとか、何処からともなく現れて、()()()手伝ってくれてたような…?


 なんか、体育とかで二人一組の時は()()聖川さんと組んでいたり、二人三脚したときには、手が胸に当たってたような…?


 毎回、席替えしたら、私の席の()()()()()()のどれかに、座っていたような…?










 ……………、そっか、聖川さん、…、()()()()()()()()()()()()()















 「聖川さん……、」

 

 「ん?なぁに?」


 「友達になってください」


 「っっっっ!!!!!!よろっこんでっっっっ!!!!!!」


 気づけばすらすらと聖川さんに対してしゃべっていた。

 



 この子は私が見てないと、なんかヤバい気がする。









 「あっ…さっきは、いきなり抱き締めてごめんね?」


 「?、なんで謝るの???むしろ、水野さんのおっきくて、ふっわふわの、いい匂いのするおっぱいに包まれて、ご褒美だったよ?」


 「………、さいですか」

 

可愛いくて、健気な女の子を書いたつもりが、只の、やべぇ女になった。

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